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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第4章 時は止まらない。
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第31話 眠り姫への執着心

静かな部屋だった。


規則正しく響く機械音だけが、玲の眠りが続いている事を知らせている。


白いベッドの上で眠る玲は、まるで時間だけを切り取られたように動かない。


紬はそっと視線を落とした。


玲の胸元へ刺さった刀、その刀身を包む紅い炎は、今日も静かに揺れている。


透はそんな玲を見つめながら、小さく笑った。


「玲さん。また来ますね」


眠っている相手にも、ちゃんと届くと信じているみたいに。


紬は胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じながら、玲へ小さく頭を下げた。


「また来ます」


返事はない。


けれど、そう言わずにはいられなかった。


やがて3人は病室を後にする。


扉が静かに閉まり、廊下へ出た瞬間、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。


「紬ちゃん、紅蓮」


透の優しい声に、2人が顔を上げる。


透は柔らかく微笑んだ。


「今日はありがとう。良かったら、帰る前にお茶でもどうかな?」


紬がぱちりと瞬きをする。


透は少しだけ照れたように続けた。


「いい茶葉と、お菓子を頂いたんだ」


紅蓮は腕を組んだまま鼻を鳴らす。


「……透がそう言うなら、貰ってやってもいい」


ぶっきらぼうな返事だが、断る気はないらしい。


透は少し笑った。


「ありがと、紅蓮」


その自然なやり取りに、紬の頬も少し緩む。


透に案内され、《夜叉》の応接室へ入る。


落ち着いた木目調の部屋は、柔らかな灯りに照らされている。


どこか緊張感の多い施設の中で、そこだけは不思議と穏やかな空間だった。


「適当に座ってて」


透は慣れた手つきで茶器を準備していく。


湯気が立ち上り、ふわりと茶葉の香りが広がった。


「わぁ……いい香り」


紬が思わず呟くと、透は少し嬉しそうに笑った。


「気に入ってもらえて良かった」


その笑顔を見た瞬間、紬の鼓動が少しだけ速くなる。


不意に紅蓮が口を開いた。


「透のくせに、随分表情が柔らかくなったな」


「……そう?」


「あぁ」


紅蓮は意味深に紬へ視線を向けると、紬が思わず視線を逸らし、紅蓮は小さく笑った。


「悪くないと思うぞ」


透は何かを察したのか、困ったように眉を下げる。


そんな二人を見ながら、紅蓮はふっと立ち上がった。


「ちょっとブラブラしてくるよ」


「え?」


紬が目を瞬くと、紅蓮は意味ありげに透を見る。


「久しぶりに二人で話せよ」


「……紅蓮」


透が呆れたように名前を呼ぶ。


だが紅蓮は気にした様子もなく、ひらりと手を振った。


「じゃあな」


静かに扉が閉まり、途端に応接室の空気が変わった気がした。


湯気の立つ音さえ聞こえそうなくらいに、静かになってしまった。


紬は何となく落ち着かなくなって、そっと湯呑みに口をつける。


向かい側では、透も少し困ったように笑っていた。


「……紅蓮はお節介だね」


「い、いつもあんな感じですよ」


紬の鼓動は落ち着かないままだった。


透と2人きりと意識した途端、妙に緊張してしまう。


そんな紬を見つめながら、透は静かに口を開いた。


「……紬ちゃん」


「は、はい!」


透は一度だけ視線を伏せ、それから穏やかな声で言った。


「《夜叉》に入る気、ない?」


「え……?」


「紬ちゃんがいてくれたら、助かるから」


透は柔らかく笑った。


「強いし、ちゃんと周りも見えてる。玲さんのことも、一緒に助けたいと思っているんだ」


その言葉に、紬の胸が熱くなる。


けれど透は、それだけじゃないみたいに少しだけ言葉を止めた。


「それに……」


一瞬だけ迷うように目を伏せてから、小さく笑う。


「紬ちゃんが近くにいてくれると、安心するんだ」


心臓が、大きく跳ねた。


紬は思わず俯く。


顔が、きっと赤い。


「……それ、ずるいです」


「え?」


「そんな言い方されたら……断れないじゃないですか」


透が少しだけ目を丸くする。


その反応がおかしくて、紬は小さく笑った。


「よろしくお願いします、先輩」


そう言って差し出した手を、透は少し驚いたように見つめ、ふっと優しく笑った。


「うん。よろしく、紬ちゃん」


そう言った透の手は、温かかった。











紬達が、お茶を楽しんでいる頃、果てのない闇の中で、黒い炎だけが揺らめく世界。


赫焉は高くそびえる玉座へ腰掛けていた。


長い指先で頬杖をつきながら、紅い瞳を細める。


『……滑稽だな』


透、紬、そして紅蓮。


玲を救おうと手を伸ばす愚かな者達。


支え合い、信じ合い、前へ進もうとする弱き存在。


赫焉は小さく嗤う。


「弱き者ほど群れたがる」


赫焉を纏う、黒い炎がゆらりと揺れた。


「だが、時は止まらない」


闇の底の深い眠りへ沈む玲。


その胸元へ刺さった刀から、紅い炎が不自然に揺らめいた。


まるで黒へ侵されるように。


赫焉の口元が、ゆっくりと歪み、玉座の傍らに控えていた男へ、静かに視線を向けた。


深紅の着物のそこへ咲く白い彼岸花。


片目には銀のモノクル。


冷たい美貌を持つ男は、まるで影のように静かに佇んでいた。


「宵」


名を呼ばれた男が、音もなく膝をつく。


モノクルの奥の瞳が、静かに赫焉を映した。


「あの双子を呼べ」


ただ静かに頭を垂れ、


「――御意」


黒い炎が、闇の中で不気味に揺れていた。


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