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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第4章 時は止まらない。
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第33話 君と僕を繋ぐ薬指

《夜叉》の応接室では、賑やかな笑い声が響き続けていた。


料理を取り合う隊員達に、ジュースを零して騒ぐ者。


それを見て笑う仲間達。


紬はそんな光景を見ながら、小さく笑みを零す。


温かい場所だと思った。


戦うだけじゃなく、ちゃんと笑い合える場所。


透が守ろうとしているものが、少し分かった気がした。


「……紬ちゃん」


不意に、隣から優しい声が降る。


振り向けば、透が少し困ったように笑っていた。


「ちょっとだけ、いい?」


「え?」


紬が目を瞬く。


透はどこか落ち着かない様子で視線を逸らした。


「その……少し静かな場所、行こうか」


その言葉だけで、心臓が変に跳ねる。


紬は小さく頷いた。


 









二人で応接室を抜け出すと、賑やかな声が遠ざかり、静かな廊下へ変わる。


やがて辿り着いたのは、《夜叉》施設の屋上だった。


夜風が静かに吹き抜ける。


街の灯りが遠くで瞬いていた。


紬はフェンスへ軽く寄りかかり、小さく息を吐く。


「なんか、びっくりしました」


「ごめんね。皆、張り切っちゃって」


透が苦笑し、紬はふふっと笑った。


「でも嬉しかったです。すごく楽しかった」


その言葉に、透の表情が少し柔らかくなる。


夜風が紬の白い隊服を揺らした。


透はその姿を静かに見つめる。


(……やっぱり似合っている。綺麗だ)


そう思うほど、胸の奥が落ち着かなくなる。


透は少しだけ視線を逸らすと、ポケットへ手を入れた。


「……紬ちゃん」


「はい?」


「これ」


透が差し出したのは、小さな箱だった。


紬が目を瞬かせる。


「え……?」


「入隊祝い……かな」


そっと開けば、中には細い銀の指輪。


派手じゃない透らしい、綺麗で優しいデザインだった。


紬の鼓動が大きく跳ねる。


透は少し照れたように笑いながら、そっと紬の左手を取った。


指先が触れた瞬間、紬の肩が小さく揺れる。


そして透は、左手の薬指へ優しく触れながら静かに言った。


「……僕が、ここ予約していいかな?」


その意味が分からないほど、紬は鈍くなかった。


熱が一気に顔へ集まる。


「っ……透先輩、それって……」


声が震える。


透はそんな紬を見つめながら、少しだけ真剣な目をした。


「この戦いが全部終わったら、改めて言うから」


夜風が静かに吹き抜け、透は小さく笑った。


「覚悟しておいて」


紬の心臓は、壊れそうなくらい鳴っていた。


透は静かに紬を見つめ、夜風が二人の髪を揺らす。


そのまま透は、細い銀の指輪を紬の左手薬指へそっと通した。


ひやりとした感触だが、透の指先は驚くほど温かい。


紬の鼓動が速くなる。


透はその手を優しく包み込むと、そっと持ち上げ薬指へ、静かに口付けようとする。


距離が近づき、紬の呼吸が止まりそうになった、その時。


勢いよく屋上の扉が開き、


「リーダー!!」


隊員の切羽詰まった声が響く。


透が鋭く振り返ると、そこには息を切らした隊員が立っていた。


顔色が悪く、嫌な予感が空気を変える。


隊員は焦ったように叫んだ。


「あの双子が現れました!!」


一瞬で屋上の空気が凍りついた気がした。


 









廊下を急いで駆け抜けると、さっきまで聞こえていた笑い声は、もう遠く感じた。


代わりに響くのは、慌ただしい隊員達の声。


管制室の扉が勢いよく開かれ、中では既に数人の隊員達がモニターへ張り付いていた。


空気が張り詰めている。


大型モニターには、街の地図が表示されていて、ある場所で、二つの赤い点滅が光っていた。


しかも場所は、別々。


「……別れて、行動してる?」


透の表情が静かに険しくなる。


その視線は、二つの点滅を鋭く見据えていた。


「……なるほど」


嫌な予感を理解した声だった。


「最初から、僕達を分断するつもりか」


紬は大型モニターを見つめたまま、小さく息を呑む。


別々の場所で光る赤い点は、偶然じゃない。


相手は最初から、自分達を引き離すつもりで動いている。


紬は左手薬指の指輪をそっと触ると、胸の奥はまだ熱く、余韻が残っていた。


けれど、もう戦わなければならない。


紬はゆっくり顔を上げた。


その瞳には、迷いはない。


透もまた、静かにモニターを見据えていた。


「……ごめんね、紬ちゃん」


その声に、紬が透を見る。


透は少しだけ苦しそうに眉を寄せた。


本当は離れたくない。


そんな気持ちが伝わる顔だった。


けれど次の瞬間には、もう《夜叉》のリーダーの顔へ戻っている。


「早速仕事のようだ。……紬ちゃんと紅蓮は、ここから近い廃病院の方へ向かって欲しい」


透の指がモニターの片方を示す。


暗く打ち捨てられた廃病院。


不気味なほど静かな場所で、心霊スポットでも有名な病院だ。


続けて透は周囲の隊員達へ視線を向ける。


「他の者は、紬ちゃんが怪我した時の援護を頼みたい」


その言葉に、隊員達が即座に頷いた。


『はい!!』


力強い返事を聞いても、透はまだ少しだけ不安そうだった。


紬を危険な場所へ向かわせる事が、本当は嫌なのだ。


そんな透を見て、紬は小さく笑う。


「大丈夫です、透先輩」


紬は左手の指輪へそっと触れると、


「ちゃんと帰ってきますから」


と、その言葉に透の瞳が、少しだけ揺れた。


紬はそんな透へ、小さく微笑む。


不安にさせたくなかった。


自分はもう、《夜叉》の一員だから。


守られているだけじゃなく、ちゃんと戦える。


その覚悟を伝えるみたいに、紬は前を向いた。


そして、管制室の壁へ背中を預けていた紅蓮を見る。


紅蓮は腕を組んだまま、静かに二人を見ていた。


「……紅蓮、行こう!」


その声に、紅蓮が口元を少しだけ吊り上げた。


「おう」


短い返事だが、それだけで十分だった。


二人はそのまま踵を返し、管制室の外へ向かった。


白い隊服を纏った紬に、その隣を歩く紅蓮。


並んで進む背中は、もう以前よりずっと逞しい。


透は無言のまま、その姿を見送っていた。


胸の奥に残る不安を押し殺しながら。


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