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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1.5章 村を追い出されたのに、近くの森で迷子になりました。
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第2話 迷った森と青空教室2

「くそっ!! イースラそっちへ行ったぞ!」

「まかせてなのです!! あぁっ!」


 イクスがレイラに訓練と称して、奇怪な運動をさせ始めたのをステラは咎めた。

 イクスはならばと、その奇怪な運動の有意性を証明すると言い始め、今に至る。



 鬼ごっこ



 それが今の状況だ。

 この男から提示した条件は以下の通り。


 一つ、日没までに私達の誰かがイクスに触れる事。


 一つ、私達の魔法は制限しないが、イクスに限っては一切の攻撃手段を取らない。


 一つ、イクスは私達から遠く離れる事はしないし、隠れ潜んでの時間稼ぎをしない。



 舐めている! どれ程私達を侮れば気が済むのだ!!


「草緑は、その身を伸ばして絡み惑う! トラップウィード!」

「おぉっ!? っと!」


 雑草がイクスを捕えんと伸びるが、イクスは小刻みに後ろに跳ねながらそれを交わす。


「器用な奴め!!」

「ははっ、早く捕まえないと日が暮れるぞぉ~」


 イクスはこちらを向きながら器用に移動を続けている。

 全く不愉快この上ない。


 だが、同時に関心もしている。

 この森の中であれだけ動けるのも大したものだが、奴はずっとこちらを見ながら移動している。


「後ろに目でも付いてるのです?」

「イースラ、このままでは本当に日が暮れてしまう。私が奴を追いこむからイースラは奴を捕えてくれ」

「よしきた合点なのです!」

「……なぜそんなに活き活きとしている?」


 森との相性が良いのか、それともこの『鬼ごっこ』がそれほど楽しいのか分からない。

 イースラが歳相応にはしゃいでいるのは珍しかった。


(いや、この村に来てからは結構見ているな)


 王都では大人に囲まれている事もあり、なかなか素を出せていなかったのだろう。

 彼にとっては今回の旅は有意義だったに違いない。


 私はどうだろうか。

 私にとって今回の旅はどのような価値があったのだろう……。


 私は――


「お~い、エルフなのに森で俺一人にいつまで時間かけているんでちゅかぁ~?」

「エルフ関係無いだろぉぉぉおおおおお!!」


 手を伸ばすが、イクスは容易くそれを躱し、木と木の間を跳ねながら手も使わずに木の上を駆けあがっていく。


「まるで獣か!? 猿のような奴め!!」

「猿は手を使うんだよなぁ……」

「大差変わらん!! 空の息吹は深緑すらも藍穿つ! エアプレッシャー!」


 圧縮した空気の塊をイクスにぶつける。

 流石のイクスも見えない空気を避ける事は出来なかったようで、もろに食らい跳ね飛んだ。


 ……

 ……跳ね飛んだ?


「うおっと。良くもまぁそうポンポンと色んな魔術が出てくるもんだ」


 くそぉ!! 攻撃を食らう直前に後ろに跳んで威力を削いだ!?


 あまりの出来事に面を食らったが、なんとか表情に出さないように努めた。


「ふ、ふふふ、即興詠唱は私の特技の一つだからな。ん? そういえば魔術を教える約束をしていたな」

「お、教えてくれるのか?」

「教えてやるからさっさと掴まれこのド猿が!!」

「うぉい!? 石を投げるのは流石に無しだろ!!」

「いとも容易くそれを避けるのだから問題ない!!」

「大有りだ!!」


 そう言いながらイクスは未だ息一つ切らしていない。

 私もそろそろ体力に限界がきている。


 だがな。


 最後に笑うのは私達だ。


 イクスは気付いていない。

 そこがこの勝負の分かれ目だ。


「今度こそ足を絡め捕ってやる!! トラップウィード!!」

「自分からバラしたら駄目だろっと。――っ!?」

「捕まえたのです!!」

「躱すために跳んだのが仇となったな!!」


 宙に浮いた瞬間、イクスの死角からイースラが飛び出してきた。


「来ると思ったぜイースラ!!」


 宙に浮いたところから、イクスは更に宙返りをした。

 両手を伸ばしたイースラから逃れ、イースラの頭を踏み台に更に跳ぶ。


 が。


「今だレイラ!!」

「なにっ!?」

「イクスーー!!」


 跳び上がる瞬間、イクスの横っ腹にレイラの容赦のないタックルがお見舞いされる。


「……勝った? 勝ったぞ、私達の……勝ちだ――――!!」

「うぅ、ボクの頭を踏み台にするなんて酷いのです!! 鬼畜のショギョーなのです!!」

「いてて、くそぉ……なんでレイラがココに……」

「えっとねー、私はずっとここに隠れていたのよ」


 イクスは驚いたように目を丸くした。


「ふふふ、自分が周囲を一周してたのには気付けなかったようだな」

「お兄さん、意外と深刻な方向音痴なのです」

「しまった。レイラを戦力として見な過ぎたか」

「ぶーーー。イクス侮りすぎ!!」


 ポコポコと可愛い音をさせながらイクスのお腹にパンチを入れるレイラ。

 なんだろうこの可愛い生物は。

 勇者でなければ持ち帰っているところだ。


 王都に持ち帰っている最中だがな!!


 おっと、そんなことより。


「跳ねる事の重要性を教える……キリッ!!」

「す、ステラ? ……ぷっ!」

「もぉ……あまりイジメちゃだめなんだからね!! ……ぷふ!!」

「お前らなぁ……でも分かっただろ、跳ねる事の重要性。跳ねる……なにも跳ぶだけの話じゃない。足の指から頭の先まで身体を動かすっていうのがどれだけ大事か……レイラはまだ体力もないし筋肉も出来てない。ちゃんと作っていかないと壊れちまう……そうならないようにしないとな」


 そう言いながらイクスは腰にいるレイラの頭を撫でた。


 ……。

 …………?


「イクス……お前、なんか変じゃないか?」

「お兄さん優しすぎて気持ち悪いです」

「えへへ」

「んーー……悪い、自覚してる。まぁ直に戻るから少し我慢してくれ」


 イクスはそう言うとバツが悪いのか、頭を掻いて顔を逸らした。


 そうして思い当たる。

 イクスが村でどういう存在だったのかを。


 最初、酒場でイクスに声をかけたのは、何も偶々ではない。


 イクスが酒場で一人浮いていたからだ。


 他の村民とイクスの間に壁のような溝があった事は一目でわかってしまった。

 だから私達は彼に声をかけたのだ。


 その事が巡り巡って最悪の形があれだ。


 もはやイクスは村民の憎悪の対象でしかない。

 この場にいる誰もが逆恨みだという事を知っている。

 村民の中には気付いている者もいたはずだ。


 でも止まれない。

 家族を失い、隣人を失った彼らは止まれないのだ。


 当のイクスは平気な顔をして村を去った。


 平気なわけないではないか……。


 イクスも、レイラも……。


「さて、次は私の番かな? 食事を済ませたら魔法の授業を始めよう」

「……遂にきたか、この時が!!」

「フフフ、美味しい食事を頼むぞ」

「安心しろ、食材は豊富だぞ」


 そういってイクスは取り出した。


「全部草だけどな!!」


 私達から逃げながら採っていたらしい。

 ……なんか負けた気がした。

次回は魔法についての解説回です。


最近話が短くて申し訳ありません。

年末の繁忙期の余波に吞まれました。


それとは別に、今更ながら洞窟のくだりとか書き直したい……。


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