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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第3章 お前の核は、我が手の内に
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第28話 赤い糸は、もう一度

施設内は、やけに静かだった。


警報は鳴っているし、赤い警告灯も点滅している。


それなのに、紬の前へ《夜叉》の部下達は現れなかった。


まるで、誰かに誘導されているみたいに。


「……何で」


廊下へ視線を巡らせても、人影一つない。


静かすぎる。


その不気味さが、逆に紬の心をざわつかせていた。


『紬?』


脳内へ響いていた紅蓮の声も、いつの間にか聞こえなくなっている。


何度か呼び返してみたが、返事はない。


代わりに、耳鳴りのようなノイズだけが脳内へ微かに響いた。


「紅蓮……?」


不安が胸を掠めるけれど、立ち止まれなかった。


此処には透がいる。


そう思うだけで、足は自然と前へ進む。


そして、長い廊下の突き当たりで、紬は足を止めた。


「……え」


壁だと思っていた場所に、僅かな隙間がある。


よく見れば、廊下と同化するように造られたエレベーターだった。


紬はゆっくり近付くと、胸が嫌な音を立てる。


「……開くわけ、ないよね」


半分、自嘲するように呟きながらボタンへ触れた。


——チン。


静かな音と共に、扉が開いたのだ。


「っ……!」


最初から、自分が来る事を知っていたみたいに。


逃げた方がいい。


頭のどこかで警鐘が鳴っていた。


けれど、透がこの先にいると何故か確信出来た。


その思いだけが、紬を前へ進ませる。


ゆっくりエレベーターへ乗り込むと、扉が閉まるのと同時に、スピーカーから穏やかな声が響いた。


『ようこそ、紬さん』


紬の肩が跳ねる。


「……玲、さん」


『お探しの透なら、地下に居るよ』


優しい声音だが、その穏やかさが逆に怖い。


紬が何かを言う前に、エレベーターがゆっくり動き始めた。


「えっ……!?」


慌ててボタンを押すが、止まらない。


地下へ、どこまでも深く沈んでいく。


『安心して。君を、透の所へ案内してあげる』


やはり誘われていた。


分かっていたが、それでも透に会いたかった。


会って、生きている事を確かめたかった。


エレベーターはやがて静かに停止する。


扉が開いた瞬間、冷たい空気が流れ込んできた。


地下は白い照明で、無機質な壁で異様だった。


並ぶ扉のそれぞれの部屋には、番号が振られている。


001、002、003——。


病院のようにも見えるが、人の気配はない。


生きている心地がしない。


『透の部屋は、一番奥だ。……会いたかったんだろう?』


紬の胸が強く鳴り、


『……さあ』


まるで、舞台へ上がれと言われているみたいだった。


紬はゆっくり、一歩ずつ焦らないように、恐怖に飲まれないように、歩き出す。


奥へ進むほど、空気が重くなっていく気がした。


そして、最奥の扉を見た瞬間、紬は足を止めた。


「……っ」


その部屋だけ、異様な空気を感じる。


『000』


その数字を見た瞬間、背筋が冷える。


何故か分からない。


でも、透はこの中にいると直感した。


紬はゆっくり扉へ近付く。


もし透が壊れていたら。


もし、もう自分を覚えていなかったら。


色んな不安が胸を締め付ける。


それでも、紬はゆっくりドアノブへ手を伸ばした。


鍵が開く音が響き、紬の肩が小さく震えた。


紬は息を呑みながら、ゆっくり扉を開いた。


部屋の中は静かで、最低限の家具だけが置かれた、無機質な空間だ。


「……っ」


ベッドの傍に立っていた透が、目を見開く。


以前より痩せていて、頬も少し細くなっている。


それでも間違いなく、透だった。


紬の視界が滲み、


「……とお——」


名前を呼ぼうとした、その瞬間だった。


透が駆け寄って来て、強く抱き締められた。


「っ……!」


息が止まりそうになるほど強い力で、痛いくらいに。


まるで、二度と離したくないみたいに。


透の身体が微かに震えている。


透がこんな風に感情を露わにする事なんて、ほとんどなかった。


「透先輩……」


呼びかける声も震え、透は答えない。


ただ、抱き締める力だけが少し強くなった。


生きてた。


本当に、生きてた。


その温もりだけで、涙が零れそうになる。


『感動の再会の所、悪いんだが』


突然、スピーカーから声が響く。


透の身体がぴくりと強張り、紬も顔を上げる。


『私の所へ来て欲しい』


静かな声だが、その響きには逃げ場のない圧がある。


『……丁度、君の半妖もこちらへ向かっているようだ』


君の半妖ーー、紅蓮も無事なようだ。


『待ってるよ、紬さん、透』


音声が途切れ、部屋へ沈黙が落ちた。


その静寂の中で、透は紬を抱き締めたまま、ゆっくり目を伏せる。


ようやく繋ぎ止めたものを、離すまいとするように。


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