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第4話 交われない二人

夕暮れの路地相変わらず、空気が張り詰めていた。


紬は、動けずにいた。


目の前には透と、その隣には紅蓮が睨み合っている。


どちらも、同じように“正しい”顔をしていた。


「……紬ちゃん」


透が、静かに口を開く。


声はいつも通り、柔らかい。


「もう一度だけ言うね?その妖から離れて」


そう言って差し出された手は、優しくて温かそうで。


「……行かねぇよな?そいつに触れた瞬間、終わりだ」


「終わりって……」


紬が震える声で呟くと、透は小さく息を吐いた。


「ごめんね、殺すって意味だよ」


あまりにもあっさりと、その言葉は、優しい口調のまま告げられた。


「……でも、紬ちゃんはまだ人間だ」


透の真っ直ぐな視線が、紬の心臓を高ぶらせた。


「だから、守れる」


その言葉は、本気だった。


嘘なんかじゃない。


だからこそ、紬にとっては苦しかった。


「もう“こっち側”だって言ってんだろ」


「……まだだよ」


透は静かに否定し、


「まだ、戻れる」


その奥には揺るがない意志があるのを感じた。


「紬ちゃん。怖いよね?分かるよ。急にこんなことに巻き込まれて。大丈夫、僕が守るから」


その一言が、強く響く。


思わず手が動きそうになるが、


「――しつこい奴だな」


と、紅蓮が吐き捨てるように言った。


次の瞬間空気が裂け、紅蓮の姿が、消えた。


「っ!」


透が反応すると同時に、鋭い衝突音が響いた。


紅蓮の拳を、透が受け止めていたのだ。


「……いきなりだね」


透のその目は、もう完全に“戦う者”のものだった。


「話し合いで済ませようよ。僕はあまり戦闘には向いてないんだ」


「最初からお前は敵だ」


紅蓮が踏み込むが、


「……やっぱり、鬼は速いね」


透も同じ速度で動いていた。


軽く攻撃を流し、鋭い一撃が紅蓮の肩を掠める。


「人間にしちゃ、やるじゃねぇか」


(……何これ)


紬は、ただ立ち尽くしていた。


目の前で繰り広げられるのは、明らかに普通じゃない戦い。


なのにどちらも知っている人で、どちらも負けて欲しくないと思った。


「紬ちゃん!離れてて!」


「……っ」


逃げなきゃいけないのは分かってるが、足が何故か動きそうもない。


「何ボサッとしてんだ」


透の姿が消えたと思うと、


「っ!?」


目の前に現れ、紬は咄嗟に手を前に出す。


熱が走り、赤い光を感じて刀が、現れる。


キン、と鋭い音がし、透の一撃を受け止めた。


「……!」


透の目が、わずかに見開かれる。


「やっぱり…その力、本物だね」


力がぶつかり、押し返される。


透の圧倒的な力に、足が震える。


「……っ!」


「無理しないで。紬ちゃんが戦う必要はないよ」


その言葉に、胸が揺れる。


「……あるよ」


紬は歯を食いしばり、


「だって――」


視線を、紅蓮へ向ける。


少しだけ驚いた顔をしていた。


「もう、関係ないじゃ済まない」


紬は刀を、再び強く握る。


「紅蓮と契約するって言ったのは、自分の意思ですから」


自分でも驚くほど、はっきり言えた。


透は、少しだけ寂しそうに笑い、


「強いね、紬ちゃんは」


と、小さく頷く。


その言葉には、本心が込められていた。


「――ごめんね」


途端に透の圧が変わり、空気が重くなる。


「ここで止める」


完全に、それは“敵”の声だった。


「紬ちゃんを守るために」


「……っ」


紬は刀を構えると、紅蓮が隣に並んできた。


「チッ……面倒なことになったな」


視線の先には、透がゆっくりと構えている。


優しいままの顔で、迷いなく。


その姿は完全に、“あちら側”の存在だった。


夕闇の中、三人が向かい合う。


正義は、交わらない。


だから――ぶつかるしかないのだと。


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