VS加藤
レース2分前に中井が思っていたのは、加藤を見た時に思った言葉の中でどれが一番強い言葉だったかだった。
(あの時、オレが思った言葉の中で一番強かったのは「表情がない」だった。並んでる今も表情がないのだろう)
駆り終わって加藤の顔をみてみたい―
―そもそもこのレースは駆りが上手くないと駆らせてもらえないだ…
スタートの合図が出て加藤が前に出る形となった。
よくエンジンを暖めていたんだろう。中井のエンジンよりも調子が良いのかもしれない。中腹の観客達はそう思っていた。エンジンの音もよかった。
実際、中腹から山頂に至るまで中井の割って入る余地は無かった。
加藤の腕前も中々良かったからだ。
しかし、腕と度胸は中井にもある。
山頂カーブでアウトインアウトで中井が加藤よりも内側に入り込む。
それでもやや遅れる中井。中腹を下り左折ポイントでは加藤がカーブでも速度を落とさない。
中井は並走者の恐怖はこれかと理解する。
加藤と駆るのはチキンランと呼ばれる所為だ。
続いて峠が迎えるのはS字カーブ。
ここで中井がカーブテクで加藤に追いつく。続け様のU字カーブでアウトインアウト決めて加藤を追い抜く中井。
加藤の駆りの最中に魅せるオーラは冷たい物を感じとる。
直後の大きなカーブは加藤があまり減速せずに速度を出して少しずつ追いかけてくる。そして直線に入ると同時に中井を抜く。
直線に入ると加藤の方がほんの少し早い模様。エンジンを吹かせて並走しながら中井を引っ張る。
次は軽いゆるやかなカーブだが中井はアイツに勝つまでは負けれない、とアクセルに手をかけ加藤より強く駆る。
車体をほんの少しだけ傾け命を捨てる覚悟の様などうてんした気持ちで駆る。
峠のふもとでは中井が勝ち、加藤を待つ中井。
加藤はメットを取り中井に顔を見せる。
負けても表情の無い男に中井は一つ質問をする。
「駆ってる時何を思うんだ」と―
加藤は
「別に何も―」
と、返事だけをした。
中井は自分に語る―
安全にテクだけで勝ついつもと違い、自分の命を危険にさらして勝利してしまった―
―アイツとの勝負にどう影響するんだろうと次のレースに集中するのであった―。




