第4話 迷った森と魔法教室2
連投二本目です。
「……結論から言おう。イクス、君には魔術は使えない」
「――ぇ?」
どういう事だ?
魔法が使えない? なんで? 口から火を出せない? 空に灯りを灯したり、水を指からだしたり、土を金に変えたり出来ない?
空を自由にも飛べないし、透明になってアレコレも出来ない?
「君はマナを体外に出すという事が上手く出来ないようだ。これでは魔神にマナを譲渡する事はおろか、そもそも契約自体できない。すなわち魔術は行使できない」
「マナを外に出せない? え、ちょっと待った。 それじゃあ――」
「あぁ、魔術だけではない。精霊術、神聖術も同様に使う事が出来ないだろう」
視界が揺らぐ。
口に入る寸前の御馳走は今や遥か彼方……。
久しく味わっていなかった絶望感に、イクスは項垂れる他なかった。
「そんな……はぁ、マジかぁ」
「イクス……」
レイラが心配そうにこちらを伺うが、今はその気持ちさえも辛い。
端から見たら、きっと今の俺は皺々のお爺ちゃんのようになっているに違いない。
「そんなに魔法が好きなのか。変わり者だな」
「うるせぇやぃ! あぁ……あーーーーーーーーー俺も使いたかったなぁ!!」
そーかーー。使えないのかーー。
いつまでもこうして項垂れていたいが、それで魔法が使えるわけでもない。
切り替えていくしかない。
こういう事もある。
大丈夫、大丈夫、こういう事は今に始まった事じゃない。大丈夫、大丈夫、こういう事は今に始まった事じゃない。大丈夫、大丈夫、こういう事は今に始まった事じゃない。大丈夫、大丈夫、こういう事は今に始まった事じゃない。…………。
繰り返し自分に言い聞かせ。
少しづつ潰れた気持ちを元に戻す。
が、ステラから予想外の言葉が出る。
「まぁ残念だが、気術一本でやっていくしかないな」
「……………………ん?」
「……………………ん?」
キジュツ?
「気術ってなんだ?」
「……は? 君は何を言っているんだ?」
「…………???」
「気術なら君はしょっちゅう使っていただろう」
使っていた?
誰が? なにを?
「はーーーーーーっ!?」
「ん? 私は何かおかしい事を言ったか?」
気術……???
『そう、魔法とは魔術、精霊術、神聖術、そして気術を総して呼ぶ』
そう言えばステラは最初にそんな事を言っていた!!
「俺がいつ気術を使ったよ!?」
「え? 肥翼竜に突っ込んでいった時や、昨夜のレイラ(?)との戦闘でも魔法陣を撃ち抜いていたじゃないか」
(――あの時か。)
一つ目は裏山でレイラが肥翼竜に追いかけ回され、そに割って入った時。
もう一つは石ころを太陽みたいなモノに投げつけた時。
「……まさか自覚がなかったのか?」
ステラは信じられないといった表情でこちらを見つめてくる。
事実、イクス自身自覚していたわけではなかった。
思い当たる事は他にもある。
ボルカの爺さんが古樹竜の姿で相対した時。
空中に浮いていた黒い全身鎧に向かって石を投げた時。
レイラ達はいなかったが、これらも気術の影響によるものかもしれない。
(今まで全力で走ったり投げたりしていたけど、それだけの威力じゃなかったのか……)
知らず識らずのうちに、気術とやらを使っていた事をどう受け止めたら良いのか分からない。
「まったく、お前には驚かされる事が多いな」
「でもどうして気術なら使えるの?」
レイラの疑問はもっともだ。
だが、俺にはその答えが想像できている。
マナが体外に出す事が出来ない体質なのにも関わらず、魔法が使えるのは…………。
「自分のマナをそのまま使っているからか?」
「正解だ。魔法と括られているこれらの術の中で、この気術だけは自分自身でのみ完結している術だ。イクスの場合、ただでさえ外に出ていかないマナが体の中で溜まっていっている。無意識に気術が発現していたのは、溜まり溜まったマナの量がそれだけ多かったからだろう」
なるほど。
少し希望とは異なったが、魔法は魔法。
しかも既にある程度使っていたのだから驚きだ。
イクスは気分が高揚するのを自覚する。
念願の魔法。
その一端に自分が足を踏み入れた事の事実。
どうして抑えられようか。
「あれ? 外に出せないなら何で石とか投げれたの?」
「恐らくだが、触れている物には自身のマナを移せるのだろう。錬金術や付加術も気術の中に含まれているからな」
錬金!? 付加!? そんなのもあるのか!?
「もっとも、式を自分で構築しなければいけない面倒臭さもあって、やる人間は極少数だがな」
「それでも良いさ」
「良かったねイクス!」
あぁ、本当に良かった。
念願の魔法への道。
「さて、今日はこのぐらいにしてもう寝よう。明日こそはこの森を抜けるんだからな!」
「あ、レイラ。森を抜けるまで跳ね続けろよ」
「まだやらせるのか?」
ステラは不満そうだ。
だが、レイラには必要な事だと理解しているのか、その声は少し弱い。
「もちろんだ。ここでしか出来ないからな」
「え? 何で?」
「人目に触れたら不審者で捕まるから」
「……あぁ」
こうして森に入って最初の夜は更けていった。




