第1話 迷った森と青空教室1
「「「「……迷った」」」」
カミュナ村と次の村の間には森がある。
といっても、徒歩で半日ほど行けば抜けられる程度のものだ。
「……お兄さん」
「……すいません」
「……どうしてこうなったのだ」
イクスは素直に謝る事にした。
土地勘のないステラ、イースラやレイラはともかく、木こりの手伝いや狩りをしていたイクスまでも見事に方向を見失ってしまったのだ。
「どうするのです? 一度戻るのです?」
イースラのその一言をイクスは考えてみた。
「な、何しに戻ってきた!?」
「「「「迷いました」」」」
「……えっ?」
「「「「迷って森から出られません」」」」
「…………」
「「「「…………」」」」
「…………マジ?」
駄目だ、気まずい。
気まず過ぎて居た堪れない。
皆もイクスと同じ考えなのか、気まずい表情で黙ってしまう。
ぎゅるるるるるるる
「……駄目だ。しばらく何も食べてないからいい加減限界がきている」
「ボクもなのです。最後に食べたのはいつだったのか……」
「…………」
そういえば最後に食べたのはデブ鳥だったか……そりゃあ腹も減る。
ちなみにボルカの爺さんのところでイースラはお菓子を食べていたはずだが、そこから考えても丸一日経っている。
「お前達はそこで休んでいるといいよ。ちょっとそこら辺周って食えそうなもの探してくる」
「……私も行く」
「……わかった。じゃあ二人とも荷物頼んだぞ」
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二人から少し離れ、森の中を散策する。
今は昼頃なのにも関わらず、森は薄暗く冷んやりとして少し肌寒い。
草の匂いが徐々に強くなってくる。
「お、うずまき草が生えてんな。レイラ、ありったけ摘んじまおうぜ」
「……うん」
「本当なら肉が食いたいよな。うさぎか何かいるといいんだが」
「…………」
うん、見事なまでに元気がない。
村を出るまではいつものレイラだったが、村から離れるにつれて目に見えて元気が無くなっていった。
「どうした? もう村に帰りたくなったか?」
「……ううん、それはどうでも良い」
「さらっと酷い事いうのな」
「だって、皆の方が酷いじゃない。皆イクスを殺そうとしてた」
「でもほら、誰も石一つ投げなかったじゃんか」
村の皆が殺気立っていたのは事実だが、我を失っていたわけじゃない。
石の一つでも投げつけてやりたかっただろうに、それをしなかったのは俺が無関係だとわかっていたからだろう。
八つ当たりだと分かっていて……やりきれないもんだ。
「あれは後ろに私がいたから、ステラとイースラもいたし、下手に当てたら問題になるでしょ?」
「すげー。解釈一つで打算的な奴等の出来上がりだよ!? ……で、結局何に落ち込んでんの?」
「……落ち込んでない」
レイラは頬を膨らませ顔を逸らす。
が、イクスは片手で膨れた頬を萎ませて自分に向かせる。
萎ませる時にブーと口から空気が抜けた。
「…………」
「…………落ち込んでる」
「知ってるよ」
「イクス……腕、見せて」
「……あぁ」
「そっちじゃない。右腕」
「…………はいよ」
俺は右腕を差し出す。
そこは昨夜レイラ(?)に斬り飛ばされたところだ。
今、その痕は残ってはいない。
「……良かった。傷一つ残ってない」
「不思議だよな。イースラの持ってた特製のポーションの効果が偶々残っていたらしいけど」
「私が、やったんだよね」
「覚えているんだろ?」
「……うん」
レイラは昨夜の事を覚えていた。
自分であって自分でない。
そんな出来事をレイラはどう受け止めているのだろうか。
俺だったらどうだろうか。
自分の意志とは関係なく口が動き、友に剣を向ける。
気が狂うかもしれない。
「彼女は……イクスに剣を向けた。絶対に許せないけど……私の願いも叶えてくれた。皆を守りたい、力が欲しいって……許せないけど……ごめん、憎めない」
申し訳なさそうに顔を伏せるレイラの頭をそっと撫でる。
「俺もだよ」
「え?」
「腕を斬り飛ばされたし、サカモトも殺されそうになったけど。あいつからは嫌な感じがしなかった。あいつにも感情らしいもんがあったの分かったし、何よりお前と同じ顔していたからな。あぁそれと山を下る時に気付いたんだけどさ、あいつの魔法は村人達には向いていなかったんだ。つまりそれってさ、村の皆を守っていたって事だよな。……うん、確かに殺されそうになったけど、俺もあいつの事は憎めない」
レイラは頭に乗せた手を握り、そのまま俺の胸に頭を預ける。
「……もう少しだけ、こうしてて良い?」
「……あまえんぼうめ」
レイラは少し照れくさそうにしていた。
(……ん?)
なんだか今日の俺は優し過ぎではないだろうか……らしくないにもほどがある。
いつもならこんな甘えは許さなかったはずだ。
でも。
(……あぁ、そうか)
ボルカの爺さんが死んで、村の皆に嫌われて……やっぱり無理だった。
辛すぎんだろ。
気付かないふりしてた。
平気なふりしてた。
慣れたふりをしてた。
俺は気付かないうちにレイラを抱きしめていた。
「イクス?」
「もう少しだけ、我慢してくれ」
「……あまえんぼさんめ」
全くもってらしくない。
――でも。
悪くないと思えた。
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どのくらい抱き合っていたんだろう、俺達はどちらともなく自然と離れた。
「イクス、私強くなりたい。私が強かったら皆をもっと守れていたと思うの。私に剣を教えて、イクス」
「……それは出来ない」
実はある程度予想していた。
昨晩の記憶があるのなら、剣を振るう俺を間近で見ているという事だ。
でも俺はそれを断った。
「なんで?」
「俺の剣は邪道で我流。俺の剣は敵を殺すためのものだから……勇者のお前には向いてない」
「でも――
俺はそれを遮る。
「勇者の剣は人に希望を与える……お前が求めている強さは、そういうものだと俺は思うよ……だから剣は教えない」
レイラが求めた強さは皆のための強さだ。
俺が求めた強さは徹頭徹尾自分のため……あまりに違い過ぎる。
「なら私は――
俺は再度それを遮る。
「でも強くなりたいのなら、その土台ぐらいは手伝ってやれる」
レイラは戦士として足りないところがありすぎる。
せめてちゃんとした先生が出来るまで、その穴埋めぐらいはしてやろう。
「イクス!!」
「でも相当しんどいぞ。俺が何年もかけてきた事を、お前には王都に着くまでにこなすんだからな」
「うん!!」
さて、レイラには地獄を見てもらう事になりそうだ。
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「…………なにしてるんだ?」
「なにっ、て、跳ねて、るんだ、よっ」
「……イクス」
ステラ達と合流して早々に睨まれてしまった。
俺は取ってきたうずまき草を石で叩いて串に刺し、焚火で炙りながら塩を振っていた。
「レイラには寝るまでとにかく跳ね続けてもらう」
「強く、なるため、にねっ」
そう、俺がまずレイラにやらせた事は跳ねる事だ。
ただひたすらに。
レイラが跳ねている間は俺が袋一杯のうずまき草を摘んだ。
さすがに跳ねながら摘むなんて出来ないからな。
「は? そんな事で強くなれるものか!! レイラ、とりあえず跳ねるの止めてくれ。視界の端でやられると気が散る」
「えぇ~~」
「レイラ、辛くなったらイースラに神聖術かけてもらえ」
「え゛?」
良い子のイースラが珍しく嫌そうな顔をした。
だが、直ぐにうずまき草の串焼きに食いついて幸せそうな顔に変わる。
「イクス、ふざけるのも大概にしろ。 跳ねるだけで強くなれるのなら魚が陸上最強だ!」
「肺呼吸すんなら最強だったかもなぁ……うん、シャキシャキしてて旨いな」
「イクス!!」
「分かった分かった。……じゃあ証明してやるよ」
「なん……だと?」
「跳ねる事の重要性を、な」
とりあえず、腹ごしらえした後にだけどな。
レイラの跳ね続ける訓練は、イースラの監修の下に行われています。
神聖術の補助無しでは大変危険なため、決して真似しないで下さい。
こごみ美味しいですよね。
鰹節と醤油が私のジャスティス。




