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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第2章 手の上で、踊る
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第19話 高ぶる血の気に

夜風が、窓を揺らしていた。


紬はベッドからゆっくり顔を上げる。


胸の奥が、ざわついていた。


鉄みたいな、生臭い嫌な臭いがする。


しかも、それは近付いてくる。


「……なんか臭い」


紅蓮がアイスの棒を咥えたまま眉を寄せた。


「は?」


「外……かな?」


胸の奥が妙に落ち着かない。


嫌な予感が、ずっと胸に張り付いていた。


その瞬間、外で爆発音が響き、窓ガラスが大きく震える。


続いて、人々の悲鳴が所々から聞こえ始めた。


「っ……!」


紅蓮の顔つきが変わり、さっきまでの軽い空気が、一瞬で消えた。


「……妖の臭いだ。しかも近付いてくる」


紬は迷わず、血が宿る刀の柄を掴む。


「行く!」


窓から飛び出し、夜の街を駆ける。


アスファルトを蹴るたび、胸の奥の熱が強くなっていく。


嫌な感じが消えない。


むしろ、近づくほど濃くなる。


曲がり角を抜けた瞬間、紬の足が止まった。


「……っ」


黒い獣は、大型犬より遥かに大きい身体で、逆立った黒毛は、紬を警戒しているようだ。


異様に長い牙に、赤黒く濁った瞳。


そして何より、不自然な首輪が気になる。


餓狼(がろう)の低い唸り声が、夜道に響く。


紅蓮の表情が険しくなり、


「……おい」


餓狼の目が、ゆっくりと真っ直ぐ、紬を捉えた。


紬の背筋が粟立ち、殺意がひしひしと伝わってくる。


「下がれ、紬。コイツ、普通じゃねぇ」


紅蓮がそう言うと、いつの間にか餓狼が消えていた。


「っ!?」


消えた瞬間は速すぎて見えていなかったが、横から衝撃が来た。


「がっ……!?」


紬の身体が吹き飛び、壁へ叩きつけられ、肺から空気が抜けた。


「紬!」


紅蓮が腕に炎を纏い、餓狼へ飛びかかる。


火花が散り、餓狼の爪が、紅蓮の拳を受け止めていた。


あまりにも、餓狼の力が重い。


あの紅蓮の顔が歪む。


「……なんだよ、この力」


餓狼が低く唸る声は、腹の底まで響く、不気味な音だ。


爪が振り下ろされ、紅蓮が受け止める。


だが、足元の地面が砕けた。


「っ……!」


紅蓮が押されていて、紬の呼吸が止まりそうになる。


(紅蓮が……?)


今まで、紅蓮は余裕だった。


どんな妖相手でも。


餓狼が口を開くと鋭い牙が光り、赤黒い唾液が紅蓮に滴る。


このままだと、紅蓮が殺される。


本能が、叫んだ。


「紅蓮!!」


紬が飛び出し、血の刀を振るう。


だが、餓狼の爪が刀を止めた。


紬には重過ぎて、腕が痺れる。


餓狼の赤い目が、紬を映す。


すると首輪が赤く点滅し、電流が流れた。


「グルァァァァァッ!!」


餓狼が苦しそうに吠え、巨体が痙攣する。


そんな姿に、紬は目を見開いた。


「……っ!?」


まるで、無理やり従わされているみたいだった。


紅蓮の顔が歪み、


「……無理やり従わせてんのか」


と、首輪が再び光る。


餓狼の目が、さらに濁った。


まるで、理性を押し潰されるみたいに。


「狂ってやがる、《夜叉》……!」


餓狼が再び紬へ飛びかかり、


「っ——!」


紬は必死に避ける。


だが、餓狼のスピードが速く、追いつかれてしまう。


紬は肩を裂かれ、鮮血が舞う。


それでも、餓狼をどうにかしないと街が危険だ。


「紬!」


紅蓮が叫ぶが、餓狼が邪魔させないように前へ立つ。


紬だけを狙っているようだ。


危険な首輪が赤く光る。


怖くて仕方ないのに、


(……倒さなきゃ)


紬の頭の奥で、何かが軋んだ。


餓狼が迫ってくる。


鋭い牙に、寒気がする程の殺意。


紬が刀の柄を強く握ると、いつもより熱く感じた。


柄から、脈打つみたいな熱が伝わってくる。


髪が揺れたと思うと、赤が広がり、前髪と襟足まで広がっていく。


紬の様子を見た紅蓮の顔色が変わる。


「おい、待て……!」


紬が踏み込むと、一瞬で餓狼に近付いた。


さっきまでとは比べ物にならない。


餓狼が目を見開くと同時に、紬の刃が届き、黒い毛が宙を舞って血が飛び散る。


餓狼は暴れ始め、爪が紬の頬を掠め、牙が腕を噛む。


紬の身体に傷が増えるが、それでも止まらない。


なんだか頭が、ぼやける。


「紬!!」


紅蓮が叫んでいるようだが、紬には聞こえていない。


餓狼が吠えると、紬が笑い出す。


自分でも分からなかった。


どうして笑っているのか。


ただ、目の前の獲物を壊したいだけ。


首輪が激しく点滅し、餓狼が苦しそうに唸った。


逃げたい、助けて、と。


それでも首輪は、餓狼を手放したりはしない。


「ガァァァァァァッ!!」


紬の斬撃は止まらず、最後の一撃が餓狼の首を斬り裂いた。


黒い血が噴き出し、巨体が崩れる。


首輪が火花を散らして、餓狼の赤い目から、ゆっくり光が消えていく。


戦闘は、これで終わったはずだった。


なのに、紬は止まらなかった。


何度も、何度も、何度も、肉を裂き、血の臭いが辺りに漂う。


紅蓮の顔が青ざめ、


「紬!!」


と呼ぶが、紬は反応しない。


赤く染まった目に、乱れた呼吸。


理性が、完全に消えていた。


その時、


「紬ちゃん!!」


あの、優しい聞き慣れた声が響く。


紬の刀が止まり、ゆっくりと振り返る。


そこにいたのは透だった。


透の目が、大きく見開かれる。


「……紬ちゃん?」


いつもより赤く染まった髪に、血塗れの刀。


そして何より、紬の目が違う。


そこに、いつもの理性はなかった。


透の背筋を、冷たいものが走る。


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