第3話 迷った森と魔法教室1
連投します。
そわそわ
そわそわそわそわ
そわそわそわそわそわそわそわそわ
そわそわそわそわそわそわそわそわそわそわそわそわ
「えぇーいうっとうしいわ!!」
「えぇ早く教えてくれよ! どんだけ焦らすんだよ!!」
「くっ! 魔法の事になるととことん面倒な奴になる!!」
「イクスだからねー。仕方ないね!」
既に日は暮れ、食事も済ませて今は皆で焚火を囲っている。
いよいよこれから魔術講義という事もあり、イクスはもちろんレイラも少なからずそわそわしていた。
もっとも、イースラだけは例外で特に興味を惹かれないのか、既に夢の世界に足を伸ばし始めていた。
「では始めよう。そもそも、魔法とは何か。……イクスは知っているか?」
「んー、魔法っていうのは魔術や精霊術といった術をまとめていう言葉……合っているか?」
「あぁ、では魔法には魔術、精霊術の他には何がある?……レイラもその内一つは知っているな」
レイラは考えるが眠っているイースラを見て「あ、神聖術」と答えをだした。
ステラはその答えに頷いて返す。
「そう、魔法とは魔術、精霊術、神聖術、そして気術を総して呼ぶ。……気術に関しては後に回すが、魔術や精霊術に共通する事はなんだ?」
共通する点か……きっとアレの事だろう。
レイラを見るとレイラも思い当たる事があるらしい。
「誰かから力を借りる?」
「正解だ。魔術は魔神から、精霊術は精霊、神聖術は神から力を得る。ではその力とは何か……イクス」
やべぇ、わからない。
力って何か?
魔神なら火とかそういうのか?
でもそしたら魔術=火しかなくなる。
魔神から力を借りるとして、その力っていうのは何に当たるのか……。
「もしかして術式?」
こういう術を使いたい! と俺が考えたとする。
魔神はこれを使えと術式を俺にくれる。
その術式で俺は術を行使出来る。
というのはどうだろう。
だがステラの返答は――
「不正解だ。ヒントが少なすぎたか。ここは仮に魔術を元に考えてみよう。魔術は契約した魔神から力を借りて術を行使する。では我々術者は魔神に何を提供する?」
「提供? 何か差し出しているのか?」
「もちろんだ。お前は知らない奴からタダでくれと言われて差し出すか?」
「そんな奴がいたら間違いなく殺しているな」
「それと同じだ。魔神に対して『タダで力をくれ』とか言ってみろ……わかっただろ?」
なるほど。
つまりステラやイースラは何かしら差し出し、対価として力を貰っているというわけか。
だが、困ったな。
何を差し出しているのか見当がつかない。
レイラを見ると何か思い当たるようだ。
元気よく手を上げている。
……
…………は?
レイラが、俺の先を行く……だとっ!?
「血かな?」
「確かに、契約時に血を用いる場合は多いな。だが術を行使する度に血を抜かれていては死んでしまうぞ?」
「そっかー、残念」
どうやら不正解だったようだ。
血じゃない。
でも誰もが持っているもの。
誰でも……持っているもの。
「もしかして……マナか?」
「正解だ」
「あれ? でもマナってそこら中にあるでしょ? そんなのが欲しいの?」
「あぁ、確かに大気中にマナは存在している。だがそのマナと我々が持っているマナとではものが違うというのは知っているか?」
あぁ!! 属性か!!
あれ? でも属性も自然界に有触れて存在しているぞ?
「ははは、その顔からして恐らく近いところまでは来ているな。正解は魔状紋、と呼ばれるものだ」
「マナ……プリ?」
初めて聞く用語にイクスとレイラは目を点にする。
もっともレイラに限って言えば、今耳にする全てが初めての事ばかりだろう。
それでも一杯一杯にならないで済むのは、ステラが一つ一つに対して考えさせるように促しているからだろう。
ステラが教えるのをこうも得意だという事は意外だ。
(……本当に意外だ)
「大気中のマナを取り込むと、取り込んだ者の足跡のようなモノが刻まれるんだ。昨夜、レイラが索敵の魔法を使ったのを覚えているか?」
「そんなの使ったのか?」
「私じゃないんだけどね……うん、あの時の感覚は覚えてるよ。私が広がる感じ」
全く分からん。
でもそうか、レイラは俺よりも先に魔法の世界に足を踏み入れたのか。
羨ましいな!!
「あれはレイラの魔状紋が刻まれたマナを飛ばし、それ以外のマナとぶつける事で知覚する技術だな」
「なるほどな、それがさっきの代償に繋がるわけか」
「そういうことだ。魔神や精霊、神へ我々の魔状紋が刻まれたマナを捧げる。その代わりに顕現させるマナを貰うわけだ」
「なるほどなぁ……え? マナを貰うの?」
「おっと、うっかりバラしてしまった」
しまったとステラは手で口を覆う。
どういう事だ? マナを与してマナを貰う?
「……うむ、その辺りの事情は追々話すとしよう。いきなり全て話しても頭に入らなければ意味は無い」
「えぇーーー」
それは無いだろ!? ここからじゃないか!!
「イクスが良くてもレイラが……な」
え? と横を見るとレイラは目を回していた。
「マナがマナでマナがマナマナ???」
「では一息入れて、今度は自分のマナを感じ取ってみるか」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おーい、大丈夫かぁ?」
「うーーーーん、なんとか? まじんとか、せいれいとかの辺りで良く分からなくなっちゃった」
てへへと笑うレイラだった。
魔神のくだりって最初の方じゃね?
「なるほどとか言ってたのは何だったんだかな」
「んーー、『まじんさん』にマナをあげて『まじんさん』からマナを貰うって事でしょ? ……まじんさんって誰?」
「そこからか!?」
「イクスの知っている人? 私も知ってる?」
「人じゃねぇよ。魔神っていうのはなぁ……魔神っていうのは……あれ? 魔神ってなんだ?」
考えてみると魔神ってなんだ?
魔族と違うのか?
魔族の神様的な事なのだろうか。
俺がうんうん唸っていると、レイラは半目になってこちらを睨む。
「なによー。イクスだって知らないんじゃない!!」
「いやあれだよ。魔族の凄い奴」
「じゃあ『せいれいさん』は?」
「……自然の凄い奴?」
「そっかー」
「そっかーじゃない!? イクスも適当に教えるな!! びっくりしたわ!! 適当過ぎてびっくりしたわ!!!」
ステラの容赦ない指摘が入る。
レイラから再度睨まれた。
「イクス、嘘?」
「大体そんな感じだろ?」
「全然違うわ!! そもそも魔神は魔族ではないし!! 精霊に至っては超自然生命体でもない!!」
え? 違うの?
「え? 違うの? みたいな意外そうな顔をするな! ……魔神は異界に住む実体を持たない存在だ。精霊は自然界の属性マナの集合意識体だというのが近年の論調だ……もういいか? 今度は実際にマナを感じる訓練に入るぞ」
そう言ってステラは水を張った桶を二つ用意した。
異界とか集合なんとかとか分からない用語が出てきたが、たぶん聞いても分からないだろう。
気にはなるものの、これから始まる訓練の方に胸を躍らせずにはいられなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ステラは持ってきた二つの桶を俺と焚火の間、レイラと焚火の間にそれぞれ置いた。
「ゆっくり深呼吸をしよう。吸って……吐いて。呼吸の度に瞳から力が抜けていくのがわかるな。完全に閉じる必要はない。ゆっくりとで良いから瞳の力を抜いて……焚火の熱を感じるんだ、ゆらゆらと、そして火が薪をパチパチと焼く音が感じるられるだろ」
「……あぁ」
「……うん」
分かる……焚火の熱が肌で感じる。
パチパチと薪が焼けていく音が聞こえる。
慣れ親しんだ音だ。
昔は良くこうして焚火で暖を取ったものだ。
「ゆっくりと深呼吸しながら……焚火の近くの桶を見てみよう。水に何か映っているな……何が見える?」
ステラの声が澄んで聞こえる。
桶の……水の中……。
「……俺の顔だ、俺の顔が見える」
「……あれ……見え……」
レイラも何か見えているようだが、その声はほぼ俺の耳には届かない。
「見つめて、逸らさず、何か訴えかけてくるはずだ」
「……分からない。ただジッとこっちを見ている……何が言いたいんだ」
水面に移った俺は何かを語るわけでもなく、ただこちらを見つめるだけだった。
ただその表情は……辛そうな……呆れたような顔をしていた。
「焦る必要はない、もっと意識を近づけて、声が聞こえるくらい近くだ、少しづつ聞こえるようになる」
「……聞こえる……でも分からない……何が言いたい? 駄目だ、聞こえているのに分からない!!」
その瞬間、パシンッっと焼けた薪が弾ける音がした。
「よし、ここまでだ。なるほど」
「…………ん? あ、あぁ。だがマナを感じる事は出来なかったな」
「……私も」
なんだろう。不思議な体験をした。
起きていながら夢を見ていたような……。
「それはそうだ。これはマナを感じ取る下準備だからな。二人とも、さっきの要領で深呼吸しながら自分の中と外の違いを感じてみると良い」
俺とレイラは頭上にハテナを浮かべながら、言われた通りにしてみる。
(とは言え、自分の中と外の違いなんて……?)
なんだろう。自分の中で何かが巡っている感覚がする……血液か?
それと同様に外側にも妙な感覚がある。
澄み渡っているような……ボルカの爺さんの神殿……あそこで感じたような静謐さにも似た感じだ。
「うん……感じる……自分が広がる感覚……これがマナ?」
うん? 俺とレイラではマナの感じ方がなんか違う気がする。
「二人とも無事マナを感じ取れたようだな。自分が巡る感覚……それと同時に自分とは違う存在を知覚出来たはずだ。それが自分のマナとそれ以外のマナだ」
「へぇー、これがマナなんだ! うん、確かにこの感じ昨日感じたのと同じだよ!!」
あれ?
自分が広がる感覚?
自分以外のマナ?
確かに自分の中に感じるモノはある。
でも外側は全部一緒だぞ? 違いなんて無かった。
まして自分が広がる感覚というのは、全くといって感じなかった。
「……イクス?」
「……え? あ、なんだ?」
「どうかしたの? なんか顔色が悪いよ?」
どういうべきか。
そんなイクスの心情を知っているかのように、ステラは言った。
「……結論から言おう。イクス、君には魔術は使えない」
「――ぇ?」
魔法が……使え……ない?




