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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第6章 私を探さないでーーー
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第53話 好きだから

「リーダー!」


管制室に隊員の声が響き、透が顔を上げる。


「妖反応です!」


「場所は?」


「駅前広場です!」


その時、モニターを見ていた隊員が息を呑む。


「え……?」


異変に気付いた紅蓮が覗き込むと、


「……紬?」


その一言で空気が凍り付いた。


透が駆け寄り、モニターを確認すると、映っていたのは紬だった。


白いワンピースを纏い、人混みの中に立っている。


だが、全身を黒い影が囲み、まるで檻の中に閉じ込められているようだった。


そしてその隣には、穏やかな笑みを浮かべる宵が、こちらを待っているかのようだった。


透の瞳が鋭く細まる。


「行くぞ!」


紅蓮が管制室から飛び出し、玲も頷いた。


透はモニターに映る紬から目を離さない。


やっと、見つけた。


やっとーーー。


絶対に、必ず連れ戻す。











駅前広場では、紬は不機嫌そうに宵を睨んでいた。


「だから言ったでしょ」


「?」


「これ散歩じゃない」


宵は楽しそうに笑った。


「ええ。散歩ではありませんね」


「散歩ぐらい、自由にさせてよ」


「だって貴女、逃げてしまいそうですから」


宵は悪びれる様子がなく、紬がため息を付いたその時だった。


「紬ちゃん!」


紬の身体が震え振り返ると、紅蓮に玲、そして透の姿があった。


「……!」


胸が苦しい、会いたかった。


本当に、会いたかった。


「透先輩……!」


思わず笑顔になりかける。


いや、紬の顔から血の気が引いた。


違う、これは宵の罠だ。


「来ちゃ駄目!」


しかし透は止まらない。


紬へ向かって歩き出す。


黒い影が地面から噴き出し、透の前に巨大な壁が現れる。


「っ……!」


透が足を止める。


紬との距離は、手を伸ばせば届きそうなくらい近い。


なのに、黒い影のせいで届かない。


宵が笑う。


「駄目です。この子には触れさせません。」


透の顔から表情が消えた。


「離れろ。紬ちゃんに触るな」


怒りが滲んでいる。


「嫌ですよ。せっかくですから……」


まるで遊びの続きを楽しむ子供のように。


その時、紬の視線が玲へ向く。


「……玲さん」


玲も紬を見つめていた。


その瞳にはもう光が宿っている。


紬の表情がぱっと明るくなった。


「玲さん!」


影に止められながらも身を乗り出す。


「もう大丈夫なんですか!?」


玲の目が僅かに揺れた。


「ああ。君のお陰で、戻ってきた」


その言葉を聞いた瞬間、紬は心から安心したように笑った。


「良かった……!」


目尻に涙が滲み、


「本当に良かった……!」


玲は拳を握った。


自分を助けたせいで、紬は攫われた。


それなのに、この少女は自分の心配をしている。


「紬ちゃん……」


玲は唇を噛んだ。


「必ず助けるから」


小さな声だが、紬には届いた。


「紅蓮」


「……紬」


「無茶してない?」


紅蓮は呆れたように眉をひそめた。


「それ今のお前が言うか?」


「え?」


「鳥籠に閉じ込められてる奴に心配されたくねぇ。……迎えに来たんだ。ちゃんと待ってろ」


紬の胸が熱くなる。


そして、最後に透を見る。


透は何も言わない。


ただ紬だけを見ていた。


その目の下には薄い隈があった。


きっと眠らず、探していたんだ。


ずっと、自分を。


紬の瞳が揺れる。


「透先輩……」


透が小さく頷く。


その優しさが、今は苦しかった。


紬は3人を順番に、じっくりと見た。


玲に紅蓮、そして透。


大切な人達、大好きな人達。


だから、守りたい。


「……みんな、ありがとう。」


透が眉をひそめ、何だか嫌な予感がした。


「本当にありがとう」


それでも紬は、泣きそうな顔で笑った。


「もう私を探さなくていいんだよ」


「紬ちゃん」


透が呼びかけるが、紬は首を振った。


「来ちゃ駄目。みんな、危ないから」


泣いちゃいけないのに、涙が滲む。


「私は大丈夫だから」


嘘だった。


全然大丈夫じゃない。


怖い、寂しい、帰りたい。


「お願い……もう探さないで……」


紅蓮が顔をしかめた。


「は?何言ってんだ」


「紅蓮……」


「勝手に諦めんな」


紬が目を伏せ、


「だって……」


「だってじゃねぇ」


紅蓮は苛立ったように言った。


「迎えに行くって言ってんだろ。俺も、玲も、透も、此処に居る」


紬の瞳から涙が零れた。


「なんで……なんで私なんか……。」


紅蓮が拳を握る。


「私なんか放っておけばいいのに……!」


涙も、叫びも止まらない。


「玲さんも助かった!みんな無事だった!それでいいじゃない!……なんで私なんか……!」


透は黙って、最後まで聞いていた。


そして、静かに口を開く。


「なんでって」


紬が顔を上げ、透は優しく微笑んだ。


「紬ちゃんが好きだからだよ」


時間が止まったような感覚がする。


紬の瞳が大きく見開かれ、透は続けた。


「君が思ってるよりずっと前から、ずっと好きだった」


紬の頬を涙が伝う。


「透先輩……」


「僕はもう……」


透は少し困ったように笑い、


「紬ちゃんじゃないと駄目みたいなんだ」


紬は声を失った。


「だから」


透の瞳は真っ直ぐ、紬だけを見ていた。


「探すななんて無理だよ。諦めろなんて出来ない。必ず迎えに行く」


涙が溢れ、中々止まらない。


紬は泣きながら首を振った。


「馬鹿です……」


「うん。」


「透先輩なんか……大嫌いです……」


全然本心じゃない。


だから、透は少し笑った。


「それでも迎えに行く」


「……終わりましたか?」


突如、宵の声が響き、全員の視線が向く。


宵は、こんな時に笑っていたが、目は冷たく座っている。


「何ですか」


ため息混じりの声で、


「この反吐が出る茶番は」


と、紬が睨み付ける。


透の表情も冷たくなり、宵は肩を竦めた。


「愛だの絆だの、実にくだらない」


そして、紬の手首に繋がる鎖を宵が掴んだ。


「っ……!」


紬の身体が宵の方へ引き寄せられる。


「やめろ!」


透が叫び、駆け寄ろうとするが、影が道を塞ぐ。


宵は興味を無くしたのか、振り返りもしない。


「私の小鳥さん」


紬が顔をしかめ、


「お家に、帰りますよ」


「離して!」


抵抗する。


しかし影が足に絡み付き、逃げられない。


「宵!」


透の声は、怒りを含んでいた。


だが、宵は笑い、


「安心してくださいよ。大切に、大切に愛でていますから」


と、透の拳が震えた。


「紬ちゃんは物じゃない!」


「貴方から、欲しいんですよ。よく言うでしょう?人が持っている物を見ると、欲しくなるって」


その言葉と同時に、2人の足元から巨大な影が広がった。


「紬ちゃん!」


「透先輩!絶対、絶対、無茶しないでくださいね!」


「そんなの、無理だよ」


紬が泣きながら、透に微笑んだ。


その言葉を最後に、影が2人を包み込む。


宵の笑み、紬の涙、全てが闇に飲み込まれていく。


「紬ぃぃぃ!!」


紅蓮の叫びが響くが、もう届く筈もなかった。


影は無くなってしまい、駅前広場には静寂が訪れる。


透は消えた場所を見つめたまま動かなかった。


やがて、拳を強く握る。


「……許さない。……お前を、地獄の底まで、突き落としてやるからな……」


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