第85話 暴かれる真実、あるいは醜悪な命乞い
俺はこれ以上の騒ぎを収めるため、その場にいる村人たち全員をまとめて『封印』した。
もちろん、元『焔の剣』の回復士ユイナと、その父親である村長のトメキチ、そしてミナトの父親であるミナオも封印の対象だ。だが、こいつらにはまだ聞きたいことがあったため、首から上だけを動かして会話ができるように、部分的に封印を調整してやる。
ちなみに、他の一般の村人たちはブツブツと煩そうだったので、一切の声が出せないように口元まで完璧に封印しておいた。
「か、身体が指一本動かない……っ! ユウマ、あんたアタシに何をしたのよ!? さては、アタシのこの美貌を目当てに、動けないのをいいことにいやらしい事をする気ね!」
拘束されたユイナが、恐怖を隠すように見当違いな怒声を張り上げてくる。
「しねえよ、勘違いするな。お前を抱くくらいなら、そこらのオークの死体を抱いた方がマシだ。――それよりユイナ、ミナトたち『焔の剣』の他のメンバーも、今この国内にいるのか?」
「っ……! 何処に行ったかなんて、アタシが知るわけないでしょ! あいつら、この村での隠居生活はつまらねぇとか、割に合わねぇとか言って、勝手に出ていったわよ!」
「ふーん、まぁお前じゃ頼りにならないか」
俺はユイナから視線を外し、隣で顔を引きつらせている元冒険者の老人に目を向けた。
「ミナオじいさん。お前なら、息子のミナトたちが何処にいるか、本当の居場所を知ってるよな?」
「し、知らねえよ……。あいつらは、親の儂を置いて勝手に出ていったんだ……」
「その顔は、バッチリ知ってる顔だね。ミナトとそっくりで、嘘が下手過ぎだよ。……いいか、俺もあまりこういう無駄な拷問はやりたくないんだ。さっさと吐かないと、本気で痛い目に合わせるよ」
「い、痛い目って何だよぉ……。脅したって、知らんものは知らん!」
悪あがきを続けるミナオを、俺は冷徹な目で見下ろす。
「例えば、お前が自慢していたその大剣が二度と振れないように、腕を空間ごと消す。あるいは、二度と歩けないように、足を空間ごと消す。……どっちがいい?」
「ど、どっちもイヤだぁ!!」
「じゃあ、10数える間に喋りな。――10、9、8、7」
俺は冷酷にカウントダウンを刻み始める。
「お、おい! 冗談だろ!? 本気で言ってるのか!?」
「6、5、4」
「言う! 言う、言うから、待て!」
「3、2」
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 心の準備が――」
「1、0」
言い訳を並べるミナオを無視して、俺は0の瞬間、ミナオの両腕の骨だけをピンポイントで『亜空間収納』へと格納し、同時にその部分の封印を解いた。
「あああああああああ!! う、うでがぁ! 腕の中身がなくなったぁあああ! ひん、言うって言ったじゃねぇかぁ……! ひどぇよぉ、うぅ、ううう……っ!」
支えを失い、皮と肉だけになってぶらりと垂れ下がった両腕を見つめながら、ミナオが鼻水と涙を流して絶叫する。
「10数える間に言わなかったお前が悪い。お前らの『待ってくれ』なんて言葉を、俺の父親が聞いてくれたとでも思うのか? ……次は足だ。10、9――」
「あああ! 言う! 盗賊だ! あいつらは、盗賊になって北の山を拠点にしてるはずだ! そこなら騎士団の目も届かねえからって、そう言ってたんだ! 本当だ、信じてくれぇ!」
「……北の山、盗賊、ね。そうか。じゃあ、後はもうお前に用はないな」
都市で聞いた『黒の群盗』の噂と完全に一致した。ようやくミナトたちの足取りが掴めた。
「おい、おいおい、おいおいおい! そんな、用はないって……俺を殺す気かぁ!? 助けてくれぇ、なぁ、頼むよぉ……! そうだ! お前が絶対に知りてぇはずの、秘密の話を教えるからよぉ!」
俺から漂う明確な殺気に気づいたミナオが、狂ったように叫ぶ。
「秘密の話……?」
「ユウマの、お前のお袋が死んだ、本当の真相さ……!」
「おい! ミナオ、貴様裏切るのか!? ユウマ、ミナオはただの嘘つきだ、そんな出鱈目に騙されるなぁ!」
その言葉が飛び出した瞬間、それまで縮こまっていた村長のトメキチが、顔を真っ赤にして慌てて騒ぎ出した。
「何だ? 一体何の話だ。……おい村長、お前は煩いなぁ」
俺は一度、トメキチの口元だけを再び封印して声を遮断した。
「続けろ、ミナオじいさん」
「ユウマ、お前の母親のユリコが病気で死んだのも、父親のハルキチが昔、狩りの最中に足を怪我したのも……全部、そこの村長のトメキチが仕組んだ事だ!」
「は? ……どういう事だ?」
「ユリコに昔から惚れてた村長が、どうしても自分の愛人にしたいがために、ハルキチが邪魔でちょっかいをかけていたんだ! 本当は、ハルキチを病死に見せかけて毒殺するつもりだった。だが、ハルキチに飲ませるはずだったその毒薬を、手違いでユリコが飲んじまったんだよ!」
「え……? じゃあ、母さんも、村長が殺したのか……!」
「ナニソレ……? お父さん、キモいんだけどぉお!」
横で話を聞いていた娘のユイナが、実の父親に対して完全にドン引きし、ドロドロとした軽蔑の眼差しを向けた。
「それだけじゃねぇ! ハルキチの足の怪我だって、トメキチが罠を仕掛けたんだ。その後、動けなくなったハルキチを村八分にしたのも全部トメキチの差し金だ。村八分にしたハルキチが、足を怪我してどんどん不幸になって、貧困に喘ぐのを、あいつは影で笑って毎日楽しんでたんだよ……!」
じわじわと、俺の中でパズルのピースが嵌まっていく。
怪我をさせられ、村八分にされ、心を病んで、最終的には実の息子を売るしかなくなるまで追い詰められた父親。
そして、最後にはその傷を、元冒険者たちに寄ってたかって甚振られ、苦痛の中で殺された。
母も、父も、全部こいつらの狂った欲望の犠牲になったのだ。
「……なるほどな」
俺は、トメキチの口元の封印を、冷たく解除した。
「村長。……何か、言い残す事はあるか?」
「嘘だあああああ!! ミナオは嘘をついている! ハルキチの足を実際に折ったのは、そのミナオの野郎だぞぉ! そして、その時に使う毒薬を調合したのは死んだアオナだぁ! 儂だけのせいにするな!」
トメキチは、必死の形相で大声を喚き散らす。
「トメキチ! お前が金を出すからって、お前が全て望んだ事だろうがぁ!」
両腕を失ったミナオも、トメキチに負けじと血反吐を吐きながら大声を出す。
身動きの取れない中、あまりにも見苦しい罪のなすり合いを演じる2人の姿を、周囲の一般の村人たちが、声を出すこともできず、ただただ呆れたような、軽蔑の目で冷ややかに見つめていた。
醜い。本当に醜い。
こんな、肥溜めにぶち込むのすら生温いクズどもに、俺の両親は人生を狂わされ、命を奪われたのか。
「――もういいよ。消えろ」
俺は極限まで冷え切った思考のまま、ミナオの脳を亜空間に収納した。
言い争う途中で白目を剥いたミナオは、目と鼻と口から一気に鮮血を流し、そのまま崩れ落ちた。
ドタッ!
たった今、自分の罪をなすりつけ合っていた相棒が、目の前で一切の予兆なく生ける屍へと変わった。その凄惨な死に様を間近で見たトメキチは、顔色が真っ青を通り越して土気色になり、恐怖で歯の根をガタガタと鳴らしながら、滝のような脂汗を全身から流し始めた。
「ひ、ひぃっ……! 助けてくれぇ! 何でもする、何でも言う通りにするから! 金か!? 金なら村の隠し財産を全部やる! 何でも差し出す! そうだ、このユイナもお前にやる、好きにしていい! なぁ、いいだろう!? お願いだ、悪かった、本当に申し訳なかった! だから、命だけは、なぁ、命だけは助けてくれぇええ!!」
「ちょっと、お父さん何言ってるのよぉ!」と絶叫するユイナの声すら遮り、トメキチは早口で捲し立てる様に、地面に頭を何度も叩きつけながら必死の命乞いを始めるのだった。




