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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第2章 三者三様奇想曲
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第13話 再会

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願い申し上げます。


元旦早々給湯器が成仏したりと、なんだか今年も難儀な年となりそうです。

今回から台詞後にも改行を挟みました。

読みやすくなれば良いなぁと。

「まさか彼女があの歌姫ノノンだったとは……」


「歌姫? アレはただの痴女なのです!」


「アイツってそんなに有名なのか?」



 俺の言葉にステラは信じられないと一瞬顔に出すが、次の瞬間にはニヤついた笑みを浮かべていた。


「当たり前だ。歌姫といえばまず最初に名を挙げられるのが彼女だ。当然ながら世界中に彼女の熱狂的な愛好者がいるぞ。良かったなイクス、自慢して良いぞ」


「やらんわ! そんなの敵を増やすだけだろ」


「ついでにレイラ様もご機嫌斜めなのです」



 そうなのだ。

 今の今までしこたま怒られたが、今尚レイラはその怒りを治めてくれていない。

 俺自身が身動きが取れなかった事や、どちらかというと医療的な意味合いと謝罪が強かった事を伝えたが、その甲斐はなかったようだ。


 そして俺達はノノンの誘い通り、舞台のある村の北口に向かっている。

 日中はあれだけ多かった人混みも、今は閑散としている。

 どうやら町の人は既に舞台へ足を運んでいるみたいだ。


 女の子が歌を歌うだけで、この状況だ。

 どれほどの興味を集めているか伝わってくる。

 レイラ達に限ってはノノンに対して良い感情をもっていないようだが、やはり世界一の歌姫という看板には興味があるようだ。


 そして話題はノノンから俺に矛先が変わった。


「イクスが魔力欠乏症になったのには流石に肝を冷やしたな」


「あまりなる人はいないのですよ。ステラのような魔術師ぐらいなのです」


「あまり自分を棚にあげるものじゃないぞイースラ。神官だってなるだろ? 神聖術だって魔力を使っているんだから」


「ぶぶぅー。ボクは優秀なのでなった事がないのですよぉ〜」


「ほぉ〜、それは暗に私を三流魔術師だと言いたいのか?」


「お兄さんとお揃いですよ?」


「なおさら悪いわ!!」



 キャーと悲鳴を上げ逃げるイースラとそれを追いかけるステラ。

 わかっている。二人ともそれぞれ俺達に気を使ってくれている。

 俺を三流呼ばわりしたことも水に流そう。


「レイラも心配かけて悪かったな」


「お姫様のちゅーで元気出たもんね」


「助けられたのは事実だな」


「……ぶぅ」



 不貞腐れているレイラの頭を優しく撫でる。


「レイラも気をつけろよ」


「私は知らない人にちゅーなんてされないもん!!」


「そっちじゃねぇよ! 魔力欠乏症!!」


「あ、そっち?」


「あれ本当にキツイからな。レイラだって魔法とは縁が無い生活をしていたんだ。そういう意味じゃ同じじゃないか?」


「『全然ちがいます』」


「うぇっ!?」



 いきなりレイラの口から別の声が出てきた。

 聞き覚えはある。

 レイラの声だけどレイラじゃ無い。

 レイラの左目の奥がうっすら青みがかっている。


「いきなりだな。一週間ぶりか?」


「『えぇ、私の人格を最適化するのに一週間掛かりました。おかげでようやくこうして話すことが出来ます』」


「ちょ、勝手に喋らないでよ! 息継ぎ大変じゃない!」



 突っ込むところはそこかよ!!


「『それで魔力欠乏症についてですが、マスターに限ってそのような事態にはなりません』」


「何故?」


「『マスターは周囲の魔力を吸収し、なおかつ制御する事が出来るのです。あなたとは違って』」


「あ、なるほど」



 そういえばレイラはドデカイ太陽を作っていたっけ。

 人一人の持っている魔力量じゃそんな事できないもんな。


「『また私がマスターの魔力量を完璧に管理している以上、そのような無様な事態には絶対にさせません。あなたとは違って』」


「ちょこちょこ俺を貶すんじゃないよ」



 何なの? そんなに俺って三流なの?

 レイラ(?)は恨めしそうにこちらを見ている。


「『あなたが忘れても、あの痛みを私は忘れません。今も時折お尻が疼くのです。屈辱です』」


「なんか……お前より人間っぽくなってない? もしかして元々は幽霊?」


「ひぇっ!?」


「『ち、違います! マスターも怯えないでください!! そもそも私は霊体どころか人でもありません! いわばレイラ・カミュナの影、それが私です』」


「えぇーーーー!?」



 レイラが怯え、それがレイラ(?)に伝わり狼狽する。

 ……なんだこの一人芝居。


「『私は元々マスターを補助するためにマスターから生まれた存在! 確かにもう一人のレイラ・カミュナとも言えますが、立ち位置的には娘と言えます!』」


「えぇーーーー!? どうしようイクス、私ママになっちゃった!!」


「『ふふふ、ママ。なんでしょう……そこはかとなく甘美な響きです』」



 こいつ本当に人間じゃないのか?

 ほとんど人間の反応と変わらないじゃないか。


「ところでマスターというのは? レイラのことか?」


「『もちろんです。私はレイラであり、娘であり、レイラ・カミュナを補助するための人格ですからね』」


「話が難しくってついていけそうにないです……」



 レイラ、俺もだ。

 そもそもなんだってこんな人格が、レイラから生まれたんだと疑問がある。

 勇者だから?

 勇者だと、どうして人格が増えるんだ?


 ……確かこいつ、尻の聖痕を思いっきり叩いたら引っ込んだんだよな。


「……もしかして聖痕が原因か?」


「『おや? ママに擦り寄るハエの分際でよく思いつきましたね。聖痕にはマスターを補助するための機能が多く入った術式だったのです。私もそれに含まれます』」


「へぇ〜……だった?」


「『あなたが壊したじゃないですか。思いっきり』」


「……俺が?」


「『あなたが! 思いっきり! ママのお尻を! 嬲ったせいでしょう!!』」


「そんな誤解を招く事を大声で言うんじゃねぇよ!!」


「……誤解? もの凄く痛かったんですけど」



 掴みかかってくるレイラ(?)の両手をなんとか抑える。

 周囲に人気がなくて助かった!


「『そうです! 誤解なもんですか!! 泥で足を取られた隙を狙って下着まで刷り下ろして!! 『ぐへへ、覚悟は良いか?』って言ってたじゃないですか!!』」


「そーだそーだ」


「レイラも同調してんじゃねぇよ!!」



 さすがレイラとレイラ(?)、気が合うようだ。


「それにぐへへなんて下卑た笑いしてないわっ!! そもそもなんで俺達を襲ったんだよ!!」


「あ、私もそれ気になる」


「『マスター!? 仕方ないじゃないですか!! そういう指示が飛んできたのですから!!』」


「どっからだよ!!」


「『そんなもの月からに決まっているでしょ!!』」



 …………月?


「……は? 月? 空に十二個浮かんでるあの『石の塊』?」


「『しまった禁則事項です!? ……あれ? なんで口に出来ているのですか?』」


「禁則って何?」


「『はい。私は聖痕を通じて天族に管理されている擬似人格なので、禁則事項は口にする事が出来ないのです。……うわ、これも言えちゃうんですか』」



 何やら怒涛のように専門用語が飛び出してきているが……天族。

 レイラに聖痕を与えて、ステラやイースラを通してこっちを監視している奴ら。

 山でボルカの爺さんが言っていた奴らか。


「つまり、俺やサカモトを殺そうとしたのは……」


「『私やステラさん、イースラ君を通じて見ていた天族が私に命令したからです』」


「なんだってそんな事……天族ってのは神様なんだろ?」


「ねぇねぇ、テンゾクって何?」


「『天族は月からこの世界を管理する存在です。なので、あなた方がその枠の外にいたのが原因じゃないですか?』」



 ……ん? どう言う事? 枠の外?

 話の流れからすると、『世界を管理している』というのは人族やエルフ族等を管理しているって意味で良いのか?

 俺とサカモトはその枠から外れている?


 レイラ(?)の言葉の意味を考えていると、次にとんでもない事を言い出した。


「『あなたと、サカモトさん。二人とも人族じゃないですよね?』」



 …………んんん?


「「えぇーーー!?」」



 ちょっと待て、俺達が人族じゃないってどう言う事だ!?


「『人族は原初の時代から存在していますから。どれだけ外見や中身が人族であろうと、どんなに人族が派生していこうが見ただけで分かります。あなたとサカモトさんはそういう意味で人族とは違うという事です』」



 どういう事だよ! 全然わかんねぇ。

 ……サカモトに聞いてみれば何か分かるか?

 周囲を探すが、サカモトはイースラ達を追って行ったようで姿はなかった。

 ……あんなに会いたがっていたのに難儀な事だ。


 まぁこの事は後でサカモトに相談するとして――


「たぶん、これだけは聞いておかなけりゃならない」


「『言いたい事は分かってます。今後、あなた方に敵対するかどうかという事ですね?』」


「そうだ。多分サカモトもそこは気になっている事だと思う」



 実際は、そこまで気にしていなかった。

 襲われるとすれば、町の入り口で既に襲われていただろうと考えていたからだ。

 そして本来聞きたかった事は別にあり、その一片を既にイクスは聞いていたのだった。


「『天族との繋がりが断たれている現在、あなた方に敵対する事はありません』」


「聖痕で繋がっているってやつか……断たれている?」


「『全てはお尻の件です』」



 あ、ハイ。


「『聖痕の件はそのうち復旧されるでしょう。深刻な事態ではありませんが、復旧した際に再度あなた方に敵対する可能性は非常に高いです』」


「おい」


「私もうイクスに剣を向けたくないな……」


「『残念ながら今は天族側の命令の方が上位です』」


「そんなぁ……じゃあもう聖痕壊れたままで良いよ!」


「『マスター早まらないでください。マスターが今よりもっと強くなれば、天族の命令よりも上位になればそんな事にはならないでしょう』」


「具体的にはどの位強くなれば良いんだ?」


「『具体的には分かりませんが……。ですが天族より強くなれば体の制御を奪われる事など無くなるでしょう』」



 神様超えろと仰りますか。


「無理だろ」


「『それを可能にするのが勇者です』」



 勇者って言葉、都合良すぎるだろ!?


「過去にそれが出来た勇者はいたのか?」


「『さぁ? 天族と繋がっていればその情報も探せたかと』」


「おいおい……」



 神様超えるとか冷静に考えて無理だろ……。


「決めたよイクス! 私はもっともっと強くなる! そうすればもうあんな風に身体を勝手に使われたりしないもんね!!」


「……レイラ」


「流石に神様は超えられないだろうけど、今より強くなればどうにかなるかもしれないし!」



 レイラの目は力強かった。

 果てしない目標に夢想する儚いものとは違う。

 もっと身近で、しっかりとした目的が定まった……そんな決意の目だ。

 ハッキリ言って、こんなレイラを初めて見る。


 それだけにその決意は揺るがないだろう。


「じゃあ精々お前に殺されないように強くならなきゃな、お互い」


「うん!」


「『では私はまた寝落ちします。久しぶりの起床で少し疲れました』」


「次はいつ起きる?」


「『ステラさんとイースラくんがいるとばつが悪いので、いない時にまたお邪魔します』」



 小心者なところもママ譲りだった。


「おやすみ」


「『はい、マスター。それからあなたとそこの影も』」



 レイラ(?)の目線が俺の影に向けられる。

 そういえば影にはイシャルタがいるんだったか。


「影?」



 レイラが疑問を口にした瞬間、影から一羽の黒い鳥が出てきた。


「鳥?」


はじめまして・・・・・・、私はタルシャイという名のしがない鳥です」



 おい、イシャルタ何してんの!?


「うわ、イクスこれ喋るよ!?」


「森でイクス様に拾われ、現在は使い魔をさせていただいております」



 勝手に住み着いたんだろ!!


「イクスそんな事してたの!?」


「ま、まぁな。成り行きで……な」


「なんで! どうして教えてくれないの!!」


「ご、ごめん。正直こいつの事忘れてたんだよ」


「……ぶぅ、嘘つきだ!」



 本当なんだよなぁ。

 レイラがまた不貞腐れはじめたが、突然姿を現したイシャルタに内心焦ってそれどころじゃなかった。


(おい!! どういうつもりだよ!!)


(すいません我が君。これ以上黙っていると本当に存在忘れられてしまいそうだったので、つい)


(ついじゃねぇ!! 今の今まで静かにしてたじゃねぇか!! なんで今!?)


(今までの姿だと色々と角が立ちますので、我が君好みの女体も考えたのですが……無難に鳥になってみました。如何です?)


(くそっ、女体じゃなかっただけマシとか思っちまったよ……)


 イシャルタ=タルシャイとか本当に隠す気があるのかとも問いたかったが、イシャルタはバサバサと飛びレイラに擦り寄っていった。


「申し訳有りません。私自身怪我をして動けなかったので、紹介されたとしても出られなかったのです」


「……そう、それなら仕方ないよ……ね」


「我が君ともども、全身全霊で尽くさせていただきます」


「ねぇタルシャイさん! 向こうに私達の仲間もいるんだ! 紹介してあげる!」


「あぁ……その事ですが、すいません。私の存在をこのまま隠していただけませんでしょうか」


「なんでだ?」



 俺が疑問の声を出すと、イシャルタは俺の肩に乗り替え、小声で話しかけてきた。


(天族はエルフ族と神聖教団等を通じてこちらを監視していますから)


(……あぁ、そんな話をボルカの爺さんから聞いたな)


(我が君ぃ〜〜)


 イシャルタがステラ達の目に止まれば、ろくな事にならないのは明らかだった。

 それはレイラっぽいやつとの騒動でハッキリしている。

 視界にすら入れてはいけない。


「どうもこいつは恥ずかしがり屋みたいでな、あまり多くの目に晒されたくないみたいだ」


「そうなんだ。話す鳥って珍しいものね」



 意外なほど簡単にレイラは納得してくれた。


「それより、よろしいのですか? あのノノンとかいう小娘の歌を聞くのでは?」


「「……あっ!?」」



 気付けば俺達は足を止めてしまっていた。


「急ご! イクス!!」


「あぁ!!」



 今ならまだ間に合うはずだと、二人は大急ぎで駆け出す。


 イシャルタは静かに二人を見送った。


「……この町……妙ですね」



 大気中の魔素に意図的な偏りが見られる。

 魔素とは魔力マナの素となるものの事だが、魔素を必要としない人間はこの魔素を知覚する事が出来ない。

 魔素を必要とするのは魔物であり、このように意図的に魔素を操るような知恵を持ったものは――。


「はてさて……どうやらこの町に、私の同族がいるようですね」



 鳥は飛ばず、熔けるように影に消えていった。

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