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【改訂版】Sランクパーティーに捨てられたポーターは実は最強の空間魔法使いだった。~虐げられた世界に復讐して『ざまぁ』するんだぁ!~  作者: ボルトコボルト


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第93話 激闘の砦、あるいは少年少女の逃亡論

 ドカーン――!!


 鼓膜を震わせる凄まじい轟音とともに、衝撃波が『黒の群盗』の砦を揺るがした。


「な、何だ、何が起きたぁ!?」

「敵襲か? それとも身内の裏切りか!?」

「煙の上がっている方角を見ろ! 食料倉庫だ! 食料倉庫が爆発したぞ!」


 一瞬にして黒煙に包まれる砦内。生き残るために集まったはずの盗賊達は、たちまちパニックに陥り、右往左往するばかりで統制を失っていく。


 一方、砦の外では、その爆発を今か今かと待ち構えていた男がいた。


 白銀の鎧を身に纏った男――ベーマタ騎士団長は、立ち上る黒煙を目にすると、腰の剣を抜き放ち、天へと掲げた。


「好機だ! 内応者の作戦は成功した! 者ども、悪党どもに正義の鉄槌を下す時が来たぞ! 全員、突撃ィ!!」

「おおおおおおっ!!」


 地響きのような大歓声が上がる。四方から一斉に砦へと牙を剥く騎士達、そして彼らに雇われた冒険者達の波。


「ちっ、慌てるな! 門を死守しろぉ! 弓隊、魔法隊、配置につけ! 近付く奴らは片っ端から蜂の巣にしろ!」


 門の守備を任されていた幹部の一人、トカツモは必死に声を張り上げた。彼の顔は不気味な黒い面に覆われており、表情は窺えない。しかし、その声には明らかな焦燥が混じっていた。


 砦の防壁から、一斉に矢が放たれる。雨のように降り注ぐ矢の群れ。


 だが、突き進む騎士達は一歩も引かない。


「大盾を構えよ! この程度の矢、通すな!」

 騎士達は一糸乱れぬ動きで巨大な盾を掲げ、金属音を響かせながら前進を続ける。矢は盾に弾かれ、彼らの歩みを止めることはできない。


(くそっ、堅物どもの盾め……なら、これでどうだ!)


 トカツモは舌打ちをしながら、さらに声を張り上げた。

「魔法隊! 容赦なく火球を叩き込め! 盾ごと焼き尽くせ!」


 指示を受け、盗賊の魔法使い達が呪文を唱え始めた。その指先に禍々しい魔力が集まりかける。


 しかし、その瞬間だった。


 魔法隊の足元に、砦の内側から何かが転がってきた。それは淡く光る不気味な小箱――爆発の魔道具。

「へ? な、何だこれ――」


 ドカーン!!


「ぎゃあああああっ!?」

 凄まじい爆風が魔法隊を直撃し、彼らは詠唱を中断されるどころか、文字通り木端微塵に吹き飛んだ。背後からの予期せぬ一撃。内通者がまだ砦の中で動いているのだ。


「今だぁ! 走れぇ!」

 最前線で大盾を構えていたベーマタは、魔法隊の壊滅を見るや否や、目にも留まらぬ速さで大盾を『アイテムバッグ』へと収納した。


 代わりに引き抜いたのは、彼の二つ名の由来でもある一振りの長槍。


「私に続け!」

 ベーマタは驚異的な脚力で地面を蹴り、一陣の風となって突進する。その後ろを、大盾を持った騎士達、さらには『豪勇の斧』率いる冒険者達が必死に追いかける。


「一番槍は俺がいただく!」

 全速力で門へと肉薄したベーマタは、その身に宿る魔力を槍の穂先に集中させた。


 ズドォォォン!!


 凄まじい衝撃波とともに、頑強な砦の門が内側へと吹き飛んだ。


 単身、敵陣の真っ只中へと躍り出るベーマタ。しかし、あまりにも突出した突撃だったため、後ろを走る騎士や冒険者達は彼の速度に追い付くことができず、門の向こうに取り残される形になってしまった。


(――チャンスだ!)


 トカツモの目が、面の下で鋭く光った。いかに英雄とはいえ、孤立したのなら数の暴力で圧殺できる。


「お前たち、あいつを取り囲め! 手柄は山分けだ、向かい討て!」


 トカツモは背後の盗賊達を煽りながら、自らも槍を構えてベーマタの前に立ち塞がった。周囲を数十人の盗賊が囲む。


「流石は『天槍のベーマタ』。一人で突っ込んでくるとはな。だが、ここで首を置いていってもらうぞ! 相手に取って不足はねぇ!」


「ほう……俺の名を知っているのか」

 ベーマタは無数の刃を向けられながらも、眉一つ動かさずに不敵な笑みを浮かべた。


「どこの誰だか知らんが、その面の下の顔を見せてもらおうか?」

「断る。さあ、掛かれぇ!」


 トカツモの合図とともに、剣を構えた盗賊達が一斉にベーマタへ襲いかかった。トカツモ自身は一歩引き、ベーマタが盗賊達と交戦して生じるであろう『一瞬の隙』を虎視眈々と狙う。


 だが、その目論見は一瞬で打ち砕かれた。


「はああああっ!」

 ベーマタの槍が、まるで生き物のようにしなって空間を切り裂く。


 一突きで二人を貫き、返す薙ぎ払いで三人を吹き飛ばす。縦横無尽に暴れ回るその姿は、まさに戦神そのものだった。盗賊達の攻撃はかすりもせず、それどころかベーマタの動きには一切の無駄がない。隙を探そうにも、隙そのものが存在しなかった。


(化け物め……! これが、本物の英雄か……!?)


 トカツモが冷や汗を流している間に、戦況はさらに悪化する。


 遅れていた騎士団と冒険者達が、ついに壊滅した門から雪崩れ込んできたのだ。


「ベーマタさん、待たせたなぁ! おい野郎ども、悪党どもを一人も逃すな!」

 先頭で現れたのは、冒険者パーティ『豪勇の斧』のリーダー、フドウ。彼は凄まじい咆哮とともに巨大な斧を投げつけた。


 ドゴッ!


 鋭い一撃が盗賊の頭を正確に叩き割る。


 一気に崩れる防衛線。これ以上の抗戦は不可能だと、トカツモは瞬時に判断した。


「ちっ、これは拙いぞ……! お前ら、ここは任せた!」

 トカツモは配下を盾にするようにして、迷わず砦の奥へと逃げ出した。


  ◇◇


 一方、その少し前。


 砦の内部にある一室では、ミナト達が慌ただしい報告を受けていた。


「ほ、報告します! 食料倉庫が何者かによって爆破されました! 現在、消火活動を行っていますが、外からは騎士団の突撃が――」


「ええええええ!? ちょっとミナト、拙いよ、拙すぎるってぉ!」

 報告を聞いた途端、アオイは真っ青な顔をして部屋の隅にあった荷物をひっ掴んだ。完全に逃亡モード全開である。


「おう、逃げるぞ。何が応援だ、全然来やしねえじゃねえか。あの野郎、約束が違うな」


 ミナトは吐き捨てるように言うと、机の上に置かれていた金目の物や魔導具を素早くバッグへと詰め込んだ。ここに残って戦う義理など一ミリもない。


「ヒマリ、行くぞ! ぼうっとしてる暇はねえ!」

「……そ、そうね。行きましょう」


 どこか上の空だったヒマリも、ミナトに声を掛けられてようやくハッと我に返り、荷物をまとめた。


 三人は部屋を飛び出し、あらかじめ調べておいた非常用の隠し通路へと向かって廊下を全速力で走る。


 砦の中は、あちこちから悲鳴や怒号が聞こえてきて大混乱に陥っていた。


 そんな中、前方の暗い通路を同じように急ぎ足で走っていく二人の背中が見えた。


 豪奢な服を着たサキヨマと、その後ろを影のように従うリマサノだ。


「あら? やっぱりあの二人も怪しいわね。こんな時に二人きりで非常口に向かうなんてさ」


 アオイが走りながら、ひそひそと声を潜めて呟いた。危機的状況であるはずなのに、その目はどこか好奇心に満ちている。


 その言葉に、ヒマリのオタクとしてのアンテナが敏感に反応した。


「ねぇねぇアオイ、ぶっちゃけどっちが『受け』だと思う?」


「え? そんなの決まってるじゃない。サキヨマさんが受けに決まるでしょ。ほら、この前出た『禁騎士2』の第3章にも書いてあったじゃない。日傘の趣味に目覚めた時点で、もう属性は確定してるって」


「ほうほう、なるほどねぇ……。あの尊大な態度が崩されるのがいいわけね。ちょっと、今度『禁騎士2』貸してよ。私、まだそこまで読めてないの」


「いいよー、後でね。今はとにかく生き残らないと!」


「おい、お前ら不謹慎な話をしながら走るな! 足が鈍ってるぞ、早くしろ!」


 緊迫した空気のなか、謎のBL談義に花を咲かせる女子二人に対し、ミナトの怒声が響き渡るのだった。

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