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【改訂版】Sランクパーティーに捨てられたポーターは実は最強の空間魔法使いだった。~虐げられた世界に復讐して『ざまぁ』するんだぁ!~  作者: ボルトコボルト


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第86話 絶望の石像群、あるいは罪深き村の終焉

 村長トメキチの醜い命乞いは、止むことなく辺りに響き渡っていた。


 かつて村の絶対権力者として君臨していた男の、見る影もない無様な姿。だが、ユウマはその言葉のすべてを聞き流し、冷徹な視線を隣のユイナへと向けた。

 ユイナの瞳は恐怖に大きく見開かれ、焦点が定まっていない。


 彼女の目の前には、つい先ほどまで生きていた者たちの無惨な死体が転がっている。ミナトの父ミナオ、アオイの母アオナ、ヒマリの父ヒマル――。一人、また一人と顔を血だらけに染め、物言わぬ肉塊へと変わっていった。その光景をまざまざと見せつけられたユイナは、なぜ彼らが死ななければならなかったのか、その理由すら理解できず、気が狂うほどの恐怖に心を支配されていた。


「ユウマ! お願い、私を好きにして良いわ! 何でも言うことを聞くから! だから……だから私だけは助けて、ねぇ、お願い、良いでしょ!?」


 ユイナは必死に声を張り上げ、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら縋り付こうとした。しかし、その身体はユウマの力によって微動だにしない。


「亡霊洞窟での事は謝るわ! 本当にごめんなさい! でも、私はただ見てただけなの! 悪気はなかったのよ! 全てはミナトが悪いの! あいつがあなたを嵌めようって言い出したのよ! 私は巻き込まれただけなの!」


 友であったはずのミナトに全ての罪を擦り付け、己の保身だけを訴えるユイナ。そのあまりの浅ましさに、ユウマの冷めた視線がいっそう鋭くなる。すると、その横からさらに見苦しい声が割り込んできた。


「ぬ、ぬぬ……! ユイナ、お前自分だけ助かろうとするなど、なんと身勝手な! ユウマ、儂が死んだらこの村の政治は終わってしまうのだ! 村が崩壊しても良いのか!? 何とか儂と、そう、儂とユイナだけは助けてくれ! 殺さないでくれぇ!」


 ユウマは、這いつくばるようにして命を乞う村長を静かに見詰めた。


 トメキチの顔は恐怖で激しく歪み、目玉が飛び出んばかりに見開かれている。全身はガタガタと 震え、止めどなく流れる冷や汗が地面を濡らしていた。


「――俺の父の命乞いは、聞かなかったんだろう?」


 ユウマの低く、地を這うような声が響いた。その一言に、トメキチの顔が劇的に引きつる。


「そ、それは……。あ、謝ります! すいません、すいません、すいません! 助けて、何でもするから! 金だ、金もやる! 村の財産を全てお前にやるから! お願いだ、頼む! 助けてぇ!」


 頭を地面に何度も打ち付けんばかりに激しく動かそうとするが、固定された身体はそれを許さない。ただ、その歪んだ表情だけが必死に許しを請うていた。


  ◇◇


(さて、どうするか……)


 ユウマは2人を見下ろしながら、冷徹に思考を巡らせていた。


 この2人もまた、殺したいほど憎んでいる。特に村長トメキチは、自分の両親を死に追いやった直接の仇だ。今すぐその首を撥ね飛ばしてやりたいという衝動はある。


 しかし、ただ殺して終わりで良いのだろうか、とも思い始めていた。


 ミナトたちの親は、明確な殺意と敵意を持って襲いかかってきた。だからこそ、こちらも容赦なく手を下せた。だが、目の前でただ泣き叫び、無様に謝罪を繰り返すだけの2人に対して、完全に非情になりきれない生温い自分がいるのも事実だった。


 かと言って、こいつらを許すつもりなど更々無い。生かしたまま、地獄以上の苦しみを味わわせる方法。ユウマの脳裏に、ある残酷な結末が浮かび上がった。


「良し――殺さない事にしよう」

 ユウマがそう告げた瞬間、トメキチの顔に劇的な変化が起きた。


「おお……! ありがとう、ありがとうございます……!」

 トメキチの口元が、一瞬だけニヤリと歪んだのをユウマは見逃さなかった。


(甘い奴め、命さえ助かれば、後でどうとでも挽回できるわ)


 そんな下劣な思考が、その汚い顔に透けて見えていた。


「良かったぁ……! さあユウマ、身体が動くようにして? これからは私、あなたのために何でもするわ。身も心も、全てユウマに尽くすから……!」

 ユイナもあからさまにホッとした表情を浮かべた後、その瞳を現金に輝かせた。


(ここさえ乗り切れば、後は私の美貌と身体でどうにでも操れる。チョロい男)


 そんな傲慢な計算が、彼女の目の奥でギラギラと渦巻いている。


「――いや、許した訳では無い」

 ユウマの冷徹な一言が、2人の淡い希望を容赦なく打ち砕いた。


「ユイナ、そして村長。お前たちには、死ぬ以上の苦しみを味わって貰う」


「「え……!?」」

 2人の顔から、一瞬で血の気が引いていく。


「な、何をする気だ……? 殺さないと言ったではないか!」


 怯えるトメキチの言葉を完全に無視し、ユウマはゆっくりと周囲に視線を向けた。そこには、彼の魔力によってその場に縫い留められ、怯えきっている無数の村人たちがいた。


「この中で、俺の父を殺す行為に直接関わった人がいると思う。また、村長たちが俺の父を殺したことを、見て見ぬ振りをした人もいるだろう。……あるいは、村長の仕返しを恐れて、反対出来なかった人もいるかも知れない」


 ユウマの言葉が響くたび、村人たちの間に目に見えない戦慄が走る。彼らは次に自分たちの身に何が起こるのか、戦々恐々としていた。


「しかし、理由がどうあれ、俺の両親がこの村で殺され、俺と父が凄惨な村八分の状態にあったことは動かしようのない事実だ。……今更、反論や謝罪は一切聞かない。この村の全員を、封印する」


 全員を封印する――その言葉に、村人たちは恐怖を抱きつつも、「封印って何だ?」と言いたげな、困惑の表情を浮かべた。


「このまま、身体が動かない状態で完全に固定する。今はまだ、顔の表情だけは動くようだが、それすらも奪う。精巧に作られた人形の様に、何一つ、指一本動かせないようにする。……しかし、時を止めてしまっては意味がない。思考だけは、今と変わらず鮮明に出来るようにしておく。……何もない暗闇と静寂の中で、己の犯した罪を後悔し、一生反省してくれ」


「私もぉ!? 嘘でしょ、嫌よ、そんなの嫌!」


「何だと! わ、儂もか!? 村長であるこの儂をそんな目に遭わせるというのか!」


 ユイナと村長が狂ったように声を張り上げ、それを聞いた村人たちも驚愕と絶望の表情に染まっていく。


「勿論だ。ユイナと村長、お前たちも封印する。それだけじゃない、今ここにいない村人たちも、一人残らず封印する。……俺と同じ能力の者が現れるまで、何時までも、永遠に等しい時間を封印されるがいい。それが10年後か、100年後か、あるいは1000年後か。まぁ、その前に寿命で死ぬかも知れないがね」


 ユウマは淡々と、恐ろしい宣告を続けた。


「更に、ユイナと村長。お前たちは生かしておけば、何かの拍子に封印が解除された際、また悪巧みを始めるだろう。……だから、その手足は貰っていく」


「いやあああああああ ──ッ!!」

「止めてくれえええええ ──ッ!!」

 鼓膜を突き刺すような絶叫。


「煩い」


 ユウマがそう呟くと同時に、2人の声がピタリと消えた。声を出す器官すらも封印されたのだ。そして、ユウマの冷徹な意志のままに、ユイナとトメキチの四肢が切断され、彼の亜空間収納へと吸い込まれていった。切り口からは血の一滴すら流れない。その断面すらも、時を止められたかのように封印されていた。


  ◇◇


 ユウマは仕上げとばかりに、ユイナと村長、そして広場に集まった村人たちから一切の表情を奪い去った。恐怖に歪んだ顔、絶望に満ちた目が、そのままカチリと凍りつく。彼らは生きながらにして、完全な石像へと変貌したのだ。


 その後、ユウマは村の中を歩き回り、家に隠れていた者、畑にいた者、老若男女問わず、全ての村人を同じように封印していった。動く者のいなくなった村は、奇妙な静寂に包まれる。建物も、家畜も、風に揺れる草木すらも、ユウマの強大な魔力によって「村全体」が時間の檻へと閉じ込められた。


 すべてを終えたユウマは、未練など微塵もなくその場を後にした。


 村から十分な距離を取った鬱蒼とした森の中、ユウマは野営地を設営した。


「クロド、すまないが……警戒を頼む」

 隣に寄り添う漆黒の眷属にそう声をかけると、ユウマは深い疲労感に襲われた。身体の疲労もさることながら、復讐を遂げたことによる精神的な摩耗が凄まじかった。


 敷物の上に横たわると、一瞬で意識が遠のいていく。ユウマは泥のように、深い眠りへと落ちていった。


 暗い夜の闇の中、クロドは横たわる主のすぐ隣に身体を丸めた。そして、微かな寝息を立てるユウマの顔を、慈しむような、優しい眼差しで静かに見守り続けるのだった。

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