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戦場のアウラウネ  作者: 耕眞智裕
第三章 真敵
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Ⅷ 嵐の前の静けさ

「諸君にも秘匿してきた王国の切り札を紹介しよう」


 王国軍上層部を集めた会合において、リーリシア王国軍務大臣アリュトス・ノル・ガラは制服たちに対して高らかに宣言した。王国軍による一大作戦を前についに秘密兵器のヴェールが外されようとしていたのだ。


「これこそ帝国の蛮族を穿つ白亜燦爛の槍。その名はスフィンクス」


 モニターに移動要塞スフィンクスの姿が映されると、将校たちから唸るような声が漏れ、彼らがモニターに目を奪われている間に資料が配布された。

 資料にはスフィンクスの大まかなスペック、帝国が鉄の船団を製造している可能性についての報告、そして軍務省が計画する作戦の骨子が記されていた。


 即ち――“帝国本土侵攻作戦”


 王国軍の中には帝国内部から崩壊するのを期待している者もおり、突然の内容に驚きを隠せなかった。王国軍情報部のリサーチによると、王国軍は戦力上極めて優勢である事から、先のような考えを持つ者が多数であるだけに、衝撃は小さからぬものであったのだ。


「大臣。帝国領侵攻とは時期尚早ではないですか?」


 将校の一人が彼らを代表し、意見を述べる。そして、ガラは蔑むように彼を睨むと、「ふん」と声を吐いてから答える。


「時期尚早か。君は資料に目を通していないのかね?」


「鉄の船団の件でしょうか?」


「そうだ。我々が戦力上の優位に踊り、驕っている間に彼らは牙を研いでいたのだ。実の所、追い込まれていたのは我々という訳だな」


「そうは言いますが、小官は納得できません。いかなる理由を以って、帝国がそのような事を成し得ていると言うのでしょうか?」


 将校の発言に他の将校たちは頷いて同意の意思を示す。“鉄の船団”などというのは果てしない大事業であり、秘密のヴェールに包まれたオルタリアを除くと、それを成し得た国は存在せず、信じる事が出来なかった。


「なるほど。君の意見は尤もだ。では、理由についてはウィル・バレンタイン准将に述べてもらうとしよう」


「はっ、では謹んで説明させていただきます」


 ガラに指名され、バレンタインが立ち上がると、驚きの表情で将校たちは視線を彼に集中させた。

 ウィル・バレンタインは比較的穏健派と目されており、軍務省が示す帝国本土侵攻を後押しする立場にいるのが意外であったのだ。


「こちらをご覧ください」


 鋭く突き刺さる視線に動じることなく、バレンタインはガラにした様に件の鉄塊を見せながら説明を始めた。


「…………」


 鉄塊が本物であるのなら納得せざるを得ない。海水に耐性を持つ純度の高いオリハルコンを生成するとすれば、用途は自然と艦艇になる。


「准将。君が示した鉄について問いたいが、それはまさしくアレハントの鉄塔の一部で間違いないのか?」


 そして穏健派将校の発言は最終的にこれに帰着する。だが、バレンタインは用意周到にも情報部および民間企業の調査結果を準備しており、それは直ぐに彼らの手元に配られた。


「情報部のお墨付きか…… 准将はよほど血生臭い戦いがご所望らしい」


 印によって情報部のものと証明された資料を一瞥し、将校の一人は悪態をついた。


「ですが帝国の野望を阻止しなければ、血生臭い戦いの主戦場は北海を望むこの地ゼスになりましょう。我々は市民を守る剣として、血を被らなくてはならない」


 「オルトリアによる帝国の海城航行介入の可能性」という楽観的期待も出来るが、自国の危機に際し、真意の読めない第三国に期待しようなどとこの場で言えるはずもなく、バレンタインの言葉に皆が黙る。

 

「血を被るか…… それなら貴官が抱える汚れた剣を使えばよかろう。あれなら壊れようが穢れようが問題はあるまい。最初から穢れているのだからな」


 そして一分弱経ち、最初に出た言葉はバレンタインと彼が管理する組織への嫌味であった。


「巨兵騎士を運用するにも兵士は必要です。

 インフェクテッドの護衛や、環境作り、兵站等々、我々が巨兵騎士を運営し、始めて帝国本土に侵攻した時の事を御思い出し下さい。

 無論、本作戦において巨兵騎士を動員する事を私も否定しない。スフィンクスと同等、我が軍の最大戦力である以上、作戦には参加すべきと私も考える。

 だが、それは正規軍が参加しなくていい理由にはならない」


 毒を吐いた将校は苦虫を噛みつぶしたような表情でまたも黙った。巨兵騎士はその露骨な弱点故、一連の部隊とパッケージされており、そのいずれかが欠けても作戦に影響を及ぼすリスクが生じる。加えて敵本土置く深くまで侵攻するというのであれば、より大規模な部隊が必要になり、アレハント攻略戦の際に摩耗した特務遊撃部隊にはいささか荷が重すぎる。その事はここにいる誰もが分かってはいた。


「…………ではこうしましょう。

 帝国軍の鉄船団製造に関し、十二王国連盟に対して国際的安全保障上の脅威であると告発いたしましょう。作戦についてはその後でも」


 十二王国連盟に訴えると将校の一人が発言したが、正確には“オルタリアにお伺いを立てる”という事を意味していた。

 ある種、他国頼りともいえるこの意見に穏健派将校たちは賛同し、頷きながら拍手を送った。そしてバレンタインは自分の役目を終え、席に着くとおもむろに天井から吊るされたシャンデリアを見つめた。

 その意見を皮切りに、将校から数々の他愛のない意見がなされ、無駄に会議を躍らせたが、その中に一つ、ガラを苛立たせるものがあった。


リーリシア王国第三王女アリス姫を中心に広がっている。“帝国に講和の意思あり”という話だ。

無論その件についてガラも迅速に動き、調査を開始したが、それに先んじて行動していた他の大臣たちに後れを取り、主導的な地位を得る事が出来なかった。それはつまり、自身が持つ“レンドル・ガルハドル宰相の後釜筆頭”という立場が危ぶまれる事を意味し、ガラはその筋での講和以外の形で戦争を自ら終わらせる事を望んでいた。


「十二王国連盟に告発し、事態の打開を図る事にしよう。ただ、諸君らも胡坐を掻いている余裕は無いという事を自覚して頂きたい。以上だ」


 議論が続けば、講和の話が進んでしまうという危惧がガラにそう言わせた。そして会議は終わり、帝国侵攻のプランは一時机の中に戻された。





「さて、起動したスフィンクスはどうするのかね。このままにしていても大食漢な無用の長物だ」


 会議場から離れ、議場では何も口にしなかったジム・バルボッサ大将はいやらしく笑い、そう言った。

 王国の秘密兵器といっても、スフィンクスはいわばオルタリアからのレンタル品であり、それを持つ限り使おうが使わまいがオルタリアに多大な金銭を払い続けねばならない。それは彼の言う通り、無用の長物に他ならなかった。それは特段主戦派という訳でもない彼が心配する程度に無視できないものであった。ただ付け加えると、スフィンクス建造の件について多くを知っている軍人は彼とその部下一部だけであり、他の者は秘密の要塞については知っていても、その全てを知るわけではなく、オルトリアの手が入っているという事すら今日の今日まで知らなかったため、このような愚痴を言えるのは彼だけであった。


「バルボッサ閣下はどうお考えなのですか?」


 たまたま傍でバルボッサの愚痴を耳にしたバレンタインが彼にそう返す。


「フン。私としては上の命令に従うだけさ。シビリアンコントロールである以上、私の考えなど意味はない。それでも君は私に考えを問うか?」


「ええ。参考までに」


「私はスフィンクスの存在が威圧になればいいと考えていた。アレを見れば帝国の戦意も喪失する事になろう。そうすれば終戦の道も開ける」


「――そうですか。

 ですが、果たして彼らはそれで戦いを止めるでしょうか? 窮鼠猫を噛むといいます。圧倒的脅威が彼らを狂人に変えるかもしれない。まして、彼らには巨兵騎士があります。そう易々とは……」


「ふははは。そうなれば我々は戦い続ける事になるだろうな。君の言う様に帝国の脅威があるのなら我々はそうしなくてはならない。

 しかし多少驚いたよ。きっかけの君からそんな事を聞くなどと」


 バルボッサはそう言うと、「もう終い」と言うかのように足を速めてバレンタインとの距離を離した。

 そして後日、王国は使節団を結成し、例の鉄片と資料を携えてオルタリアに出発した。その様子をガラは複雑な表情で見送った。


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