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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第4章 時は止まらない。
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第37話 2人で1つ

漆黒は、ゆっくり口元を歪めた。


冷たい瞳だけが、愉快そうに細められる。


「安心しろ。あいつなら、お前の“ニセモノ”と戦ってるぞ」


その言葉に、紬の表情が凍りついた。


「……え…私の、“ニセモノ”……?」


漆黒は答えず、ただその目だけが細められた。


紬の脳裏へ、嫌な想像が走る。


透が戦っている相手。


それが、自分の"ニセモノ"…?


「聞いてよ漆黒!」


白夜が不機嫌そうに声を上げ、瓦礫を蹴飛ばしながら、漆黒の隣へ行く。


「あの2人が、僕を虐めるんだ!」


わざとらしく漆黒へ寄り掛かる白夜。


さっきまで殺気を撒き散らしていたとは思えないくらい、子供っぽい態度だった。


「特に失敗作!すっごいムカつく!」


白夜は紅蓮を指差すと、紅蓮は露骨に嫌そうな顔をした。


「……チッ…誰がテメェなんか虐めるかよ」


すると白夜は


「ほらぁ!」


と幼い子供のように騒ぎ立てる。


「やっぱ嫌な奴じゃん!」


紬は思わずぽかんとしてしまった。


さっきまでの殺伐とした空気との温度差が凄い。


けれど、漆黒だけは笑わない。


静かに冷たい目で、紬を見つめ続けていた。


漆黒は、白夜へ視線を落とし、感情の読めない瞳で見つめる。


口元だけがゆっくり歪み、


「ほぅ……。随分、大事な大事な白夜を虐めてくれたもんだな」


と、完全にわざとらしい言い方で、漆黒は白夜の頭へ手を乗せる。


優しく撫でるような仕草だが、その光景からは妙な不気味さしか感じない。


白夜は少し機嫌を直したように、漆黒の手を掴んだ。


「もう、いいよね」


不満そうに唇を尖らせる。


「コイツら、ムカつくんだもん」


白夜の視線が、紬と紅蓮を睨みつけた。


ぞわり、と黒い妖気が揺れ、


「早く赫焉様に、首持っていこうよ」


その言葉に、紬の背筋へ冷たいものが走った。


赫焉ーーあの名を聞くだけで、空気が変わる気がする。


すると漆黒は静かに目を細め、


「……そうだな」


ぽつり、と呟いた。


2人の足元の影が、ゆらりと黒い沼のように大きく広がる。


白夜は紬達を見ながら、ニタァっと笑った。


「じゃあね、人間ちゃん。次は、ちゃんと壊してあげる」


そして、白夜と漆黒の身体は、ゆっくり影へ沈んでいく。


最後に白夜の不気味な笑みだけが闇へ残り――。


2人の姿は完全に消えた。


静まり返る手術室には、砕けた壁と古びた薬品の匂いだけ。


紬は焔月を握ったまま、唇を噛む。


胸の奥で、不安だけがどんどん大きくなっていった。


『人間ちゃん』


どこからか白夜の声がして、紬がはっと顔を上げる。


声だけが、病院中へ響いていた。


『失敗作くん』


クスクス、と耳障りな笑い声が。


『今度は、屋上で待ってるよ』


その言葉に、紅蓮が盛大に舌打ちした。


「チッ……!」


炎を纏った刀を肩へ担ぎ、不機嫌そうに天井を睨む。


「遊んでる暇ねぇんだよ、ガキ共!!」


怒鳴り声が、廃病院へ響いた。


すると、


『黙って屋上に来い』


漆黒が、低く感情の無い声で言い放つ。


紬は思わず息を呑んだ。


白夜の悪意とは違い、漆黒の声には、もっと静かな圧がある。


まるで逆らう事を許さないみたいな。


紅蓮は苛立ったように髪を掻き上げ、


「……上等だ」


赤い瞳が、鋭く細まる。


「そのまま纏めて燃やしてやる」


紬も焔月を握り直すが、胸の奥では、別の不安が渦巻いていた。


透は無事なのか。


自分の“ニセモノ”と戦っているという言葉が、頭から離れない。


すると紅蓮が、ちらりと紬を見る。


「行くぞ」


けれどその声には、“大丈夫だ”と言うような強さがあった。


紬は小さく頷き、二人は暗い廃病院の屋上へ、向かって走り出した。











古びた階段を、紬と紅蓮は駆け上がる。


コンクリートは所々ひび割れ、足音が不気味に反響した。


屋上へ続く最後の階段先で、既に扉は開いていた。


2人を最初から待っていたかのように。


夜風が、開いた扉の隙間から吹き込んできた。


けれどどこか、生温い不気味な風だった。


「……感じ悪ぃ歓迎だな」


胸の鼓動が速いけれど、もう迷わない。


2人はゆっくり屋上へ足を踏み入れる。


そこは思っていた以上に荒れていた。


錆びたフェンスに、ひび割れた床。


フェンスは何ヶ所も大きく凹み、今にも外れそうになっている。


強風が吹けば、そのまま崩れ落ちそうだった。


夜空には雲が流れ、月明かりだけがぼんやりと屋上を照らしている。


不気味なほど静かだった。


「……言われた通り、来たよ」


紬の声が、夜の屋上へ溶けていく。


クスクス……。


聞き慣れた笑い声が、暗闇の奥から響くと、屋上の真ん中辺りに、月明かりが差し込む場所へ、不自然な黒い影が広がった。


液体のようにどろり、と揺れている。


「……っ」


影はゆっくり波打ちながら、形を作り始める。


けれど、何かがおかしい。


紅蓮も眉を顰めた。


「……なんだアレ」


影は徐々に輪郭を持ち。


ゆっくりと“人”の姿になっていく。


そして、完全に姿を現したが、紬の瞳が大きく揺れた。


「……え」


思わず声が漏れる。


そこに立っていたのは、白夜でも漆黒でもない。


「2人が……」


“それ”は、二人で一つの妖になっていた。


右半身は白夜で、白い髪に歪んだ笑みを浮かべ、狂気じみた瞳で、此方を見つめている。


そして左半身は漆黒で、感情の薄い表情に、冷え切った瞳で2人を見下していた。


まるで無理やり繋ぎ合わせたみたいに、二人の身体が一つになっている。


境目の部分では黒い影が蠢き、どろどろと揺れていた。


すると、“それ”がゆっくり口を開く。


「あはっ」


白夜側の口が笑うと、


「騒ぐな」


漆黒側の低い声が重なった。


一つの身体なのに、声は二人。


紬の背筋へ、ぞわりと寒気が走った。


紅蓮は、目の前の"それ"を睨みつけると、赤い瞳に怒りが燃えていた。


「お前ら……!」


炎を纏った刀を強く握り締め、


「そこまでして、何で親父の言う事を聞くんだ!!」


と、怒声が夜の屋上へ響いた。


凹んだフェンスが、風でギシギシ揺れる。


紅蓮は歯を食いしばった。


「お前らは、親父に利用されてるだけだぞ!」


その言葉に、右半身の白夜が、けらけら笑い始めた。


「あははっ!」


楽しそうな笑い声だが、その瞳は酷く冷たい。


「失敗作のくせに」


白夜側の口元が、ぐにゃりと歪む。


「妖でも、人間でもないくせに」


白夜と漆黒、両方の瞳が紅蓮を見た。


「妖の完全体――赫焉様が羨ましいんでしょ?」


ぞわり、と黒い妖気が揺れ、今度は左半身の漆黒が口を開いた。


「嫉妬は醜い」


感情の無い声で、冷たく言い放つ。


その言葉に、紬の表情が変わった。


「違う!!」


紬の叫びが屋上へ響くと、それに反応するように焔月の炎が大きく揺らめいた。


「紅蓮が羨ましいのは、あんた達じゃない!!」


白夜の笑みがぴたりと止まる。


紬は真っ直ぐ、“二人で一つの妖”を睨み返した。


「人間と仲良くしてるのが羨ましいのは、そっちでしょ!!」


風が強く吹き抜け、紬の紅い髪が揺れた。


「本当は……!」


焔月を握る手へ、力が入る。


「本当は、人間と仲良くしたいって思ってるくせに!!」


屋上の空気が、ぴたりと止まった。


“それ”の表情が、ぐしゃりと歪み、白夜側がギリギリと歯ぎしりを始める。


漆黒側の瞳も、冷たく細められた。


まるで感情が制御出来なくなったみたいに、影が大きく揺れる。


『――黙れ、人間!!』


二人分の怒声が重なったと思うと、“それ”が一瞬で紬の目の前まで迫った。


「っ!?」


"それ"は、今までとは比べ物にならない速さで、紬は咄嗟に焔月を構える。


凄まじい衝撃で、紬の腕が痺れる。


受け止めたけれど、勢いを殺し切れない。


「きゃっ……!」


紬の身体が、そのまま後ろへ吹き飛ばされる。


そして――。


背中から、屋上のフェンスへ激突した。


嫌な音が鳴り、錆びたフェンスが大きく歪む。


紬の顔から血の気が引いた。


「え――」


古いフェンスが支えきれず外れ、紬の身体が、大きく傾いた。


「紬!!」


紅蓮が、咄嗟に手を伸ばすけれど、届かない。


紬の瞳に映ったのは、必死な紅蓮の顔だった。


外れたフェンスごと、紬の身体は、暗闇の下へ落ちていった。


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