表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1章 村娘が勇者になったので、従者として一緒に旅に出るようです。
34/67

第29話 旅立ちの日

すいません、電車が渋滞して遅刻しました。

 頭がぼーっとしている。

 俺は……。


 確かレイラ(?)の尻に思いっきり平手打ちを叩き込んだ……覚えているのはそこまでだ。


 身体を動かす気力がない。


 真っ暗な世界……水の中かもしれないが。

 そこでゆらゆらと揺り籠のように揺れている。

 浮いているのか、沈んでいるのか分からないが、穏やかな気持ちになっていく。


 イクス


「……ぁ」


 イクス、今お主の頭に直接語り掛けているのじゃ


「ぅおっ!?」


 黒い海から抜け落ち、白い世界に落ちた。

 どうやら俺は沈んでいたらしい。


 白い地面を踏みしめて、向かいの男に視線を向ける。


「……あんた……どこかで」

「私はボルカ。竜脈として永劫の時の中でマナの循環を調整する者よ」

「えっ!? あ、ユテシアに土下座していた」

「そういう覚えられ方には異議をとなえたい!!」

「でも何でそんな姿に……」


 爺さんの今の姿は初代勇者ユテシアの頃の姿をしていた。


「私がボルカとしての生を終えたからだな。今は次の準備に入っている」


 イクスにはボルカの言っている意味が全く理解できなかった。


「竜は不死ではあり不死身でもあるが、死なないわけではない。僕の身体が滅びた事で、次の僕が生まれる準備に入ったのさ」

「あんた……」

「君はせっかちだからね。せっかくお別れを告げようとしたのに行ってしまうから。だからこうして最後の最後であいさつに来たという訳さ」


 今のボルカは子供の姿をしていた。


「大丈夫、思い出は消えない。次の僕に必ず引き継がれるよ。あーーーーっ楽しかった! まさに我が人生に一片の悔いなしとまではいかなくても、それに近い生き方が出来たと思うよ」

「…………おい」

「ありがとう。シュメラの……我が友人達の子」


 そう言うと小さなボルカは黒い海に昇っていく。


「また会おう。もっとも次の僕が雌とも限らないけどね」

「はっ? あ、おいコラ好き勝手言って行くんじゃねぇぇえ」


 最初から最後まで、好き勝手な奴だ。

 ……楽しかった、か。


「羨ましい爺さんだよ、まったく」


 これは別離だ。

 にもかかわらず、悲しい気持ちは微塵もない。


 イクスはこれまで経験した別れで、初めて笑って送り出す事ができた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……んぁ?」


 眼を開けると木造の天井がそこにある。

 間違いない、俺の家の天井だ。


「ぅぁ、身体が重い……なんでだ……レイラ?」


 レイラが俺の腹を枕にして寝ていた。

 なんとまー気持ち良さそうに寝ている事だろう。


「にゅふふ~、あむ」

「あ、こら人の腹は食いもんじゃねぇ!!」

「……んぁ?」

「あぁ……俺の腹がレイラのよだれでベトベトじゃねぇかよ! ん、おはよう食いしん坊の勇者様」

「イ゛グズゥゥゥウウウウウウ」

「誰がクズだこらっ!? や、泣くなよ!? おいこんなところ――


 いきなり泣き出したレイラをあやしながら視線を上げた。


「こんなところを、その後は? どうした、続けると良い」

「お兄さん、おそよう、なのです」


 お、おぅ。

 なにやら二名ほど睨んでいらっしゃる。


「目つきが悪い? 気にするな生まれつきだ」

「この時間まで起きていると心身共に疲労困憊なのです」


 一体何がなんやら。


「お前は『渾身の一撃』を放った後、糸が切れたように崩れてしまったんだ」

「大変だったのです。村の消火活動や怪我人の手当て、事の顛末をそれっぽく誤魔化すのに……どこかのお兄さんは気持ち良さそうに寝てたのですけどね!!」

「す、すまん!!」


 お、思わず謝ってしまった。


「それより、いつまで抱き合っているつもりだ?」

「……ずっと?」

「いや泣き止んだのなら離れてくれよ」


 無理矢理レイラを引き剥がして立ち上がる。

 ……すこしふらつくが気にするほどではない。


「……着替えるから出てくれない?」


 そう皆に言ったとほぼ同時に、ドアを激しく叩く音が響いた。


「出ている余裕はないようだ。悪いが今済ませてくれ」

「お兄さん……成仏するのです」

「イクス、必ず守ってあげるからね!!」

「え? なに? ちょ、レイラ自分で着替えられるからその手をワキワキ動かすの止めろ!!」


 やれやれ、どうやらもう一悶着あるようだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 家から出ると村の皆が集まっていた。

 俺を心配してくれた……という雰囲気ではない。

 ピリピリとした張り詰めた空気が広がっている。


「やっと出てきたな、そいつを引き渡してもらおう」


 出てきたのは筋骨隆々のおじさんだ。

 木こり衆のまとめ役をしていて皆から頼りにされている人だ。

 俺も良くしてもらった。

 やる事がない時に手伝わせて貰ったし、腹を好かせた時は握り飯を食わせてくれた。

 この家もおじさんに手伝ってもらい建てたのだ。


 おじさんだけじゃない。

 ここに集まった皆、何かしら良くしてもらった。

 感謝してもしきれない。


 そんな皆が、傷を負い、涙を流し、鬼気迫る表情で俺を見ている。

 今にも掴みかかりそうなおじさんとの間にステラが割込み、睨み返した。


「断る、この者の潔白は私達が保証すると言ったはずだ」

「それは俺達『村の人間』が判断する事だ。こいつが村に危険を招いた容疑はこちらで調べる。余所者の出る幕じゃない」

「貴殿らで調べられる事なんてたかが知れている。イクスが不要な迫害を受けると知りながら渡せるものか」


 ステラのその一言でおじさんは堰を切ったように叫びだした。


「そいつは元々村の人間ではない!! 二年前も村長とレイラ様のたっての願いだから受け入れた!! だが見ろ! この有様を!! 家屋は焼け落ち! ヤカもトコレトも皆喰われた!! 生まれたばかりのロシウの娘も嫁と一緒に喰われた!! なんでだ!? どうしてこんな事になった!? 貴様だイクス!! 貴様が魔物を村に招いた!!」

「落ち着け!! 自分が言っている事が無茶苦茶だと解らないのか!?」


 周りの村人もそれに反発する。


「なら誰が村を襲うの!!」

「この村で余所者はそいつだけじゃないか!!」

「返してよ!! お母さんを!! お父さんを返して!!」


 レイラは信じられないと小さく零し、顔を青く染めて怯えている。

 俺はその震える肩に手を置いた。


「俺は知っている!! 俺は見たぞ!! あいつ、腕を斬り飛ばされたのにくっついてた!! あいつ魔族だ!!」


 誰かが叫んだ。

 その瞬間皆の顔が恐怖で歪む。


「俺達を餌にする気か!?」

「くそぉ、やっぱり受け入れるんじゃなかった!!」

「家族の仇だ!!」

「殺せ!! 殺される前に殺しちまえ!!」

「鎮まれぇええぇええええぇぇぇぇええええええええええええええええ!!」


 村の皆が狂う瞬間、一言でその場を治める者がいた。


「村長……」

「なんで止めるんだよ村長ぉ」

「そのために儂が居るんじゃ」


 現れたのは村長とサカモトだった。


「イクス、お前を村から追放する」

「ちょっと待っておじいちゃん!?」

「レイラ、黙ってなさい」

「嫌よ!!」

「黙りなさい!!」


 レイラは吃驚した顔で固まってしまった。

 俺も吃驚した。

 村長がレイラに怒鳴ったところを初めて見たから。


「事情はサカモト殿から聞いておる。だが無理じゃ。この村でイクスが生活する事はもう出来ん。出ていけイクス。二度とこの村に足を踏み入れるな。以上じゃ、解散!!」

「そんな村長!?」

「イクスが本当に魔族だとして、儂等では太刀打ちできないじゃろ。下手に傷をつけてみろ、報復でまた村に被害が出るわい」


 その一言で皆押し黙った。

 そして一人、また一人とその場を去っていく。

 皆俺を睨んでいた。


 そうか、俺は嫌われていたのか。

 不愛想な奴等だと思っていた。

 でもなんだかんだと世話を焼いてくれた。

 俺は皆が、この村が好きだったんだと思えるくらい。


 去っていく村人の中で、たった一人残った奴がいた。

 顔が傷だらけで片腕を失くし、身体中を包帯でグルグル巻きになっていた。


「……ザング?」

「イクスゥゥ!!」


 ザングがレイラの声を無視し、容赦なくイクスに掴みかかる。


「返せ!! クュ―ニアを!! お前が狂わせたんだ!! 彼女を返せよ!!」

「……? クュ―ニアって誰だ?」

「っ!? 避けるなぁぁあ!!」


 弾かれたようにザングが殴り掛かる。


「お前が!! 誑かしたんだ!! あいつ、僕をお前と錯覚してた……なんでだ!? なんで俺じゃなくお前なんだぁぁぁ!!」

「知らねぇよ……なぁレイラ、そのクュ―ニアって誰の事だ?」

「ザングの彼女」

「え? なおさら知らねぇよ。村の女、皆近づいてこなかったし……その理由も今さっき察した……けど……」

「嫌われてた事実に打ちのめされているのです?」


 追い打ちかけないで。


「許さない。お前だけは……俺は絶対許さないからなぁぁぁぁぁぁあぁぁああ!!」


 ザングは力の限り叫ぶとそのまま倒れ込み、気を失った。


「……さて、村から出るか」

「無視なのです!?」

「いやだって、本当に知らないからな。さっきも言ったが村の女と関わりなんてなかったし……」


 レイラは「あれ? 私は???」と自分を指さしていたが無視した。


「それに早く出ていかないと村の皆も落ち着けないだろ」


 家に戻り元々少ない荷物をまとめて家を後にする。

 二年ほど過ごした我が家に戻る事はもうないだろう。


「ま、王都までは付き合ってやるよ」

「ま、私の従者だもんね。当然だわ」

「ま、どうせこうなるんじゃないかと思っていたがな……どう言い訳したものか」

「ま、成るように成るのです」


 大丈夫、嫌われる事には慣れている。

 恨まれている負債の数は山のようあるだろう。

 今更、数百増えても誤差だ誤差。


 そう自分に言い訳しながら村を後にした。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「「「「迷った」」」」


 村から出てすぐの森で七日間も迷う事になるとは、思いもしなかったけどな!!

これにて一章本編は終了です。

サカモトの影が薄いです。

遅筆で申し訳ございません。

多少なりとも楽しんでいただければ幸いです。


次回は森のなかでの一幕になります。

もう少しだけ一章は続きますがよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ