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【番外編】王様の出張

以前に企画した『夏のSSS』で書いたものです♪


「誰だぁ? 隣国訪問なんてスケジュール組んだやつはぁ!!」


オレは執務室で叫んでいた。

眼の前には宰相で義父のトパーズ公爵。しれっと澄ました顔で書類片手に控えている。


「それは、色々な方面からの要望等と、外交の必要性を加味した結果ですよ」

「だ・か・ら! 誰が決めたのって!」

「主要部署のトップですよ。言わずもがな」

「で。なんでこんな時期?」

「それは王妃様の懐妊中ということですか?」

「そうだ! 身重のレティを連れて行くわけにはいかないだろう! 必然的にひと月もレティの傍を離れなくちゃならないんだぞ?! ありえねー!!」

「いえ、国王なんですから、ありえねーでは済ませられませんから。御覚悟を」

「いやだ~~~!!!」


オレは最後の書類にサインをして、すぐさま部屋を出て行った。




どんだけ抵抗しようが組まれたスケジュールに変更はなし。

オレは宰相代理のエメリルドに引きずられて隣国へと旅立った。

臨月の大きなお腹をかかえたレティの、それはそれはかわいい笑顔に押し出されて。

押し込まれた馬車の中、ぶすっとしたまま外の景色を眺める。転移の魔法で行けばあっちゅー間なんだけど、隊列で行く方が威圧感とか牽制になるらしいから。めんどくせえ。しかも一緒の箱の中には最愛のレティではなくその兄貴のエメリルド。こいつも美形だけど、所詮男だし。何が悲しくて男と一緒に旅しなきゃなんねーんだ! いや、レティ以外ならだれと一緒でも御免こうむりたい。


「私と一緒で不本意そうですね~。こっちもですよ」

「ほっとけ」

「はいはい。さ、諦めて仕事してくださいね~」

「わーったよ」


ぶすっとしたまま返事をするが、エメルは気にもしていない。「なんで今回こんな人ばっかりなんでしょうかねぇ?」というつぶやきが聞こえた。そういやディータもごねたとか?

同士がいたか。




レティのいない外交なんて、ナントカのないコーヒーみたいなもの。気の抜けた炭酸みたいなもの。身なんて入りゃしない。

テキトーに相槌打って、テキトーに微笑んで、テキトーに褒めておく。

オレという人物をよく知らない相手には通用するが、


「気合入れて外交してくださいねっ!!」


レティによく似た超絶スマイルに真っ黒な怒気を含めるという離れ業で、エメルが詰め寄ってくる。完全にばれている。


「だめだ。レティ切れだ」

「まだ3日です」

「死んでしまう」

「んなわけないでしょ」


パーティーを終えて、自室に下がりソファに伸びる。エメルの笑顔が怖い。つか、黒い。

そのレティに通じる顔を見ていてはたと閃いた。


「そうだ! 毎日オレが帰ればいいことじゃねーか!」

「はあ?!」


さすがにエメルがキョトンとした。いつも取り澄ました顔のこいつにしたら珍しい表情だ。

珍しいものを見て更に気分が浮上した。


「転移したらいいんだよ。夜だけ向こうに帰って、朝には帰ってくるからさ」

「……」

「じゃ、エメル、明日呼びに来てくれよ~」

「もう……陛下といいアウイン殿といい……。はいはい。それで気合が入るならもう好きにしてください」

「じゃな~。お・や・す・み~♪」


オレは転移魔法でレティの元を目指した。


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