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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第2章 手の上で、踊る
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第18話 駒は踊り狂う

薄暗い部屋に、壁一面に並ぶモニターがあり、無機質な光だけが、静かに室内を照らしている。


その中央で、玲は椅子に腰掛けていた。


頬杖をつきながら、画面を見つめている。


モニターの中では、透が烏天狗と戦っていた。


爆風に烏天狗の大きな羽音。


そして透の乱れる呼吸は、普段ならあり得ない動きだった。


避けられるはずの攻撃を受け、壁へ叩きつけられる。


《夜叉》の命である、刀まで落とした。


部屋の端にいた部下が、小さく息を呑む。


「……透さんが、押されています」


玲は答えず、ただ静かに画面を見ていた。


烏天狗が葉団扇を振り上げる。


あの追撃は、致命傷になってもおかしくない一撃だった。


「応援を出しますか?」


部下が尋ねるが、玲は小さく笑った。


「必要ない」


その言葉と同時に、モニターの端に、新しい反応が映る。


高速で近づく一つの点を確認し、玲の口元がわずかに歪む。


「……ほら、来た」


その点は、紬の端末だった。


紬は烏天狗の暴風を、刀で受け止める。


赤く染まり始めた髪に、少しずつ変化する気配。


部下は目を見開いて驚いているようだが、


「髪が……」


玲だけは静かに笑っていた。


「やはり、感情が引き金か」


モニター越しに、紬を見つめる。


それはまるで、実験結果を確認する研究者みたいだった。


「透先輩を守る番です」


スピーカー越しに紬の声が響き、透の表情が変わる。


透の様子を見て、玲は目を細めた。


「面白い」


部下は完全に言葉を失っていた。


目の前の戦闘が、偶然には見えなかったからだ。


透が烏天狗を斬り、戦闘は終了した。


モニターには、向かい合う二人の姿が映っている。


透が何かを言いかけたようだが、此方からでは聞き取れなかった。


紬が首を傾げると、玲は静かに笑った。


「予想以上だ」


「……どこまで、想定していたんですか」


玲は、視線をモニターから外さない。


「透は、早風 紬が絡むと冷静さを失う。だから単独任務にした」


あまりにも自然に、まるで当然のことみたいに呟いた。


「そして、早風 紬は透を放っておけない」


部下の背筋に、冷たいものが走る。


全部、読まれていた。


透の感情も、紬の行動も、玲には全部分かっていた事。


玲は静かに椅子へ背を預けた。


「だが、まだ足りない。彼女は、もっと上へ行ける」


数秒の沈黙が走り、そして玲は淡々と言った。


「訓練用の中級妖を放て」


「……中級妖、ですか?」


「ああ」


「ですが、まだ危険です。早風 紬は——」


「死なせるつもりはない」


部下の言葉を遮るような即答だった。


「誤作動があれば、妖の首輪が作動して爆発する。……早風 紬を、襲わせるんだ」


部下は、一瞬だけ黙り込むが、その命令が、“試験”だと分かったからだ。


玲は静かに立ち上がる。


モニターの中では、透と紬が何も知らないまま、まだ向かい合っていた。


「覚醒には、強い感情と死線が必要だ」


その声だけが、静かな部屋に残った。











「……で?」


紅蓮がアイスを咥えたまま、ベッドに寝転びながら、じっと紬を見ている。


「何が?」


紬はコンビニ袋からアイスを取り出す。


戦闘帰りに透がお礼がしたいと、コンビニでアイスを買ってくれた。


「随分と必死だったじゃねぇか」


「……透先輩、危なかったから」


「それだけ?」


「……うるさい」


紬はアイスの袋を雑に開けるが、少しだけ耳が熱い。


紅蓮はそんな紬を面白そうに見ていた。


「顔赤いぞ」


「赤くない」


紅蓮は完全に楽しんで、紬を茶化している。


紬は視線を逸らしながら、アイスを一口食べた。


冷たい甘さが広がり、戦闘での身体の火照りを冷ましてくれる。


透が傷つくのも、嫌だった。


なのに、透の顔を見た瞬間、胸の奥が妙に苦しくなった。


「……」


「あいつなんか、泣きそうな顔してたぞ」


「……え?」


「お前が来た時の話」


「……そんな顔、してなかった」


「してた」


「まぁ、お前は鈍感だから、気づいてねぇだろうけど」


「……何それ」


紅蓮はそれ以上言わず、ただ意味深に笑うだけだった。


静かな時間が流れ、窓の外では心地よい夜風が揺れていた。


その時、


「……なんか臭い」


紬がふと顔を上げる。


「は?」


「外……から?」


窓の方を見つめると、何だか嫌な感じがした。


鼻の奥に残る、鉄みたいな臭い。


胸の奥が、ざわつく。


紅蓮の表情が変わり、さっきまでの軽さが消えた。


「……妖の臭いだ。しかも近い」


夜の街の向こうで何かが、紬を呼んでいるようだった。


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