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半妖の黙示録ー契約の成れの果てー  作者: くろあげは。
第2章 手の上で、踊る
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第17話 守りたいなんて言わないで

鈍い痛みが、遅れて広がる。


背中を打ちつけた衝撃で、呼吸がうまくできない。


視界の端で、黒い影が揺れた。


烏天狗は相変わらず、電柱の上から、赤い目で見下ろしている。


その手に握られた葉団扇が、ゆっくりと持ち上がる。


透が動けない内に、追撃が来てしまう。


(……まずい)


刀は手から離れていて、身体もすぐには動かない。


もう、逃げ場はなかった。


風が唸り、葉団扇が振り下ろされる。


暴風が、一直線に透へ向かう。


「っ——!」


その瞬間、一つの影が割り込んで来た。


甲高い音が弾け、暴風が真っ二つに裂けたのだ。


「……っ!」


透の目が見開かれ、目の前にいたのは紬だった。


両手で血の流れるあの刀を握り、正面から風を受け止めている。


足元が滑るが、それでも一歩も退かない。


「紬ちゃん……!?」


信じられないという声が漏れる。


紬の髪が揺れ、黒髪の中に、赤が混じり始めた。


前髪だけじゃない。


襟足にも、じわりと色が広がっていた。


紬の刀がわずかに脈打ち、柄を通して熱が伝わる。


「……守る」


その声は静かで、力強かった。


烏天狗が一瞬動きを止め、警戒するように距離を取った。


透は言葉を失い、ただ紬の逞しい背中を見ていた。


「なんで……なんで来たんだ!」


掠れた声だが、透の声は怒りをも含んでいる。


けれどその奥に焦りと、悔しさもあった。


紬は振り返らず、視線はずっと烏天狗へ向けたまま、


「……分かりません」


と、短く答えるだけだった。


「でも、透先輩が心配だから。いつも……私のこと、心配してくれて」


紬の、刀を握る手に力がこもる。


「今度は私が、透先輩を守る番です」


その言葉には、迷いがなかった。


紬が刃先を烏天狗へ向けると、赤が混じる髪が夜風に揺れて、幻想的に思えた。


透は、何も言い返せない。


(……来るなって)


言わなければならない。


ここは戦場で、これ以上紬を巻き込むべきじゃない。


(でも……無事でよかった)


そう思ってしまった瞬間、自分に嫌気が差す。


烏天狗が再び動き、葉団扇が持ち上がる。


風が膨れ上がり、紬が踏み込もうとする。


「下がって」


紬の動きが止まり、わずかに振り返ると、


「ここからは、僕がやる」


透が柄を握り、立ち上がったいた。


その言葉には、迷いがない。


透は柄を強く握り、


(……情けないな、僕。紬ちゃんに守られてどうする)


と、ゆっくりと息を吐く。


烏天狗が嗤い、葉団扇を振るう。


暴風が迫り、透は見た事のない動きを見せ、真正面から風の流れを読み、身体を滑り込ませる。


「同じ攻撃は、もう無意味だよ」


銀の軌跡が、夜を裂いたと思うと、黒い羽が宙に散る。


烏天狗の動きが止まり、赤い目がわずかに揺れた。


そして、その身体が静かに崩れ始めたのだ。


夜の闇に溶けるように、消えていく。


静かな夜に戻り、風も、止んだようだ。


透は、その場に立ったまま動かない。


ふと、紬と目が合う。


(……無事でよかった)


胸の奥が強く鳴り、でもこれは戦闘の余韻じゃない。


もっと別のものな気がする。


「……」


「……好き——」


そう言いかけ、自分で気づく。


今、何を言おうとしたのか。


「……なんでもない」


小さく言って、視線を逸らした。


紬は、少し首を傾げる。


「……今、何か言いましたか?」


「いや、何でもないよ。帰ろう、助けてくれたから、アイスでも奢らせてくれないかな?」


さっきまでとは違う空気。


でも、まだ言葉にはならない距離だ。


夜の路地に、静かな時間が流れていた。


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