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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第5章 私の居場所なんて
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第41話 夢だといいのに

《夜叉》の施設へ戻った瞬間、紬は足を止めた。


「……え……?」


目の前に広がる光景が信じられなかった。


隊員たちが慌ただしく廊下を駆け回っている。


担架で運ばれる負傷者に、医療班の怒鳴り声。


何より、床に残る血痕や、壁のあちこちに飛び散った血が。


まるで戦場の跡だった。


「急げ!」


「こっちにも重傷者だ!」


聞き慣れた施設の空気はどこにもない。


紬の顔から血の気が引いていき、胸の奥がざわついた。


嫌な予感が止まらない。


それも、とてつもなく悪いことが。


呆然と立ち尽くす紬の頭を、透がそっと撫でた。


「……大丈夫」


優しい声が降って来て、紬が顔を上げる。


透も状況を理解できているわけではない。


それでも、自分を落ち着かせようとしてくれている。


「透先輩……」


「大丈夫だよ」


その言葉に少しだけ呼吸が楽になる。


だがその直後、


「リーダー……」


弱々しい声が聞こえた。


奥から1人の隊員が、医療チームに支えられながら歩いてくる。


腹部を押さえる手は血で真っ赤に染まっていた。


透はすぐに駆け寄ったが、


「無理しなくていい」


隊員は首を横に振る。


苦しそうに息を吐きながら、それでも透を見上げた。


「玲さんが……急に……起き上がったんです……」


その名前を聞いた瞬間、紬の心臓が大きく跳ねた。


隊員は震える声で続ける。


「最初は普通だったんです……でも急に様子がおかしくなって……止めようとしたんですけど……」


言葉が途切れ途切れなのは、腹の傷がその先を語っていた。


透は何も言わず、最後まで話を聞いた。


そしてそっと隊員の手を握る。


「よく頑張ってくれたね」


隊員の目が揺れ、透は安心させるように微笑んだ。


「大丈夫。後は僕に任せて。君は治療に専念してくれ」


隊員の目に涙が滲み、


「……はい……」


医療班に支えられながら、隊員は治療室へと運ばれていった。


その背中を見送った時、


「透!」


再び、廊下の奥から声が響いた。


息を切らしながら走ってきた紅蓮は、透の前で立ち止まる。


そして悔しそうに拳を握った。


「透……俺の力じゃ、もう抑えられなかったみたいだ……すまん。」


紅蓮は責任を感じていた。


赫焉の力を持つ自分なら、一時的でも玲を守れると思っていた。


玲の中にある赫焉の呪いを、抑え込めると思っていた。


だが、玲は赫焉に呑まれてしまった。


透は静かに首を振る。


「紅蓮のせいじゃないよ」


透の表情は真剣だった。


「玲さんはずっと戦ってた。紅蓮もずっと支えてくれてたんだ、だから自分を責めないでくれ。紅蓮らしくないだろ?」


透は紅蓮の肩を優しく叩く。


「……赫焉は玲さんを使って何か企んでる。今は玲さんを探そう。」


「はい!」


「急ごう!」


透が走り出し、紬と紅蓮も後に続いた。


玲の居場所を見つけるために、玲を取り戻すために。











《夜叉》の施設が慌ただしく動いてるその頃、街で最も高いビルの屋上で、玲は静かに街を見下ろしていた。


心地よい風が、長い黒髪を揺らす。


《夜叉》の隊服は返り血によって赤く染まり、所々に乾いた血がこびり付いていた。


右手には一振りの刀が。


それは本来なら、核に刺さったままのはずの刀だった。


黒い炎を纏う異形の刃の炎は、まるで生きているかのように揺らめいていた。


玲の瞳には光がなく、ただ虚ろに街を見つめている。


まるで全てを失ってしまった、人形のように。


玲の背後に気配が現れ、気配の主は音もなく姿を現した。


真紅の着物に、白い彼岸花の柄。


片目には銀のモノクルが光り、口元には芝居がかった笑みを浮かべている。


宵は玲の後ろで優雅に一礼した。


「貴女が玲さんですね」


モノクルの奥の瞳が細められると、


「赫焉様から伺っております」


強風が吹き抜けた。


「お会いできて光栄ですよ」


玲は反応せず、ただ街を見下ろしたまま小さく呟く。


「……私には、赫焉様しか居ない」


その瞳はどこまでも虚ろだった。


赫焉に心を乱され、何度も何度も囁かれ、仲間に見捨てられたと信じ込まされている。


自分には居場所がない。


誰も待っていない。


だから、自分を必要としてくれるのは赫焉だけなのだと、玲は本気でそう思っていた。


宵は満足そうに微笑み、


「ええ」


モノクルに月明かりが反射した。


「それでこそ、赫焉様が選んだお方です」


玲は答えず、ただ冷たい街を見つめ続ける。


自分を探している人たちがいることも知らずに。


自分の帰る場所が、まだ残っていることも知らずに――。


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