第27話 焔が道筋となり
警報音が、施設中へ響き渡っていた。
赤い警告灯が点滅し、白い廊下を不気味な色へ染め上げていく。
「……面倒だな」
廊下の奥から複数の足音が響き、ぞろぞろと現れたのは、《夜叉》の部下達だった。
黒い戦闘服に、銃口は真っ直ぐ紅蓮へ向けられている。
「《夜叉》は刀で、妖を狩るんじゃねぇのか?」
以前なら《夜叉》は妖と戦うため、近接戦を重視して特殊な刀で戦闘していた。
だが今、部下達が持っているのは銃。
つまり本気で、確実に自分を殺すつもりだ。
「対象を確認。階級不明、半妖の紅蓮。リーダーの命令により、処分を開始する」
銃声が鳴り響き、紅蓮は床を蹴る。
弾丸が頬を掠め、背後の壁へ突き刺さった。
続けて撃ち込まれるが、紅蓮は止まらない。
低く身体を沈め、そのまま一人の懐へ潜り込む。
「がッ……!」
腹部へ拳を叩き込み、男は白目を剥き、その場へ崩れ落ちた。
すぐに次の銃口が向が、紅蓮は壁を蹴り、弾丸を避けながら距離を詰める。
蹴り、肘打ちを軽く食らわせ、最小限の動きだけで、次々と部下達を沈めていく。
だが、殺さない。
急所は外していて、気絶だけで済ませていた。
本気を出せば、人間なんて直ぐに死んでしまう。
妖力を解放すれば、この程度の人数は一瞬だ。
「……罪のない人間を殺す気はねぇ」
部下達は命令に従っているだけだ。
赫焉のように、自分の欲望で人を壊している訳じゃない。
だから殺したくなかった。
再び銃声が鳴り響き、紅蓮は身体を捻って避ける。
だが、腕へ熱が走った。
「っ……!」
弾が掠め、鮮血が滲む。
それでも紅蓮は止まらない。
一気に踏み込み、最後の一人の銃を蹴り飛ばした。
金属音を立てて銃が床を滑っていく。
紅蓮はその胸ぐらを掴み、壁へ叩き付けた。
「透が此処に居るのは知ってんだ。……あいつの刀は何処にある?」
部下の顔が強張ると、数秒後に震える声で答えた。
「……リーダーの所、だ。……あの人は、もう昔とは違うんだ」
苦しそうな声で、部下は震えながら、紅蓮の服を掴む。
「頼む……」
その目には恐怖だけではない感情が浮かんでいた。
「リーダーを……助けてくれ……!」
紅蓮は僅かに目を見開く。
敵であるはずの《夜叉》の部下は、本気で玲を案じていた。
紅蓮は小さく舌打ちし、
「……面倒な事押し付けやがって」
そう吐き捨てると、部下の首筋へ手刀を落とした。
男はそのまま気を失い、静かになった廊下で、紅蓮はゆっくり立ち上がった。
探していた透の刀に、そして玲。
全部、この先にある。
『紬、返事をしろ』
紬の脳内へ呼びかけるが、返事はない。
『……紬?』
嫌な空気が胸を掠め、再び呼びかけようとした瞬間、耳鳴りのようなノイズが走った。
「……結界か」
《夜叉》の施設内部へ張り巡らされた、妖力阻害の結界。
地下深部へ近付くほど、妖術も感知能力も封じられていく。
つまり、紬と連絡が取れない。
紅蓮の赤い瞳が静かに揺れた。
『……返事をしてくれ』
だが、返ってくるのは、ノイズ混じりの沈黙だけだった。




