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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第5章 私の居場所なんて
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第50話 僕の光はまたーーー

厳重な筈の結界が、特級の妖によって破壊されてしまった。


《夜叉》本部の廊下を、重い緊張が包み込んでいた。


透は刀を抜き、紬を庇うように前へ出る。


その隣には紅蓮が、首を鳴らして待ち構えている。


2人の視線の先には、ゆっくりと歩いてくる2つの影があった。


必要以上に紬に執着する宵。


そして、黒炎を纏う刀を携えた玲。


「玲さん……」


紬の声に反応はない。


玲はただ無機質な瞳で紬を見つめていた。


透は紬の手を握り、


「紬ちゃん」


「……はい」


「僕の傍から離れないで」


と、透の瞳は真剣だった。


「あの日みたいにはならない」


海岸での出来事、玲の刀が紬を貫いたあの日。


透は静かに息を吐いた。


「もう絶対、君を傷付けさせない」


紬は小さく頷く。


その時、宵が口元を歪めた。


「それはどうでしょう?」


床から無数の影が飛び出し、戦闘が始まってしまった。


「行くぞ!」


紅蓮が焔を纏い、透と同時に駆けた。


2人の攻撃が宵へ襲い掛かる。


だが、宵は影の中へ沈んだ。


「チッ!」


紅蓮の拳が床を砕くが、その背後、影から現れた宵が短剣を振るった。


「っ!」


透が受け止め、激しい火花が散る。


「邪魔ですねぇ」


「邪魔なのは君だ。何故、紬ちゃんをそんなに狙う?」


透の刀が閃き、宵は後ろへ飛ぶ。


そこへ紅蓮の焔が襲った。


廊下が赤く染まるが、宵は余裕ぶっこいていた。


「あー、怖い怖い」


「まだ余裕か?」


紅蓮が牙を剥くと、焔がさらに膨れ上がった。


「なら、これはどうだ!」


巨大な炎の奔流が、避け場を失った宵へ一直線に向かう。


影が壁となり炎を飲み込んでしまったのだ。


「面倒ですね。貴方達には、用は無いのですが」


宵が呟き、そして初めて、視線を紬へ向けた。


その頃、玲と紬も激しく刃を交えていた。


金属音が響き、焔月と黒炎の刀の、互いの炎が激突する。


「玲さん!」


紬が何度も呼びかけるが、玲は答えない。


無表情のまま刀を振るっている。


紬は押されていた。


傷もまだ完全には癒えていない。


それでも、負ける訳にはいかなかった。


「帰ろう!皆待ってますよ!」


再び激突し、火花が散る。


玲の刀が紬の頬を掠め、血が流れる。


それでも紬は退かない。


「私は諦めない!」


玲の瞳が、ほんの少しだけ揺れた。


「玲さん!」


紬が手を伸ばすと、


「帰ろうよ!」


玲の刀が止まった。


「……っ」


頭を押さえ、苦しそうに、何かを思い出そうとしていた。


「つ……」


そんな様子の玲に、紬の目が見開かれた。


「玲さん……?」


玲の瞳に光が宿っていく。


虚ろだった瞳に、その奥で何かが砕けている気がした。


「つむ……」


《夜叉》の優しい仲間達。


笑い声に、厳しい訓練。


そして、監視対象だったあの少女。


「……紬、ちゃん……?」


紬の瞳から涙が零れ落ちた。


「玲さん!」


玲の刀が床へ落ち、カラン、と音を立てた。


「私……何を……」


全部、全部、思い出してしまった。


その光景を見ていた宵は、静かに目を細めた。


「なるほど」


戦闘中だというのに、モノクルを押し上げる。


「やはり貴女ですか」


宵の影が玲へ向かい、それは鋭い刃となって飛んでくる。


「玲さん!!」


紬が迷いなく、玲に近付く。


考えるより先に身体が動いた。


紬は脇腹を切り裂かれ、鮮血が舞った。


「紬ちゃん!!」


玲が叫ぶが、紬の身体が崩れ落ちる。


「何で……!」


玲は涙が零れ、


「どうして私なんかを……!」


紬は苦しそうに笑った。


「だって……仲間ですから……」


玲の瞳から涙が落ちた。


「……!」


その様子を見ながら、宵は静かに笑う。


「あぁ、もう駄目ですね。貴女はもう使えません」


そして、視線が紬へ移る。


「ですが、貴女は私に必要です」


透が嫌な予感がし、走る出す。


紅蓮も透の後に続いたが、


「待て!!」


影が広がり、いつの間にか近付いていた、宵の手が紬の手首を掴む。


「離して……!」


何故か思うように力が入らない。


「嫌に決まっているでしょう?」


紬の身体が段々と、影へ引きずられていく。


「紬ちゃん!!」


透が叫び、必死に手を伸ばす。


届けーーー。


あと少しーーー。


あと少しなのにーーー。


宵は微笑んだ。


「貴方の大切な紬さん」


透の顔から血の気が引き、


「お借りしますね」


「やめろぉぉぉ!!」


透が一生懸命駆ける。


玲も、紅蓮も、誰も諦めてなんかいない。


「紬ちゃん!!」


紬は必死に透に、手を伸ばした。


「透先輩……!」


指先が近付くーーー。


だが、それは届かない。


影が紬を飲み込むと、


「透先輩!!」


最後の叫びは影の中に消えていった。


《夜叉》の施設内は静寂が戻った。


誰も動揺して動けない、その時だった。


カラン――


と、小さな音が響く。


透が視線を落とした、床に転がっていたのは、銀色の指輪だった。


紬がずっと大切にしていた指輪だ。


「……っ」


透の手が震え、ゆっくりと拾い上げる。


掌の中の小さな指輪は、医務室で泣きじゃくる、紬の薬指にもう一度はめた指輪。


『僕は笑ってる紬ちゃんが好きなんだ』


あの日の言葉が蘇る。


「……ごめん……守れなかった……」


拳の中で指輪を強く握り締めた。


そんな透を見て、玲は赫焉の力を失った刀の柄を握る。


手は震えているが、瞳には強い光が宿っていた。


「……次は私が……」


涙を拭い、宵と紬が消えた場所を睨みつけた。


「紬ちゃんを助ける番だ……!」


刀を握る力が強くなる。


「……許さない」


玲の瞳に怒りが宿り、


「宵……!」


透もゆっくりと顔を上げた。


絶望ではなく、決意が宿っている。


「必ず……必ず取り戻す……!」


こうして、赫焉に洗脳されていた玲は、紬のお陰で帰ってきた。


だが、その代わりに、大事な紬を失ってしまったのだ。


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