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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第3章 お前の核は、我が手の内に
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第29話 憎い、憎いけど貴女も

透と紬は、静かに顔を見合わせた。


罠だという事は、最初から分かっている。


それでも行かなければならなかった。


玲が待っている。


透は紬の手をそっと握った。


「……絶対、僕から離れないで」


紬は小さく頷くと、2人はそのままエレベーターへ乗り込んだ。


狭い箱の中で、警報音だけが遠く響いている。


透の横顔は険しかった。


玲が何を考えているのか分からない。


ただ、嫌な予感だけは、ずっと胸へ張り付いて離れなかった。


やがてエレベーターが静かに停止し、扉が開く。


「……紅蓮!」


紬が声を上げると、廊下の先に、紅蓮が立っていた。


服には血が滲み、腕には銃創が走っている。


それでも赤い瞳は鋭く、真っ直ぐ2人を見ていた。


「……2人とも無事か」


 それだけで、紬の胸に張り詰めていた不安が少しだけ解ける。


「血が出てるよ」


「この程度、かすり傷だ」


紅蓮は余裕そうに言った後、奥へ視線を向けた。


「……お前らも、呼ばれたのか」


廊下の最奥、そこだけ空気が違った。


巨大な扉は近付くだけで、胸を圧迫されるような感覚がある。


紬が無意識に息を呑むと、誰も触れていないはずの扉が、ゆっくり開いていく。


重い音が響き、薄暗い部屋には、壁一面に並ぶモニターがあり、無数の監視映像が流れていた。


その中央に、玲は立っている。


「ようこそ、我がホームへ」


穏やかな声だが、その場の空気は異様に重い。


「……何が目的ですか」


玲は小さく笑い、


「そう警戒するな。一戦交えたいわけじゃない」


そう言って、ゆっくり腕を捲る。


「っ……!」


黒い禍々しい紋様は、まるで生きているみたいに、玲の腕へびっしり刻まれている。


皮膚の下で、何かが蠢いているようだった。


「……そんな……」


玲は静かに紅蓮を見る。


「君なら、これの意味が分かるだろう?」


紅蓮の拳が強く握られ、


「……親父の呪いだ」


と、怒りと苦さが滲んでいた。


「そこまで、進んでやがるか……」


透を閉じ込めた人、傷付けた人。


許せない、それなのに。


今の玲は、あまりにも苦しそうだった。


「……どうにか、ならないの?」


紬は思わず声が零れる。


透が僅かに目を見開き、玲もまた、驚いたように紬を見る。


『……貴様』


突然、低い声が部屋全体へ響いた。


今までの空気とは違い、重く息が苦しい。


紬の背筋へ悪寒が走った。


姿はなく、声だけで圧倒される。


これが赫焉。


『今更、人間達に助けを求めるか。……紅蓮』


声が愉しげに響いたが、


『会いたかったぞ』


紅蓮は睨み返す。


『どうだ? 人間達は、醜くて笑えるだろう?』


その言葉に、紅蓮の拳が震えた。


「ふざけんなよ……」


怒りを押し殺した声だった。


「俺が気に入らないなら、人間に手出してんじゃねえよ!」


部屋の空気が揺れ、赫焉は小さくため息を吐いた。


『……お前は、本当に半端な奴だな。……もういい。お前には失望した』


その瞬間、


「っ、ぁ……!」


玲が突然胸を押さえて苦しみ始める。


腕の黒い紋様が脈打ち、蠢き出したのだ。


「リーダー!」


玲は膝をつき、苦しそうに呼吸を乱した。


赫焉の気配が消え、残されたのは、荒い呼吸を繰り返す玲だった。


「はぁ……っ……」


「……くそっ」


紅蓮が一気に玲へ駆け寄り、


「紅蓮!?」


紬が声を上げる。


紅蓮は迷いなく、玲の腰にある鞘から刀を取り出し、透が息を呑んだ。


「お前、何を——」


「……少し我慢してくれ」


刀身が、紅い焔へ包まれ、熱を帯びた刃が、真っ直ぐ玲の胸元へ向かう。


そして、核へ突き刺した。


「ッ……!」


玲が苦痛に顔を歪め、紬は顔を背ける。


だが次第に、玲の身体から力が抜けていき、そのまま静かに崩れ落ちた。


気を失っているけれど、胸元へ突き刺さった刀は、そのままだった。


刀身へ、黒い紋様がゆっくり吸い込まれていく。


まるで終わる事のない呪いを、無理矢理閉じ込めているみたいに。


「……これはあくまで、応急処置だ。危険だから刀には触るなよ」


静まり返った部屋で、誰もすぐには言葉を発せなかった。


床へ崩れ落ちた、玲の胸へ突き刺さったままの刀だけが、黒い呪いを飲み込み続けていた。


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― 新着の感想 ―
読ませて貰いました。 夜叉が味方なのか敵なのか?? 続きも楽しみにしています。
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