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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第3章 お前の核は、我が手の内に
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第24話 赤い糸が切れてしまう前に

夜の街は静かで、透はコンビニの袋を片手に、人気の少ない道を歩いていた。


街灯の明かりが、長い影を落としている。


風が冷たく、心地よいと思ったその時だった。


「見ぃつけた」


頭上から子供のような幼い声が降る。


透が足を止めると、電柱の上へ二つの影が着地する。


それは、同じ顔で同じ赤い瞳。


片方は白髪の子で、もう片方は黒髪の子、まるで双子のような子供だ。


だが、人間ではないのは直ぐに分かる。


濃密な妖気が、空気を歪ませていた。


「……妖が僕に、なんの用だい」


白髪の少年が嬉しそうに笑う。


「《夜叉》辞めたんだって?」


黒髪の少年は無表情のまま透を見つめた。


「弱そう」


透はコンビニ袋を静かに地面へ置く。


「誰に頼まれた」


白髪の少年がにぃっと口角を上げた。


「赫焉様」


その名前に、透の空気が変わる。


「君を壊せって」


すると、白髪の少年の姿が消え、


「っ!」


反応した時には、透の腹部へ衝撃が叩き込まれていた。


「がっ……!」


透の身体が吹き飛び、背中から壁へ激突し、コンクリートが砕けた。


今までの妖とは格が違う。


透が顔を上げた瞬間に、黒髪の少年が目の前へ現れる。


鋭い蹴りが飛び、透は咄嗟に腕で防ぐが、骨が軋む音が聞こえた。


「っ……!」


白髪の少年が楽しそうに笑った。


「すごーい、まだ立てるんだ」


透は荒い呼吸を整えながら立ち上がる。


二人とも、中級妖とは思えない。


それ以上に厄介なのは連携だった。


まるで同じ意思を共有している。


「殺す?」


白髪が首を傾げると、


「んー、でも赫焉様、“壊せ”って言ってたし」


二人同時に動き出す。


「っ!」


右を防いでも、左から衝撃が来て、腹部へ拳がめり込む。


「か、はっ……!」


そこへ黒髪の少年の蹴りが入り、透の身体が地面へ叩き付けられた。


アスファルトが割れ、血が広がった。


「弱くなってるね」


「人間だから?」


透は血を拭いながら睨み返し、


「……うるさい」


ふらつく足どりで立ち上がる。


明らかに力の差があるのに、それでも退かない。


双子は顔を見合わせ、くすくす笑った。


「ほんとだ」


「情に飲まれてる」


二人が再び消え、透も地面を蹴った。


透は刀を取り出し、刃が拳とぶつかり、衝撃で空気が震える。


だがこちらは1人、


「っ……!」


圧倒的に不利だった。


透は頬を殴られ、脇腹へ蹴りが入り、背中へ衝撃が走る。


骨が悲鳴を上げているが、それでも透は倒れない。


「透先輩!」


今、聞こえて欲しくない声が届き、透の目が揺れる。


路地の先には、血が宿る刀を手にした紬が立っていた。


「っ、来るな!!」


透が叫ぶと、白髪の少年が紬を見る。


「あ、この子だ」


空気が凍り、透の殺気が跳ね上がる。


「触るなッ!!」


透は刀を放り出し、白髪の少年の頬へ拳を入れた。


その一撃で白髪の少年の身体が吹き飛び、黒髪の少年の瞳が初めて僅かに揺れる。


「……へぇ」


透は白髪の少年には目もくれずに、急いで紬の前へ立った。


血まみれの身体で、呼吸も乱れているが、それでも愛する人を守りたい。


「紬ちゃん……逃げて」


「で、でも……!」


「早く!!」


白髪の少年が瓦礫の中から立ち上がり、口元に血を滲ませながら、嬉しそうに笑う。


「わぁ。今の、赫焉様が嫌いそう」


「壊しがいある」


また、二人同時に突っ込んできて、透も前へ飛び出すが、


「っ、ぁ……!」


透の動きが鈍っていく。


あまりにも出血が多すぎる。


白髪の少年の蹴りが脇腹へめり込むと、そのまま拳が腹部を貫いた。


「がっ……!」


鮮血が飛び、透の身体が揺れる。


それでも、透は貫いた腕を掴んだ。


「紬ちゃんに……!近付くなぁぁぁッ!!」


だが、黒髪の少年が背後へ回り、


「残念」


透の目が見開かれる。


鋭い爪が、透の胸を深く裂いた。


鮮血が夜へ散り、


「透先輩ッ!!」


紬の悲鳴が響き渡る。


透の身体が崩れ落ち、地面へ血が広がっていく。


呼吸が浅く、もう立ち上がれない。


白髪の少年がしゃがみ込み、


「これくらいでいっか」


黒髪の少年も静かに近づいた。


「死ぬ?」


「どうだろー」


二人が笑っていると、


「——そこまでだ」


あの、低い声が聞こえ、空気が変わる。


双子の動きが止まったと思うと、紬の後ろから黒い車が止まり、そこからリーダーがゆっくり姿を現す。


冷たい目で、双子を見据える。


「……《夜叉》」


白髪の少年が少し顔をしかめたが、リーダーは透を見下ろす。


血まみれで、呼吸も弱い。


「……重症だな」


「助けてください……!透先輩が……!」


リーダーは紬を一瞥し、やがて透へ視線を戻す。


「優秀な人材だからね。失うには惜しい」


そして背後の誰かへ命じると、


「回収しろ」


《夜叉》の部下達が次々と車から降り、透の身体が担ぎ上げられる。


「ま、待って!」


紬が追いかけようとするが、部下が前へ立ち塞がった。


リーダーは振り返らず、


「病院じゃ間に合わない。《夜叉》の施設へ運ぶ」


透の力なく垂れた手が、車内へ消える。


「透先輩……!」


紬の声が夜へ響くが、本人からは返事はない。


やがて車の扉が閉まり、黒い車は静かに走り去っていった。


残されたのは、静かな夜と残酷な血の跡だけ。


紬はその場へ崩れ落ちる。


手がいつまでも震え、涙が止まらない。


「……私、何も、出来なかった……」


透はずっと守ってくれた。


自分のために傷付き、血を流して、それでも最後まで立っていた。


なのに自分は、何も出来なかった。


「私がいたから……」


溢れてくる涙が地面へ落ちる。


「透先輩が……」


遠ざかっていく車は、もう見えなかった。


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