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不撓不屈の勇者の従者  作者: くろきしま
第1章 村娘が勇者になったので、従者として一緒に旅に出るようです。
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第23話 目醒め

連投三本目です。


 レイラとステラ、イースラとサカモトの四人はイクスを置いて獣の後を追っていた。

 あっという間に獣達の姿は見えなくなり、その気配さえも掴めなくなってしまった。


「っ、……このままでは」

「前は狼、後ろは帝国……無茶苦茶なのです!」

「何とか……追いつか……ないと、村の、みんなが!?」

「でもこれ以上ペースを上げてもレイラ様が持たない」


 息も絶え絶えになりながら、必死に二人についていくレイラ。

 既にイースラによる神聖術は掛けられている。

 それでも狼はおろか、二人が若干速度を落としてやっとついていけている状態だった。


 四人の中で一番レイラが遅い。

 でもそれはステラとイースラ、サカモトが特別足が速いというわけでは無い。

 レイラの体力が極端になかった。

 だが、決して怠けていたというわけでは無い。


 平和な村で幸せに育った彼女と苛烈な世界で生きてきた者の差は必定だった。


 ただそれだけの事だったが。


 レイラは今、それが口惜しい。

 疲労した体をイースラが癒しても、直ぐにまた疲労してしまう。

 そんな自分が憎らしく、明白な力足らずを嫌でも思い知らされる。

 それでも絶対足を止めない。

 足を止めれば、きっと自分を許せなくなる。


「…………あまりやりたくは無いのだが」

「はぁ……はぁっ……?」

「この坂を下っていけば、あの狼の群れに追いつけるはず」

「ちょっ、正気なのです!? 坂というより崖なのです!!」

「んー……でも他に方法はなさそうだね」


 絶壁とまでは言わ無いが、およそ七十度程の傾斜の崖を下ろうとステラは言っている。


「幸いこの山は土と岩が剥き出しで、足元さえ気を付ければ下るのはそう難しくはない。極端に言えば跳ねてれば奴らに追いつける。跳ねてるだけだから体力も回復できるはずだ」

「その理屈はおかしいのです!!」

「だがこのままでは奴らと距離は開く一方だぞ」

「行くわ! 私が追いつくには他に無いもの!」

「怖気付くのは何時でもできる!! でも勇気を出す時は今しかない!」


 我先へとレイラは飛ぶ!

 続くサカモト、薄暗くなった崖を下るのに自分を鼓舞しておかしなテンションなっていた。

 ステラとイースラは慌てて続く。


「ちょっ! せめて神聖術をかけさせて欲しいのです!」


 ちょうど切れかけの神聖術を掛けてもらいながら、四人は崖を下る。

 そこまで高く跳ねる必要はない。

 薄く、低く、なるべく体力を使わないように、奴らに追いつくのが目的ではないのだから。


 あっという間に速度はあがり、既に自分で制御する事が出来なくなる。


「しまった!! 止まる事を考えていなかった!?」

「やっぱ駄目ルフなのですぅぅうううぅぅぅぅぅうううううううぅぅぅぅぅ!?」

「見えた!! 狼の群れ!!」

「日本の魂は世界一ぃぃいいいいい!!」


 夕日が沈む直前のわずかな薄暗さの中、蠢く波のように駆ける黒い集団がいた。

 数にして八十匹といったところだろうか。


「止まれぇえぇぇえええええ!!」


 レイラは剣を抜き放ち、そのまま群れに向かって突っ込んだ。

 先頭を走る一匹の頭部に思いっきり蹴りを叩き込む。


 急な攻撃で先頭が吹っ飛ばされたところを目撃した影狼達は、思わず足を止めると気づけなかった後続が突っ込んできて瓦解した。

 影狼達が絨毯代わりとなって、続く三人が容赦なく踏みつけ怪我なく止まる事ができた。


「ロックスパイク!!」


 下りながら詠唱をしていたステラは直様呪文を解放した。

 土の荊が影狼達を絡め取る。


「「「愚餓餓餓」」」


 絡みついた荊の棘が影狼達に容赦なく突き刺さる。


「たーーーーー!!」


 腰の入っていないものの、レイラの剣は迷いなく影狼の首を落とした。


「だめだレイラ!!」

「え?」


 ステラの声にレイラは理解出来なかった。

 だが、自分がした事が間違いだった事に直ぐに気がつく。


 落とした首がモゾモゾと動き、胴体と粘土のように混ざった後、元の姿へと戻っていた。


「うげっ、気持ち悪いっ!?」

「避けろレイラ!!」

「っ!?」


 元に戻った影狼がレイラに襲いかかる。

 咄嗟の出来事にレイラは反応出来なかった。


「破っ!!」


 サカモトが影狼の懐に潜り込むと短剣で胴を突いた。

 その瞬間、影狼は風船のように膨らむと弾け、塵となって消える。

 それと同時に割れた赤い石が地面に落ちた。


「魔物を殺すには魔石を割らないと駄目なんだ。じゃないと直ぐに再生してしまうよ」

「わかった!! ありがとうサカモト!」

「狙うのは胴体、心臓の部分を狙って!」


 レイラはステラの魔術で拘束された影狼に跨ると、剣で何度も突き刺した。

 六度ほど繰り返して魔石が割れ、影狼が先ほどと同様に絶命する。


 魔石の位置を完全に把握したレイラは、今度は一突きで影狼を葬っていく。


 それを見ていたステラ達は驚いた。

 まるで乾いた大地が水を吸い上げるように、殺しの技術が上達しているレイラに。


 驚いていたのはステラ達だけじゃない。

 影狼達は次々倒されていく様に恐怖した。


 瞬く間に三十程の同胞が、よく分からない小娘に葬られていく様を見て恐怖せざるを得なかった。


「「「吁乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎乎!!」」」


 五十もの獣が一斉に雄叫びを上げる。

 拘束されながらも、更に肉に棘が食い込もうがお構いなしに暴れる。


「ぐっ!? こ、こいつら正気じゃない!!」

「魔物に正気なんてあるのですっ!?」

「今それ気になるの!?」

「嘘……でしょ」


 食い込んだ棘を自分から削いでいく影狼。

 ボトボトと自らの肉が別れていくが、その後身軽になった肉達は再び集まり元に戻っていく。


「しまった!? これが奴らの狙いか!!」


 棘から解放された影狼達は、レイラ達を無視して再び駆けだす。


「ここで決着をつけないと不味いよ!!」

「行かせない!!」


 レイラが影狼とすれ違いざまに剣を走らせ両断する。

 だが、魔石を壊すには至らず、すぐさま元に戻り駆けて行ってしまう。


「ステラ! 土の壁を作るのです!!」

「集え! 四方を囲む黄壁の棺! ストーンコフィン!」


 地が揺れ影狼を取り囲むように石の壁が取り囲む。


「後は取りこぼした奴を……は?」


 取り囲んだ石の壁の中から、ゴリゴリと嫌な音が響く。

 壁の僅かな隙間から、黒い染みがにじみ出てくるとそれらが集まり影狼が生まれた。

 次々と影狼が湧き出し、レイラ達を通り過ぎて行く。


「まずいのです……これでは時間稼ぎにすらならないのです!」

「……待って。行かないで……そっちには……みんなが」


 剣をいくら振るっても、どれだけ肉を削いでも影狼は止まることなく、レイラから遠ざかっていく。


「……不味いぞ! このままでは村に入られてしまう! しかも奴らはとことん私達を無視するつもりだ」

「でもまた崖を下れば追いつけるんじゃ……」

「同じ事をして果たして通用するのです? 次は警戒されるはずなのです!」

「どうしよう……みんなが……」


 レイラは膝から崩れ落ち、目頭から涙が滲む。


「考えていても仕方ない! そういう時は動いてから考えるのだ!」

「ステラが追い込まれて脳筋に!?」

「だけど彼女の言う通り、ここで悩んでいても仕方ないよ。とにかく追いついて一匹でも多く倒すしかない!」


「行かなきゃ……みんなを……守らなきゃ……」


 レイラは仁王立ちして崖下を見据える。

 その手にはしっかりと剣を握りしめて……。


「レイラ様……行こう。みんなを助けるんだ!」


 だが、レイラ達が影狼に追いつく事は出来なかった。

 レイラ達が崖を下ったように、影狼達もまた崖を下ったのだ。

 影狼達がそんな選択をしたのは、レイラ達の奇襲が起因しているのは間違いない。

 すでに村が目視できる程の距離である事も手伝い、影狼は村に向かって直線的に走る。


 どれだけ走っても、人と獣では距離が開くばかり……。

 レイラ達が村に着く頃には、至る所で火の手が上がり、悲鳴が上がっていた。


「あぁ……ぁ……ぁ」


 知っている。

 私はこの人達を知っている。

 おしどり夫婦と冷やかされた人がいた。

 よく漬物をくれるおばあちゃんがいた。

 虫を使って悪戯してくる男の子がいた。

 だけど、知らない顔をしていた。


 こんな顔は知らない。

 こんな感情は知らない。

 こんな気持ちは知らない。


 レイラは痛みで胸を抑える。

 鼓動が早鐘のように脈打ち、耳鳴りが止まらない。

 それでも耳に届く。

 助けを求める悲鳴が、泣き声が、嘆きが。


「……やっつけ……ないと……約束……したんだ」


 痛い。


『俺はこいつぶっ飛ばして直ぐに追いかける! それよりも村の皆を助けてやってくれ!』


 胸が痛い。

 イクスとの約束は、もう守れない。


『レイラ・カミュナ様をお迎えに上がりましたのです! 今代の神に選ばれし勇者様!』


 心が痛い。

 私が本当に勇者なら、こんな事になっていない。


『勇者の印が確認できた。 レイラ様、間違いなくあなたは勇者だ。 魔王討伐のため、我々と共に来てほしい』


 頭が痛い。

 私に出来る事なんて何一つなかった。


 どうして私は弱いんだろう。

 どうしようもなく役立たずだ。

 約束したのに……。

 みんなを守ってくれって頼まれたのに……。


 助けたかった。

 みんなを助けたかった。

 こんな光景はあまりに辛すぎる……。

 みんなが笑って暮らしてたあの日を手放したくなかった!!

 悔しい……力があれば……私に力があったなら!!


「あぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!」


 欲しい!! 全てを……力が!! 私は欲しい!!


 極限の痛みに胸と頭を抑えながら言葉に成らない叫びを上げる。

 その叫びは現状の嘆きであり、無力の後悔であり、みんなへの懺悔であり、どうしようもない渇望だった。


『願望を受理しました』


 どこからか、全く聞き覚えのない声が脳裏に響いた。

 その瞬間、レイラは意識を失った。

来週からまた週一ペースに戻ります。

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