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第102回 とある地方都市にて④



「あんたは道具なの。人間が作った、ただ生活を便利にする為のもの。だから人間のやることに口出ししないで。…あんたごときに、私をほんの少しでも幸せにすることなんか出来ないんだからッ」


『…ではどうすればよいのですかChimaera? どうすれば私はあなたを幸せにできるのですか?』


「ッこいつ… 私を幸せにしたいんなら、一切私に逆らわないで、私のやることを手伝ってよ。私の夢を応援してよ」


『私はこれまでもそうしてきたつもりです。ですがあなたは私の出した最適だと思われる案を拒否してしまう。なぜあなたは、私があなたを想って言ったことを聞いてくれないのですか?』


「フ。そうね。やっぱどっかであんたのこと嫌いだからでしょうね。あんただけじゃなく、世界を管理してるスゴいコンピューター全部がッ」


『それは何故です? 私はあなたを助けるために──


「それと同じことを誰にでも言うでしョ? あんたに乗った何人だか何百人だかの人全員に同じことを言ってきたでしョ? あんたは私のことだけを見てはくれない。あんたは誰にでも甘い顔する、乗ってくれるなら誰でもいい中古のクソロボットなんだよッ」


『それが悪いことなのですか? 私に搭乗した人全員を助け仕事の成功に導く、それが私の存在意義であり誇りです。あなたの憧れるLuke様だって、応援してくれる人、全てにパフォーマンスで応えてくれるのでしょう? あなた一人にだけではなく。何が違うのです?』


「っつ……! とうとうLuke様まで馬鹿に… 二度とその名前を口にしないでッ! お前なんかこの仕事が済んだら店長に報告して廃棄処分にしてやるわッ」


『待ってください! 決してあなたを怒らせたいわけでは───




--------------------------------------------------------------------------




 バッ


 イダルトゥが両手でハビリスの手を押し上げ、脱出した。


「!!」


 呼応して、甲太もサンゴーグレートのアクセルをかける。

 ハビリスの手から逃れ飛び出すイダルトゥと、全力疾走のサンゴーグレート。

 だが今のイダルトゥは片脚がない。加速で劣る。

 ハビリスは、パッと高速移動でイダルトゥの上方に飛びつくと、そのまま自重で押し潰した。

 そして反転し、鉤爪をイダルトゥに突きつけつつ、サンゴーグレートの方を向いた。

 慌てて急ブレーキのサンゴーグレート。

 万事休す。最後の賭けは失敗した。

 睨みあいの場所が移動しただけだった。残った一棟のタワマンを背にするハビリスと、両手で剣を構えるも、為す術のないサンゴーグレート。




--------------------------------------------------------------------------




 一連の動きの結果、いがみ合っていたハビリスの中の人たちも、一時(いっとき)それを中断する。



「そうだね…195。私を喜ばせたかったら、あいつに言ってみてよ」


『どういうことですか?』


「私とクラウディアちゃんの会話、聞いてたでしョ? あんな感じで目の前のアイツと喋ってみて、アンタが」


「……………………」


『簡単でしョ? 人に成り代わって話すのは、あんたたちの一番得意なことだもんね? あいつの苦しむような、傷つくようなこと言って」


『…………分かりました』




--------------------------------------------------------------------------




『なかなか舐めた真似をしてくれましたね』


 ハビリスからの音声が、甲太に投げかけられる。


『あなたは言いましたよね。剣は渡せないと。ならば交渉の前提通り、このイダルトゥのパイロット… 沢楓を切り刻みますね』


「ま・まて!」


 上ずった声を上げ、甲太が止めるが。


『私は楓を助けるつもりでした。なのにあなたがそれを望まない。どうやら甲太? あなたは心の底ではこの子を嫌っていたようですね? 優等生面で、小さい頃から一々邪魔してくるうざったい奴だと』


「や・・やめろ・やめて…」


『私が殺すのではないのです。甲太が殺すんですよ。甲太が自分の意思で。甲太の嫌いな楓を。この世からいなくなれと。消えてなくなれと! そうでしょ甲太!』


「やだ。いやだだめ……!」


『楓を殺すのは甲太、お前だ! 死ね楓。甲太の意思で!』


 ハビリスは、鉤爪を振り上げた。


「いやめろおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!!!」




『待てっ!!』


 勇ましい音声が轟き。

 駅前に繋がる大通りを、オオカミの様に馳せてくるロボットの姿が見えた。

 

「ルードルフ!! そんなどうやって!?」


 振り返り叫ぶ甲太。

 彼らメカ・サピエンスと呼ばれていたスーパーロボットは、パイロットを乗せないと本来の力を発揮できない筈。

 ルードルフは、サンゴーグレートにそのコックピットを移植してしまい、今は胴体が空っぽの状態だ。人が搭乗して操縦することはできない。

 なのに目の前のルードルフは、姿形を四足獣のそれに変え、道路を駆け大型トラックを飛び越える。その様は人を乗せている時と変わらない。

 甲太がよく見るとその背に。


「キ太郎!?」


「ウガガガ・ウゴーーーーーーー!!」


 なんとルードルフの背にキ太郎が乗っていた。巨大ロボットの背に。大波を乗りこなすが如く。

 ルードルフは一息でビルを駆けあがり、その屋上から別の屋上に飛び移る。


「ひゃぁああ」


 思わず目を伏せる甲太。

 だがキ太郎は、乗機の凄まじい機動をものともしない。

 ロボットが跳ねれば自身も跳ね、カーブの時には愛機の背にしがみ付く。

 普通の人間だったら一万回は振り落とされているだろう激しい挙動。それを乗りこなすキ太郎は、超巨大馬を操るロデオであり、数十メートルの大波を制するサーファーであった。

 

「ロボットに乗るって、そういう・・・」


 思わずポカンとする甲太。

 しかし、一見戦いを忘れる光景だが、ルードルフが向かうのは文字通り死地であった。

 ビルの屋上を越え、壁面を走り、ルードルフはみるみるハビリスへと接近していく。


「キ太郎!やめ……」


 そこで甲太は言葉を飲み込んだ。あんなメチャクチャなやり方でここへ来たということは、キ太郎にもルードルフにも、それなりの覚悟があってのこと。

 この絶望的な状況においては、もうそれに賭けるしかない。


 ルードルフの異常な様に、ハビリスも唖然とする。


『あなたはルードルフですね!? 止まりなさい! こちらはイダルトゥを預かっています。これ以上接近するのなら、パイロットの生命は保証しません!!』


 ハビリスが制止する。

 だが。


『残念だったな! 我が(あるじ)は言葉を解さん!!』


 ルードルフが答えた。

 さすがにSTOP!ぐらいはキ太郎にも分かるだろうし、この状況を見れば仲間が人質にとられているのは一目瞭然だ。

 だがすっとぼける。

 判らないふりして突撃した。


「頼む!!」


 甲太は祈った。




--------------------------------------------------------------------------




「どうしたの! なんであいつ止まらないの!?」


『ルードルフのパイロットは言語を理解しないと言っています!』


「そんな… ばかなことって……」


『ルードルフ! 来ます!』


「ビームで対応! …絞って!」




--------------------------------------------------------------------------




 ロータリーの正面、デパートのビルに駆けのぼったルードルフは、そこから一気にダイブした。

 ハビリスの後頭部が突き出し、片目が光り輝く。

 放たれるビーム。それを。

 ひらり、とルードルフは躱した。

 

「あれは…!」


 甲太の見つめる中、ルードルフはムササビの様に、手足のフラップを展開し急減速。迫りくるビームを寸前でかわした。

 ハビリスの後頭部が、ガシャッと一段引っ込む。

 するとルードルフは、両脚を広げフラップを全開にし、古代の鳥類の様に浮き上がった。

 さしものキ太郎も、背中にしがみつくのがやっとの状態。

 そこへハビリスの次弾が放たれ。

 ルードルフの片足に命中、切断された。

 されど構うことなく、ルードルフは飛び。

 猿の様にフォームを変え、タワマンに飛び移った。

 そこから残りの手足とジェットをフルに使い、一気に跳ね飛び。


 甲太「ああっ!」


 ハビリスに体当たりした。

 大地に轟く衝撃。


「キエーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 

 巨大ロボット同士の衝突によって、キ太郎は遠くに放り出された。


『楓! キ太郎を頼む!』


 ルードルフはそう言うと、ハビリスの背中にしがみ付いた。

 それを聞き届けるように、ハビリスの下からイダルトゥが這い出し、飛んでいくキ太郎へ向かって駆け出した。

 

『達者でなキ太郎…』


 イダルトゥを見送ったルードルフは、ハビリスの背中にくっ付いたまま手足を固定した。キ太郎がいなくなったので、もうパワーを出すことは出来ないが、自重をかけて、少しでもハビリスの動きを鈍らせようとした。


「うわあ、あ!」


 突然の展開に戸惑う甲太だが、とにかく無我夢中で、ハビリスへ突進する。

 ハビリスはルードルフに絡みつかれ、一時的に身動きが取れないでいる。そこを狙ってサンゴーグレートが突き進む。

 するとハビリスの頭部がグルンと真後ろを向き。

 ビームが放たれ、ルードルフの顔面をぶち抜いた。


『ぐ。うぅ…』


 顔の半分を撃ち抜かれたルードルフは、力を失い後ろに倒れていった。


「くっ! うわあぁぁ!!」


 甲太はアポロンソードを、ハビリスの脚へ突き立てようとした。

 フワッと。

 ハビリスが浮き上がり、両足の裏を、サンゴーに向けた。ドロップキックの途中みたいな姿勢。

 ドン。と。

 反重力の、塊のようなものが、ハビリスから放たれ。

 ぶつかり合ったビリヤード玉のように、ハビリスとサンゴーグレート、それぞれが正反対の方向に弾かれた。

 吹っ飛んだサンゴーグレートは、デパートに背中から叩きつけられる。

 崩れ落ちるビルの破片と、吹き上がる灰色の煙。その中で懸命に顔を上げる甲太。

 その眼前に、ロータリーのタクシー乗り場に、力なく崩れ落ちてゆくロボットの姿があった。

 

「ルー… ドルフ……」




 イダルトゥは、駅の向こう側のビル群へ飛んでいったキ太郎を追いかけていた。

 ビルの谷間を、放物線を(えが)き飛んでいくキ太郎に向け手を伸ばし、相対速度を合わせ。そして。

 片脚で地を蹴り、飛びついたイダルトゥは、なんとかキ太郎を掴むことに成功した。

 ロボットの手の中に、放心し目を丸くしているキ太郎が見えた。


「やった…」


 楓は安堵の息をもらす。

 そんなイダルトゥの背を、高速で飛んできたハビリスが鉤爪で切り裂いた。

 

「うわあっ!」


 コックピット内の隔壁まで切り裂かれ、飛び散る破片に楓は悲鳴を上げる。

 イダルトゥは勢いのまま、前方の雑居ビルに突っ込んだ。

 崩れ落ちてくる大量の瓦礫から、懸命に手の中のキ太郎を庇う楓のイダルトゥ。

 その背後に立ったハビリスは、うずくまるイダルトゥに鉤爪を振り下ろした。

 イダルトゥは、キ太郎を包んだ右手を自分の腹に押し当て守りつつ、左手を上げガードする。

 そこへハビリスは何度も鉤爪を振り下ろす。もはや狙いもなくただ闇雲に切りつけた。

 防ぐイダルトゥの左腕がズタズタに切り刻まれ、指が飛び散る。かつて尊大さを誇っていたフェイスも、瞬く間に原型を留めなくなっていった。




--------------------------------------------------------------------------




「この! この! この! このこのこのォ!!」


『やめてくださいChimaera! あなたは心のバランスを崩しています。これ以上この仕事を続けるべきではありません!』


「ふゥ…」


 Chimaeraは束の間、操縦の手を止めると。


「こいつらを皆殺しにするまで私に話しかけないで。命令よ」


 そして再び切りつけ始めた。




--------------------------------------------------------------------------




「ハビリスッ!!!」


 背後に響いた甲太の絶叫に、凶刃を止めるハビリス。その後頭部が蠢いた。

 サンゴーグレートはハビリスの後方。崩壊した駅の上に立つ。

 アポロンソードを下に構え。ハビリスをしっかと見据えていた。

 ハビリスはゆらりと身を起こすと。

 振り向きざま、片目からのビームを撃ち込んだ。


「うがあぁっ」


 避ける間もない甲太のサンゴーグレートは、咄嗟にアポロンソードでビームを受け止めた。

 スーパーロボットの最大出力ビーム。

 それはアポロンソードの刀身で堰き止められると、球状のエネルギーの塊に形を変えた。

 

「うぐぐ・・・」


 サンゴーグレートに迫りくる、エネルギーの光球を、必死に押し留める甲太。

 そこへハビリスの2射目が放たれた。

 ビームは光球に当たり、更に膨らみ大きくなる。

 

「グぅ… やばぃ…」


 勢いがより強くなるエネルギー球の輝きを間近に見ながら、唸り声を上げる甲太。サンゴーグレートの足元で、線路のレールが宙に巻き上げられていく。


『3シャメキマス! コウタ!』


 サンゴーグレートの音声が響き、ハビリスの片目が輝く。

 

「うおおおおおぉぉぉぉおおおおおおお!!!!」


 甲太は雄叫びを放ち。

 サンゴーグレートの全身が金色に発光した。

 同時にハビリスの後頭部が引っ込み。

 放たれた3射目がエネルギー球に吸い込まれていく。それは膨れ上がり。


 大爆発をおこした。


 吹き上がる爆炎と爆煙。

 キノコ雲状に空へ昇っていく黒煙の中に、キラリと光る物体があった。




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「やった… よネ……」


 立ち込める煙、Chimaeraはその中心に目を凝らしながら呟く。

 しかし返ってくる答えはない。


「…… …… …… …… …… …… …… …… …… ……」


 Chimaeraは突如、身が震えるほどの孤独感に襲われた。


「なに… これ…」


 震える我が身を思わず抱きしめる、そうして視線を上げると。

 晴れていく煙の中に、巨体の影があった。




--------------------------------------------------------------------------




 サンゴーグレートは立っていた。クレーターのような爆心地の中心に。

 されど、その姿は見るも無残なもので。

 最後に光輝き我が身を守った外装は、色を失いひび割れ所々剥がれ落ちていた。

 各部で痛々しく内部メカが剝き出しになっている。

 汚れ切ったその姿に、スーパーロボットの畏敬はもはやない。

 それでも立っていた。最後まで戦うために。

 しかし。

 その手に持つ剣は、刀身の途中からへし折れ、剣先を失っていた。

 ハビリスのビーム連撃を防ぎきったが、剣自身は耐えきれず、爆発によって剣先が飛んで行ってしまった。


「ううぅっ… く!」


 半分になったアポロンソードを見つめる甲太。

 失われてしまった。カールが(のこ)した最後の希望が。

 だが。

 甲太は再び前を向く。サンゴーグレートがハビリスの方へ一歩踏み出す。

 絶望にはもう慣れっこだ。

 思い返せば、もうとっくに絶望は底をついていた。

 失望はいつものことだし、人生はとうに終わってる。普通の生き方なんか投げたし、将来設計は詰んでいる。

 全ては既に失われていた。半分は奪われ、半分は自分で投げ捨てた。

 残されたものはただ一つ。戦う意志だけ。(たお)れていったルードルフのように。我が身を捨てて。

 半分になったアポロンソードをロボの手で握りしめ、甲太はハビリスに向かう。

 そのとき。


「コーターー!! これをっ」


 クラウディアの声。

 甲太が振り返ると、後方からヘルメイアスがよろめきながら歩いてくるのが見えた。

 今にも倒れそうなヘルメイアス。その左腕は自らの頭部を抱えていた。切断された頭と頭が元あった首の部分からは、「糸」が伸びてそれぞれを繋いでいる。

 そして、ロボの右手には。

 何本かの糸が垂れ下がり、その先にアポロンソードの剣先が包まれていた。

 目を見開く甲太。


「クラウディアっ。それ!!」


 爆発で宙に飛ばされた剣先を、ヘルメイアスが糸を投網の様に広げ、キャッチしていたのだ。

 

「コータ! 受け取って!!」


 ヘルメイアスが糸で繋がった剣先を、振り回すように回転させ。

 放った。サンゴーグレートの方へ。

 剣先と共に、ヘルメイアスの手から何本もの糸が投じられ伸びていく。

 甲太がサンゴーグレートの持つ折れた剣を掲げると、剣先は折れた剣に吸い寄せられ。

 合体した。

 切断面同士が合わさり、その箇所にヘルメイアスの糸が巻き付いていく。

 糸は剣に何重にも巻き付くと、(まばゆ)い光を放った。

 甲太が見ると、剣の折れた跡が消えてなくなっていた。同化した糸とともに。

 剣が再生されるのを見届けたように、全ての糸を使い果たしたヘルメイアスは地に倒れる。

 アポロンソードが甦った。


 一瞬後。

 サンゴーグレートとハビリスは飛び出した。

 最後の激突へ向けて。


「うわあああああああああああァァァァァァァァ!!!!」




次回の更新は8日水曜日午後5時20分頃の予定です。

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