表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第3章 お前の核は、我が手の内に
PR
23/77

第23話 それぞれの守りたいもの

放課後の教室は静かだった。


窓の外では、夕焼けが校舎を赤く染めている。


生徒達の声も遠く、教室には紬だけが残っていて、透が来たのはいいが、様子がおかしい。


「透先輩?」


紬は不安そうに透を見る。


そういえば、昼頃からどこか、様子がおかしかった。


ずっと何かを考えているような顔をしている。


透は少しだけ目を伏せ、それから静かに口を開いた。


「……紬ちゃんに、話したい事があるんだ」


透の声に、紬の胸がざわつく。


透は少し迷うように沈黙してから、真っ直ぐ紬を見た。


「僕、《夜叉》を辞めた」


「え……?」


理解が追いつかない。


《夜叉》は透の居場所だった。


戦う場所であり、生きる理由でもあったはずだ。


「ど、どうして……」


「紬ちゃんを守りたいから」


真っ直ぐな言葉は、紬の胸をざわつかせた。


「《夜叉》にいる限り、君は傷つき続ける。だから、逃げるのをやめたんだ」


その瞳には迷いがなく、紬は苦しそうに唇を噛む。


「……私の、せいですか」


透はすぐに首を横へ振った。


「違う。僕が、自分で決めたんだよ」


一歩、透が紬に近づき、


「君を守りたいって、思ったから」


と、紬はその言葉が胸へ刺さる。


(……好き)


その気持ちが溢れそうになる。


けれど紬は俯いたまま、何も言えなかった。


透もまた、それ以上は言わない。


ただ静かに微笑むだけだった。











そんな日の夜、人気のない廃ビルの屋上は、冷たい風が吹き抜ける。


紅蓮はフェンスへ寄り掛かりながら、夜景を見下ろしていた。


「……何だよ、話って」


屋上に来た透が足を止め、紅蓮は振り返らずにアイスの棒を咥えたまま夜景を見つめていた。


「僕、《夜叉》を辞めた」


やがて紅蓮は小さく鼻で笑い、


「知ってる。紬を守りたいんだろ」


と、アイスの棒を透に向けた。


「……そうだよ」


その返答に、紅蓮は僅かに目を細める。


以前の透なら、誤魔化していた。


だが今は違う。


「……親父が動き出した」


「赫焉が?」


「ああ。親父は情を嫌う。半妖である俺もな」


紅蓮の瞳のその奥には深い嫌悪が滲んでいた。


赫焉がどれほど異質なのか、透にも少しずつ分かり始めていた。


「……狙われているのは俺だけじゃない。紬も、赫焉に目を付けられた」


透の拳が強く握られ、紅蓮は少しだけ目を伏せた。


「もし、俺に何かあった時は……紬に手を貸してやってくれ」


紅蓮が誰かに頼る事は、今まで一度もなかった。


赫焉が本気で動けば、自分だけでは守り切れない。


それを理解している。


「……言われなくても、僕は紬ちゃんを守る」


その時、


「お久しぶりですねぇ、紅蓮様」


と、穏やかな聞き覚えのある声がする。


透が振り返ると、屋上のドアの前で、月明かりの中、深紅の着物が揺れていた。


宵が紅蓮と透にわざとらしく頭を下げた。


「……親父の犬が」


「酷い言い様ですねぇ」


怒る様子もなく、むしろ楽しんでいるようだった。


宵はモノクルへ指先を添え、


「赫焉様がお探しですよ」


と、微笑んだ。


紅蓮の空気が僅かに鋭くなるが、宵は気にした様子もなく、透へ視線を向けた。


「それにしても、随分と人間に肩入れなさるのですねぇ」


「……黙れ」


「失礼。ですが、あの娘」


宵のモノクルが月光を反射する。


「大切なのでしょう?」


紬の事を口にした瞬間、紅蓮と透の殺気が漏れる。


だが宵は微笑み、そしてゆっくりと背を向ける。


「壊れるのも時間の問題、でしょうねぇ」


深紅の着物が闇へ溶けていき、残された紅蓮と透は、黙ったまま強く拳を握り締めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ