第48話 意外な才能
今日は久しぶりの休日。
紬と透、そして紅蓮は、街のショッピングモールへ遊びに来ていた。
ボウリング場では、
「おらっ」
紅蓮が軽く投げたボールが、真っ直ぐレーンを走り抜け、余裕でピンが一斉に吹き飛んだ。
「ストライク!」
機械音声が響き、
「また!?」
紬は思わず立ち上がった。
「紅蓮、絶対才能あるよ!」
「そうか?」
本人は首を傾げる。
「真ん中狙うだけじゃねえの?」
「それが難しいんだよね」
透が苦笑した。
一方で、紬は苦戦していた。
「よーし!」
気合いを入れて投げたボールは数本だけ倒して終わってしまい、
「あー……」
紬は肩を落とした。
「やっぱり難しいなぁ」
すると透が隣へ立ち、
「紬ちゃん」
「はい?」
「もう少し腕を振ってみたらどうかな?」
そう言って透は紬の腕をそっと持った。
「こう持った方がやりやすいかも」
優しく角度を直される。
「この辺りで離すといいと思うよ」
「な、なるほど……」
近い、近過ぎる。
紬の顔が少し赤くなり、そんな2人を見ながら、紅蓮はジュースを飲んでいた。
「……ほんとお前ら仲良しだな」
「っ!?」
「紅蓮」
「ん?」
「今更?僕と、紬ちゃんは仲良しだよ」
「あー、はいはい」
紅蓮は「やれやれ」と呆れていた。
そして数ゲーム遊んだ後、紬は空になった紙コップを見た。
「あ」
「どうしたの?」
「ジュース無くなっちゃいました」
そう言って立ち上がる。
「買ってきますね?」
透も立ち上がろうとしたが、
「一緒に行くよ?」
紬は首を振る。
「次、透先輩の順番ですから」
そして拳を握る。
「頑張ってくださいね!」
透は思わず笑った。
「分かった。期待に応えないとね。」
自動販売機の前で、紬は腕を組みながら悩んでいた。
「うーん……」
透はコーヒーで、紅蓮は炭酸。
今日は違うものでもいいだろうか。
そんな時、
「ねえ君、一人?」
突然後ろから、声を掛けられる。
「え?」
振り返ると高校生くらいの金髪の男子が立っていた。
「えっと……私に言ってます?」
「そうそう。」
男子は笑い、
「俺と上の階にあるダーツでもしようよ」
そして自然に紬の腕を掴んだ。
「あ、いや……私……」
紬がどうしようかと、困っていると、
「ねえ」
穏やかな声が響く。
男子が振り返ると、そこには透が立っていた。
透は紬に近づき、肩を自然に抱き寄せる。
「僕の彼女に何か用事?」
「え?」
男子が固まるが、紬も固まってしまう。
透だけが平然としていた。
男子は慌てて頭を下げ、
「す、すみませんでした!」
そう言って逃げるように去っていった。
「……」
「……」
紬は顔を真っ赤にして俯いたが、透は不思議そうに首を傾げた。
「紬ちゃん?」
「えっ!?」
「どうしたの?」
「な、何でもないです!」
すると透は少し考えてから頷いた。
「ああ。さっきのこと?」
図星だった。
透は紬の左手を見る。
薬指にはあの日取り戻した指輪が、今日も光り輝いている。
透は優しく笑い、
「だって彼女でしょう?」
「……え?」
「うん、彼女だよ」
そして少しだけ目を細める。
「……指輪渡したから、お嫁さん……かな?」
「!!?」
紬の顔が一瞬で真っ赤になった。
「と、と、と透先輩!?」
そこへ、
「おーい。」
紅蓮がやって来た。
真っ赤な紬と平然とした透を見比べるが、
「何してんだ?」
透は何でもないように答えた。
「紬ちゃん、ナンパされてたんだよ。上の階で、ダーツでもしないか、ってね」
「は?」
紅蓮は眉をひそめる。
「ナンパ?」
「うん。まあ、可愛いから分からなくもないけど。」
「っ!!」
紬の顔がさらに赤くなるが、紅蓮は首を傾げた。
「ナンパ?なんだそれ」
紬と透が同時に固まり、でも紅蓮本人は大真面目だった。
数秒後、透が吹き出し、紬も笑ってしまう。
紅蓮だけが首を傾げていた。
「……やっぱりお前ら変だぞ?」
そしてふと、思い出したように口を開く。
「なあ」
「ん?」
「そのダーツとかいうのもやりてえ」
「ふふっ」
「何だよ」
「紅蓮も今日、一緒で良かった」
「じゃあ行ってみようか。」
「おう」
ダーツコーナーでは、透も紅蓮も初めてとは思えないほど上手かった。
だが、一番驚いたのは紬だった。
「えいっ!」
中心に刺さり、高得点が。
「え?」
もう一本投げてみても、また高得点。
「な、なんで?」
透がクスッと笑い、
「紬ちゃん、上手いね」
紅蓮も腕を組む。
「才能あるんじゃねえか?」
結果は歴然で、1回戦の1位は紬だった。
「やった!」
嬉しそうに喜ぶ紬だが、紅蓮は納得していない。
「もう一回だ」
「え?」
「勝負しろ」
「私と?」
「あぁ、紬に言ってる」
前のめりになるほど、即答だった。
「ジュースを賭ける」
「ジュース?」
「負けた奴が奢る」
透が吹き出すが、
「子供なの?」
「真剣勝負だ」
本人は真剣なようだ。
だが結果は、1位が紬、2位が透、3位が紅蓮になった。
「……何でだ」
紅蓮が悔しそうに天を仰ぎ、透は楽しそうに笑った。
「負け、だね」
「……」
「僕にも奢ってくれる?」
「お前にも?」
「僕も勝ったからね」
紅蓮は深いため息を吐いた。
「何で俺が2本も買うんだ……」
本気で落ち込んでいて、紬は笑いを堪えられなかった。
「約束だもん」
「そうだよね」
紅蓮は観念したように、
「何がいいんだ」
紬はぱっと顔を上げた。
「いちごミルク!」
「あれ、美味いよな。透は?」
「僕はコーヒーかな」
「お前は予想通りだな」
ぶつぶつ文句を言いながらも、紅蓮はちゃんと2人の飲み物を買いに向かった。
そんな後ろ姿を見ながら、紬と透は顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
玲のことも、赫焉のことも、忘れたわけじゃない。
だけど今だけは、こうして笑っていたかった。
守りたい日常の中で、3人は久しぶりの休日を楽しむのだった――。




