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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第3章 お前の核は、我が手の内に
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第30話 明日への希望

玲が倒れてから数日後、紬は透に呼ばれ、再び《夜叉》の施設へ来ていた。


「……なんか、前と雰囲気違う」


以前の《夜叉》は、もっと冷たかった。


息苦しくて、監視されていて、誰もが張り詰めていた。


けれど今は違う。


「こんにちは、風早さん」


「あ、はい……こんにちは」


通りすがりの隊員が、普通に挨拶してくる。


前なら考えられなかった。


紬の隣を歩く紅蓮も、小さく目を細める。


「……変わったな」


「うん……」


何より驚いたのは、


「こちらです」


案内係まで居る事だった。


以前の《夜叉》なら、必要最低限の会話しか存在しなかった。


まるで、本当に普通の組織みたいだった。


案内係の後ろを歩きながら、紬は静かに周囲を見る。


やがて、3人はエレベーターへ乗り込み、あの地下へ向かう。


透が閉じ込められていた場所。


忘れられる訳がない。


静かな機械音と共に、エレベーターが止まり、扉が開いた瞬間、紬は目を見開いた。


「……え」


前と、景色が全然違う。


白い照明に、静かな空気。


消毒液の匂い。


地下はまるで、病院の病棟みたいになっていた。


以前のような、不気味さはない。


そこには確かに、“人を助ける空間”があった。


廊下の両側には部屋が並んでいて、そして扉には、それぞれ名前が書かれていた。


前は番号だけだった。


人じゃなく、“管理対象”みたいに。


今はちゃんと一人一人、名前が付いた部屋がある。


案内係が足を止めると、


「この中で、透さんがお待ちです」


そう言って示した扉を見た瞬間、紬は息を呑んだ。


『000 黒崎 玲』


その文字を見て、胸が少し締め付けられる。


前は恐怖しかなかった番号。


でも今は違う。


紬は静かに扉へ手を掛け、中へ入ると、


「……透先輩?」


透が振り返る。


けれど、いつもと違った。


白いスーツのような服には見覚えがある。


その姿を見た瞬間、紬は小さく目を見開く。


「もしかして……その格好……」


玲が着ていた服装に、よく似ていた。


透は少し困ったように笑って、静かに頷く。


「うん。玲さんが目を覚ますまで、僕が一時的にリーダーになる事になったんだ」


そう言って、透はベッドへ視線を向ける。


「……もちろん、無理やりじゃないよ。僕が上に頼み込んだんだ」


透の視線の先には、玲が静かに眠っていた。


胸元には、玲自身の刀が突き刺さったまま。


紅蓮の焔を纏った刃は、今も黒い呪いを封じ込めるように静かに脈打っている。


痛々しい姿のはずなのに、不思議と玲の表情は穏やかだった。


まるで、ただ眠っているだけみたいに。


紅蓮が玲を見下ろす。


「……状況は?」


透は小さく首を振った。


「この状態でも、心臓は動いてるし、脳波も問題ない。健康そのものなんだ」


呼吸もあり、身体も温かそうだ。


それなのに、目だけが覚めない。


呪いが、玲を眠らせ続けている。


紬はゆっくり玲の傍へ近付き、


そしてそっと、その手を握った。


「……温かい」


思わず零れた声。


玲はちゃんと生きている。


紬は透を見上げたが、


「玲さんが助かる方法は……ありますよね?」


透は答えなかった。


代わりに、紅蓮が低く呟き、


「……親父を消滅させるしか、ないかもな」


けれど、その言葉は重かった。


「……だが、玲もどうなるか」


部屋へ沈黙が落ちる。


玲と赫焉は、呪いで深く繋がっている。


もし赫焉を消した時としても、玲まで——。


そこまで考えて、紬は強く首を振った。


「……絶対、玲さんを助ける」


紬は立ち上がり、真っ直ぐ玲を見る。


「私、玲さんに言いたい事、たくさんあるんだから」


その言葉に、透が少しだけ笑った。


「うん、そうだよね。僕も、玲さんに言いたい事は山ほどあるんだ」


透は静かに紬を見る。


「だから、紬ちゃんには僕からお願いがあるんだ」


穏やかな病室の中、眠ったままの玲の呼吸音だけが、静かに響いていた。


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