第6話 迷った森と夜の自主練
全然仕事が落ち着きませんが、なんとか三本書けました(´・ω・`)
一本目です。
EX4が予想以上に長くなりましたので章を分けました。
それに伴い話数の扱いも変えました。
森で迷ってから二日目の夜。
情緒不安定なステラをそっとしておくことにした為、この日の魔法についての講義はお休みとなった。
レイラも丸一日跳ね続けた為、疲労で直ぐに寝入っている。
「イースラ何してるんだ?」
イースラはうつ伏せになり、足をパタパタと動かしながら例の聖書に何か書き込んでいる。
……祝詞だったか?
イースラは神聖術を使う。
神聖術を使うには祝詞を神に捧げ……まぁ要するに詠唱して術を発動させるわけなのだが、イースラの場合は事前にこうして祝詞を書き溜めておくことで、術を詠唱なしで発動できる。
これも敬虔な神官であるイースラの信仰心の賜物なのだろう。
……信仰心ってなんだっけ?
「今回で随分と減ったので、今のうちに書き溜めておくのですよ」
イースラの神聖術には、終始頼りきっていたと俺も思う。
この先もその機会は多いだろう。
「イースラ、俺はこの先もお前達に付いて行く事にしたよ。レイラの従者として、勇者の従者として」
「何を言っているのです?」
心臓が止まるかと思った。
イースラは筆を止め、こちらを向いた。
「今更付いて来ないとかありえないのです」
「……へ?」
「ボク達はあまりに未熟だから……あんな形で村を去る事になったのは残念だったけど。本来ならボク達がお兄さんに付いて来てもらうようお願いするつもり……だったのです」
とって付けたように『なのです』言いやがって……。
やばい、凄い嬉しい。
「ボク達に力を貸してください」
「……ありがとう」
「おかしなお兄さんなのです」
イースラは微笑んで俺を受け入れてくれた。
信じられるか? こいつ男なんだぜ。
こういうのを何て言ったか……いえめん?
……あれ? なんか忘れているような……。
「どうしたのです?」
「あ、いや……ちょっと自主練してくるから皆の事頼んだ」
「……迷子にならないでくださいなのですよ」
「俺達既に迷子なんだよなぁ……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
焚火の灯りがうっすらと見える程度に離れると、水の音が耳に届いた。
気になって音のする方へ向かってみると、自分の背丈ほどの小さな滝がそこにあった。
水の音が心地よく、ここで自主練することに決めた。
さて……。
「自主練ってどうすれば良いんだ?」
昨夜の事を思い返す。
焚火の熱、揺れる水面、自分の中と外。
「自分の内側の力……」
身体中を巡る血液のように、マナが循環している感覚。
「……そうだ。この感覚だ」
昨晩と同じ感覚を再度得る事が出来た。
これが、俺のマナ。
まるで桶に張った水のように、ただここに存在しているのを感じる。
ステラは言った。 俺は既に魔法を使っていると。
それは脚力であり、投擲力だった。
問題は俺がどうやってそれをやっていたのか。
意識していないが故に、難しい。
「揺らす……廻す……違う」
マナを如何にかしようとしても、マナは微動だにしない。
例えるなら、蓋のしてある満杯の水を幾ら揺らそうと影響が少ない……みたいな?
……自分で言っててよく分からない。
魔法歴二日目なんてこんなものなのかもしれない。
「ん?」
そこで違和感に気付いた。
自分のマナが二種類あり、その二つが混ざり合っているような……。
「何だこれ……」
考えたところで答えが出る訳でもない。
明日にでもステラに聞いてみよう。
マナの種類とか、今の自分には荷が勝ちすぎている事は明白だ。
今は自分のマナを如何にして操れるようになるかに集中すべきだろう。
せめて今晩で、ある程度のコツを掴みたい。
「あ!」
思いついてしまった。
揺らしても廻しても駄目なら――
「集める!!」
マナを水に例えていたから悪かったんだ。
そう、例えば泥ならどうだろうか。
泥を集めて泥団子を作る……そんな印象でどうだろうか。
「やってみる価値はありそうだ」
「やめた方がよろしいかと」
「っ!?」
耳元で囁かれた!?
飛び跳ねるようにそいつから距離を取り、剣を抜く。
「申し訳御座いません。差し出がましい事を申しました。」
そこにいたのは、黒い全身鎧の側にいた――。
「私の名前はイシャルタ。貴方様に仕えるべく、罷り越してございます」
魔族だった。
「意味がわからない」
「お気持ちはお察しいたします」
「何で魔族のお前が……そもそもお前は敵だろう!? それにお前は村を襲った! そのお前を俺が受け入れる訳がない!!」
「村を襲ったのは影浪であって私ではございません。と言っても詭弁にしかなりませんね。私自身は確かに村を襲ってはいませんが、村に影浪を向かわせたのは確かに私の仕業にございます」
あっさりと自分に非がある事を認めたイシャルタだったが、ですがと言葉を続けた。
「身も蓋もない言い方になってしまいますが、それが私の『仕事』でした。帝国や皇族の皆様には忠義も愛着もございません。それでも義理はございます。それが最後の仕事となれば尚更と、考えました」
最後?
「辞めて参りました。私が帝国に仕える条件は、私を世界各地に派遣する事。そして私の目的が果たされるまで……目的は果たされたのです。」
「目的?」
その目的というのを聞くべきじゃないと、言ってから気付いた。
しまったと思ったが、目の前の魔族は恭しく跪いた。
「貴方様でございます」
俺かよ!?
おかしいだろ、山で会ったのが初めてのはずだ。
……初めてじゃないのか?
もし俺がこの男と会っていたとするなら……思い当たる場所が一つある。
「俺達はどこかで会った事があったか?」
「いいえ、貴方様は私と面識はございません。けれど、私はあなた様を存じ上げております」
拙い。 この流れは非常に拙い。
「あの悪徳の都にて、私は貴方様に心を奪われたのです」
――あぁ、やっぱりだ。
「自らの立場、運命、それら鎖を断切るその御姿に当時の私は打ち震えたのでございます」
最悪だ。
「たった一人で悪名高い下劣な国を滅ぼし、その国民を根絶やし、奴隷であった御自身とその仲間を開放した英雄
一夜にして国に終わりをもたらした事、都を血で染め上げた事から解放された奴隷たちの間で、こう呼ばれています。
『落陽のアスラ』と」
アスラ。
それは奴隷時代の――
俺の名だった。




