表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【改訂版】Sランクパーティーに捨てられたポーターは実は最強の空間魔法使いだった。~虐げられた世界に復讐して『ざまぁ』するんだぁ!~  作者: ボルトコボルト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/96

第73話 冤罪の切っ先あるいは愚者の強襲

 薄暗いホールの中、天井に張り巡らされた見えない糸の上に立つアラクネと、俺達は一触即発の緊迫感の中で対峙していた。アラクネの妖艶な笑みが、不気味な静寂をさらに際立たせる。


 だがその時、俺の足元で低く身を構えていたクロドが、ピクリと耳を動かして低く唸り声を上げた。


 「……なんだか変だワン。このアジトを取り囲んでる騎士の数が、急に増えたワン。さっきの配置完了の時より、明らかに気配が多いワンね」


 「え? 騎士の数が増えた?」


 俺は眉をひそめ、脳内の『亜空間把握』のレーダーをアジトの外へと広げた。確かに、ベーマタ騎士団長が最初に配置した部下たちの生体反応とは別に、明らかに異質な、統率された集団が建物を幾重にも包囲しつつある。それも、ただの増援にしては妙に殺気立っているというか、こちらに対して警戒を怠らないような不穏な気配だ。


 「何があったんだろう? 団長さん、何か別の部隊に声をかけてましたか?」


 「いや、私はそんな指示は出していないが……一体どういうことだ?」


 ベーマタ騎士団長も困惑したように顔をしかめる。そんな俺達の様子を見て、天井のアラクネがクスクスと、胸の悪くなるようなあざ笑う声を漏らした。


 「くくく……予定よりだいぶ遅かったけれど、やっとお出ましになったようね。それじゃあ、私の役目はここまでかしら?」


 アラクネはそう意味不明な言葉を呟くや否や、それまでの好戦的な態度を一変させ、蜘蛛の下半身を器用に躍動させて身を翻した。天井の奥にある隠し通路か窓へと、一気に逃走を図る構えだ。


 「待てぃ! このワタシの前から逃げるなぁあ!」


 アスカが反射的に叫び、凄まじい踏み込みと共に大剣を横一線に思いきり振り払った。


 「ちょっ──アスカ、待て!」


 俺は、「ちょっと待って! 逃げるなら俺が封印するから!」と言おうとしたのだが、脳筋全開で突撃したアスカの行動の方が一瞬早かった。俺の制止の声は、彼女の耳には届かない。


 アラクネは持ち前の超人的な反射速度で上空へと跳躍し、アスカの凶刃を間一髪で躱してみせた。


 ズズッ……。


 大剣が空を斬る。本来なら、刃が物理的に届かないはずの虚空。


 しかし、アスカが全力で放った剣撃の『破壊の余波』は、アラクネの背後にあるアジトの頑丈な建屋の壁を、そのまま深々と斬り裂いてしまった。それだけにとどまらず、建物を支えていた最も太い、命綱とも言える大黒柱が綺麗に切断されてしまったのだ。


 「あ」とアスカが短い声を漏らす。


 切断された大黒柱を中心に、天井とその上にある2階部分が、ミシミシ、バリバリと不快な音を立てて絶望的に軋み始めた。


 ズズッガガガガ……!


 「おいおいおい! 何やってんだあの馬鹿娘は!」


 「危ないワン! ここが崩れるワン! ユウマ、早く俺の背に乗るワン!」


 クロドが叫ぶ。天井から大量の土砂と木屑が降り注ぎ、建物全体が自重に耐えかねて崩落を始めた。


 「くそっ、これだから脳筋は!」


 俺は慌てて、先ほど床に『封印』して動けなくしておいた『蜘蛛の牙』の生き残りの奴らを、思考の速度でまとめて『亜空間収納』の中に吸い込ませた。こいつらをここに放置したら、瓦礫に潰されて確実に死んでしまい、貴重な情報源を失うことになるからだ。


 全員の収納を確認すると同時に、俺はクロドの背中へと勢いよく飛び乗った。


 「走れ、クロド!」


 「任せろワン!」


 ドドーン、ガシャガシャン!!!


 背後で凄まじい轟音が響き、俺達がさっきまでいたホールが完全に崩れ落ちていく。


 「うらあああ! 邪魔よぉ!」


 アスカは落ちてくる巨大な岩や梁を、大剣で野球のノックのように強引に斬り飛ばし、粉砕しながら爆走してくる。その身体能力はもはや恐怖すら覚える。


 「まったく、とんだ災難だ!」


 ベーマタ騎士団長も負けじと、持ち前の槍技で目の前に降ってくる障害物を器用に叩き飛ばし、疾風のような速さで駆け抜けていく。


 俺を乗せたクロドは、抜群の俊敏性で瓦礫を紙一重でかわし、崩壊するアジトの正面入り口から一足早く外へと脱出した。


  ◇◇


 外の新鮮な空気を吸い込み、クロドの背から降りる。アジトだった建物は、完全に土煙を上げて瓦礫の山と化していた。


 「おい、アスカ……お前、いくら何でもやりすぎだ!」


 頭から被った埃をパッパと払いながら、俺の後ろから歩いて出てきたベーマタ騎士団長が、本気で頭を抱えながら怒鳴った。


 「何言ってるのよ団長! 悪党を前にして躊躇しちゃダメなのよ。やる時は思いきってやる、これが一流冒険者の鉄則ね!」


 騎士団長の後ろから、何食わぬ顔でケロリとした様子でアジトから出てきたアスカが、胸を張って言い返した。少しは反省という言葉を知ってほしいものだ。


 納得のいかない騎士団長とアスカの、呆れた会話がそのまま続く。


 「ふん、そんな大雑把な鉄則のせいで、結局アラクネには体よく逃げられてしまったじゃないか。本末転倒だぞ」


 「それは結果論よ、結果論! 奴が逃げそうな気配を察したから、ワタシは先手を打ったの。避けられたのはしょうがないわ。何も手を出さないでただ逃げられるより、一太刀浴びせようとする心意気の方がよっぽどマシでしょ?」


 「心意気の問題ではない! それに、アラクネだけじゃないぞ。ユウマが折角機転を利かせて捕まえてくれた生き残りの奴らも、お前のせいで全員あの瓦礫の下だ。この状況では、生きているかどうかも怪しいぞ。尋問はどうするんだ?」


 騎士団長が冷たい目で瓦礫の山を指差す。さすがにアスカも気まずそうに視線を泳がせ、苦し紛れの言い訳を口にした。


 「う、うう……そんなの、これから突入する予定の『シミツコ商会』の方で、新しく別の奴らを捕まえればいいでしょ……?」


 二人の言い合いが泥沼化しそうだったので、俺はため息をつきながらその会話に割り込むことにした。


 「あの、すいません。言い争ってるところ申し訳ないんですけど、さっき俺が捕まえた生き残りの奴らは、崩落の直前に全員俺の『亜空間収納』の中に避難させてあります。だから怪我一つしてないですし、尋問に関しては何も問題無いですよ」


 「……え?」


 俺の言葉を聞いた瞬間、ベーマタ騎士団長は動きを止め、驚愕に目を見開いた。


 「お、おお! ユウマ、お前の空間収納は生き物まで格納してキープすることが可能なのか!? それは……信じられないほどの神業だな。いや、本当に助かった。ありがとう、ユウマ。これで奴らの全容を暴くことができる」


 騎士団長は地獄で仏に会ったかのような顔で、俺の手をがっしりと握って感謝してきた。


 「それと、ついでに言うなら、逃げたアラクネが現在どっちの方向に逃げているかも、俺の『亜空間把握』の残響探知で今ならはっきりと分かりますよ。このまま追跡可能です」


 「何から何まで至れり尽くせりだな! よし、ならばシミツコ商会の方の制圧は俺とアスカで行うから、ユウマ、お前はアラクネを──」


 「──そこまでだ! アスカァアアアアアア死罪人がッ!」


 騎士団長が次の指示を出そうとしたその瞬間、アジトを厳重に取り囲んでいたはずの騎士たちの包囲網を割って、一人の男が大声を張り上げながら姿を現した。


 現れたのは、ひどく痩身で、こちらをじっとねめつけるような藪睨みの目が特徴的な男だった。身に纏っている甲冑は一般の騎士のものより明らかに豪華だが、男から漂う雰囲気は陰湿そのものだ。


 「ちっ……最悪。見たくもない、胸糞悪い奴が来たわ」


 アスカは男の姿を見るなり、あからさまに嫌悪感を露わにして盛大に舌打ちをし、険しい目でその男を睨みつけた。彼女がここまで露骨に嫌悪感を示す相手というのも珍しい。


 「おいアスカ! 神妙にしろ! お前を捕まえに、この私が直々に来てやったんだぁ! さあ、その不快な大剣を今すぐ床に捨てて、大人しく縄に就け!」


 痩身の男は勝ち誇ったように笑いながら、アスカを指差して傲慢に言い放つ。


 俺は怪訝に思い、隣にいるベーマタ騎士団長に小声で尋ねた。


 「団長さん、あのやたらと偉そうな人、誰ですか? うちの騎士団の人じゃないですよね?」


 「あぁ……。よりによって、一番面倒な奴がこのタイミングで現れたか。あの男はアスカと昔から犬猿の仲でな。王家専属騎士隊の副隊長を務めている、デミツヒという男だ」


 「王家専属騎士隊? ……あの大物ぶってる副隊長、強いんですか?」


 俺の問いに、騎士団長は少し渋い顔をしながら答える。


 「『蛇剣』の二つ名で呼ばれていてね。手元で奇妙にしなる特殊な剣を使う、変則的な剣士だ。性格には大いに難があるが、この国の騎士の中では、まあ……そこそこ強い部類には入るな」


 「そこそこ」か。騎士団長直々の評価がそれなのに、あの自信満々な態度。あの規格外の暴力装置であるアスカを本気で捕まえられると思っているのだろうか? とてもじゃないが、そう簡単にいくとは思えないぞ。


 アスカはふぅ、とわざとらしい溜め息をつくと、大剣を再び肩に担ぎ直し、冷めきった目でデミツヒを見下ろした。


 「で? 王家の犬が、わざわざこんなゴミ溜めみたいなアジトまで何の用かしら? ワタシは今、公務で忙しいのだけど」


 「白々しいぞ、アスカァ! ……現行犯だ! 昨日、この国の『第3王子』を無惨にも殺害した国家反逆の大罪人として、お前を捕まえに来たんだよぉおおおおお!」


 デミツヒが狂ったように目を剥き、衝撃的な罪状を大声で怒鳴り散らした。


 その場の空気が一瞬で凍りつく。第3王子の殺害? アスカが?


 「はぁ? 第3王子? そんなもやしっ子、ワタシは顔も知らないんだけどぉ。何その言いがかり。頭大丈夫?」


 アスカは完全に呆れ顔で、耳に小指を突っ込みながら答える。昨日彼女が何をしていたかは、俺とクロドが一番よく知っている。ずっとダンジョン『亡霊洞窟』に潜って、キラーデュラハーンをぶった斬っていたのだ。王子を殺す暇などどこにもない。完全なる冤罪だ。


 「ククク、そうやって惚けるのも今のうちだけさぁ! 捕縛して、地下の尋問室でたっぷりと自白させてやるからなぁ。お前が現場にいたという、確たる『証拠』もすでにこちらの手元にあるんだよぉ! 言い訳しても無駄だ、もう逃げられんぞぉおおお!」


 デミツヒは下卑た笑みを浮かべ、背後の大勢の騎士たちに手招きをする。どうやら本気でアスカをここでハメて、罪人に仕立て上げるつもりのようだ。


 アスカは冷たい目でその哀れな男を見つめると、心底同情するように言った。


 「……ねえ、あんたバカァ?」


 その一言に、デミツヒは顔を真っ赤に狂わせ、腰の蛇剣を抜き放ちながら激昂した。


 「ククク、バカなのはお前の方だぁ! お前はここで終わりなんだよ!」


 不敵に笑うデミツヒの背後で、包囲する騎士たちがじりじりと距離を詰めてくる。アジト壊滅の直後に現れた新たな、そして最悪の身内の敵。俺達の戦いは、予想だにしない泥沼の展開へと巻き込まれていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
アスカといえばこのセリフですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ