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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1.5章 村を追い出されたのに、近くの森で迷子になりました。
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第7話 アスラ 凹

本日2本目です。


 かつて……といってもまだ二年ほど前だが、俺はアスラと名乗っていた。


 悪徳の国ザゥルカの闘技場、そこで奴隷闘士として歳が十六になるまで身をやつしていた。

 六歳で奴隷になり十二の頃にはもう奴隷闘士となっていたと思う。


 日々闘技場で人や魔物相手に殺し合いをする毎日だ。

 早い話が見世物になっていたわけだ。


 呆れられると思うが、その時の俺は別に自分の境遇に不満を持っちゃいなかった。

 奴隷になったのは自分で決めた事だし、ここに売られたのは自分のせいでもあったから。

 闘技場でかけられる声援も、気持ち良くさえ感じていた。


 だがいつかは俺も周りの人と同じように、あっけなく殺されたり食われたりして終わるんだろう。

 そんな事を考えながら、一日を消耗していく……そんな毎日を過ごしていた。


 そんな時だ。

 友達も出来たのは……。


「君がアスラ? 私と名前が似てるね!!」


 同じ奴隷でありながら、明るく活発な女の子だった。

 同じ奴隷でありながら、彼女はいつも笑顔を絶やさない子で、俺はそれを不思議がっていた。

 彼女の笑顔の意味に気付いたのは……全てが終わってからになる。


 俺達は奴隷闘士だ。

 明日には死んでもおかしくない。


 俺は彼女と過ごす時間を、どこか俯瞰で見ていたと思う。

 彼女と死別しても、辛くないように。


 彼女もそれを気付いていながら、笑って大丈夫だと励ましてくれた。



 その時は直ぐに来た。



 闘技場では奴隷同士が殺し合うだけじゃない。

 魔物とも戦う事もあった。


 だけど――


 彼女が大勢観客を前で奴隷達に嬲られた。

 最後には生きたまま魔物に喰われて死んだ。


 何も出来なかった。


 助けを求められたけど、硬い鉄格子を前に何も出来なかった。


 聞こえるのは――


 彼女の悲鳴、彼女の肉を咀嚼する魔物の音、大人の歓声、女の喜声、子供の奇声……。



 何がそンナにタノシいンだ……。


 今まで気持ちの良かった歓声は、強烈な異臭を放つ気持ち悪さに変わっていた。


 そこから先の記憶は曖昧だ。

 彼女を嬲った奴らを殺し、彼女を笑った大人を殺し、彼女の死を喜んだ女を殺し、彼女に興奮した子供を殺し、こんな国を作った奴らを殺し、俺を捨てた師匠を殺した。


 気付けば国が滅んでいたし、他の奴隷達は逃げていた。


 ただそれだけの事だ。


 俺は英雄なんかじゃない。


 俺は――。


 俺が本当にしたかった事は……アウラ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「それがお前が俺に仕えたい理由か」


 なるほどと思った。

 確かに俺をアスラだと知っているなら、あの惨状の作った俺に魔族が興味を持つのも仕方ないのかもしれない。


「だが断る」

「ですよね」


 イシャルタは俺の返答を予期していたのか、その表情は崩れなかった。


「なんだ、予想していたのか?」

「えぇ、私も言っていて無理があると思いました。さすがに私達の出会いは最悪すぎます」


 イシャルタが帝国として、敵として現れなければ……そういう意味でなら確かにそうだろう。

 だが、イシャルタが世界各地で今回のように動いていたのであれば、結果は同じだったのではないだろうか。


「どうするつもりだ? 諦める気はないんだろう?」

「えぇ、仕事も退職してきましたし、貴方様の傍を離れたくございません」


 男に言われてもな。


「ですので、私は影ながら貴方様に尽くすことと致しましょう」

「は?」


 イシャルタは闇に溶けるとようにその姿が薄らいでいく。


『マナの圧縮、先ほど貴方様がしようとしていた事は止めておいた方が懸命でございます。ここら一帯が消し飛んでしまいます』

「おい待てって……消し飛ぶ!?」

『まずはその辺の石ころにマナを移す練習をするのが妥当かと。触れてさえいれば、今の貴方様でも出来ると思います』


 唐突に現れて、一方的に消えていったイシャルタに呆気にとられるイクスだった。


「結局あいつは何しに来たんだ?」


 一つ確かな事は、厄介な奴に見つかったという事だった。

イクスの過去に触れる事になりました。

レイラ達はまだ知りません。


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