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【改訂版】Sランクパーティーに捨てられたポーターは実は最強の空間魔法使いだった。~虐げられた世界に復讐して『ざまぁ』するんだぁ!~  作者: ボルトコボルト


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第68話 一刀両断の剣姫あるいは身も蓋もない即死収納

 アスカの大剣が、鋭い風切り音と共にスケルトンの下半身を容赦なく破壊する。骨の砕ける不快な音が響くのとほぼ同時に、俺は『亜空間把握』で捉えた骨の胸の内に手を伸ばすイメージを浮かべた。


 カチリ、と脳内で嵌まるような感覚。直後、スケルトンの活動源である魔石が、俺のスキル『亜空間収納』によって直接、異空間へと吸い込まれていく。動力源を失った骨の塊は、ただのゴミとなって地面に崩れ落ちた。


 「よし、次! ほらほら、どんどん来なさいよ!」


 アスカは楽しそうに声を弾ませながら、すでに次の標的へと視線を向けている。


 俺達は今、最短距離でダンジョンの下の階層を目指して突き進んでいた。道中に現れるモンスターは、アスカが足を斬って行動を封じ、俺が魔石を亜空間に直接収納してトドメを刺す。この効率的すぎるトレイン&リスキル戦法のおかげで、足を止める必要すら一瞬たりともない。


 本来なら、ここはもっと警戒して進むべき危険な場所のはずだった。


 事の始まりは、この『亡霊洞窟』に特殊個体のキラーデュラハーンが出現したことだ。あろうことか、元Sランクパーティーだった有名クラン『焔の剣』がその討伐に失敗し、命からがら逃げ帰るという大失態を演じてしまったらしい。その噂が瞬く間に広まった結果、安全マージンを取りたい冒険者たちはこぞってこのダンジョンを敬遠するようになった。


 今や完全に不人気ダンジョンと化した『亡霊洞窟』だが、人が立ち入らないということは、それだけモンスターが間引きされずに繁殖しているということでもある。


 「うへえ、本当にモンスターのバーゲンセールだな。歩く隙間もないくらいだ」


 「いいじゃない! これだけ数がいるなら、大剣をいちいち背中に戻す手間が省けるわ。ほら、こうして肩に担いで走れば、いつでも全力で振り下ろせるでしょ?」


 アスカは凶悪なサイズの大剣を軽々と肩に担ぎ、獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべて並走している。戦闘回数が多すぎてテンションがハイになっているらしい。美少女がそんな物騒な獲物を担いで爆走する姿は、敵から見れば完全に悪夢そのものだろう。


 俺が跨がっているブラックドッグのクロドは、主人の心情を察してか、一切の無駄のない足取りで暗闇を駆け抜けていく。


 階段を見つけ、一気に下の階層へと滑り込む。着地と同時に、俺は頭の中にレーダーを広げるようにして『亜空間把握』の索敵範囲を最大まで広げた。


 「……ここにも、お目当てのデュラハーンはいないな」


 「チッ、ハズレかぁ。じゃあ、さらに急ぐわよ! ノってきたんだから、焦らしプレイはナシにして欲しいわね!」


 アスカは不満げに唇を尖らせつつも、その脚力は衰えるどころかさらに加速していく。


 階を降りる毎にキラーデュラハーンの精神波や魔力反応を確認しながら、俺達はノンストップで『亡霊洞窟』の深部へと進んでいった。


  ◇◇


 次に現れた階層は、鼻を突くような死臭が漂うゾンビゾーンだった。


 普通なら、生ける屍の群れを見ただけで精神的に削られるし、肉の腐敗臭のせいでまともに呼吸すらできない過酷な環境だ。しかし、俺達の突進が緩むことはなかった。


 「そこ、邪魔ぁ!」


 アスカの容赦ない横薙ぎの一閃が、ゾンビたちの膝から下を綺麗に切断する。肉を断つ鈍い音が響くが、彼女の足は止まらない。


 「はい、お疲れ様」


 俺はクロドの背に揺られながら、倒れ込むゾンビたちの胸部にある魔石に意識を集中し、片端から『亜空間収納』で引っこ抜いていく。パン、パン、と弾けるような感覚と共に魔石が消失し、ゾンビたちは本当の死体へと戻って転がっていく。


 クロドもまた、障害物と化した死体を器用にステップでかわし、スピードを一切落とさずに駆け抜ける。その後に続いた上位種のグールたちも同様だった。腐敗した強靭な肉体を持っていようが、アスカの規格外の怪力で足を奪われ、俺のチート収納で心臓部を抜かれれば、ただの動く肉塊でしかない。完全に蹂躙だった。


 そして──ついにその時が来た。


 とある深層の階に降り立った瞬間、俺の『亜空間把握』のレーダーに、これまでの雑魚とは明らかに一線を画す、濃密で禍々しい魔力の塊が引っかかった。


 「……見つけた。この階に、例のキラーデュラハーンが居るぞ」


 「感知したワン! あっちの奥だワン!」


 クロドが鼻を鳴らし、特定の方向を鋭く見据える。


 「いよいよ本命のお出ましね! 『焔の剣』をボコボコにしたっていう生意気な首なし騎士、ワタシが直々にぶった斬ってあげるわ! いくわよ!」


 アスカの目が爛々と輝く。彼女の戦闘狂スイッチが完全にオンになったのを見て、俺は少しだけ同情の視線をまだ見ぬボスへと向けた。


 俺達はクロドを先頭に、一直線にターゲットのいる広場へと駆けていく。


 「いたワン」


 クロドが急ブレーキをかけ、低い姿勢で身構えた。その視線の先から、不気味な金属音が響いてくる。


 カシャン、カシャン、カシャン、カシャン……。


 薄暗い通路の奥から、そいつはゆっくりと姿を現した。


 漆黒の、光を一切反射しないような悍ましいフルプレートアーマー。右手に握られているのは、禍々しいトゲがいくつも生えた巨大なモーニングスター。左手には、おぞましい紋章が刻まれた大盾。そして何より特徴的なのは、その甲冑の首から上が完全に存在しないことだ。


 首の断面からは、濃縮された、肌を刺すような黒い魔力が陽炎のように揺らめいて立ち上っている。


 「ひゃっはー! 待たせたわねえええ!」


 アスカは対峙するや否や、挨拶代わりに地面を爆破するかのような勢いで踏み込み、一直線に突撃した。


 キラーデュラハーンは、迫り来るアスカの姿を視覚ではなく魔力感知で捉えたのだろう。即座に右腕を振り上げ、凶悪な質量のモーニングスターを叩き付けるべく、鎖を唸らせて振り下ろした。直撃すれば、人間など一瞬で肉片に変わるであろう破壊の一撃。


 だが、アスカは避けるどころか、真っ向から大剣を振り上げた。


 「そんな鉄クズ、ワタシの邪魔よ!」


 シャキン!


 鋭利極まる金属音が洞窟内に響き渡る。アスカの大剣は、振り下ろされたモーニングスターの本体ではなく、それを繋ぐ極太の魔力鉄の『鎖』をピンポイントで両断したのだ。


 ドゴン!!


 勢いを失い、斬り飛ばされたモーニングスターの鉄球が、ダンジョンの頑丈な壁に激突して大きなクレーターを作り出す。


 武器を無力化されたキラーデュラハーンが、僅かに硬直したように見えた。アスカはその隙を逃さず、さらに一歩深く踏み込む。


 「そこ、空いてるわよ!」


 文字通り地を這うような低い姿勢から、キラーデュラハーンの胴体めがけて大剣を真横へと激しく払う。


 さすがは特殊個体というべきか、キラーデュラハーンは驚異的な反応速度で左手の大盾を掲げ、アスカの凶刃を受け流そうと角度をつけた。普通の武器、普通の戦士なら、その超絶的な盾技によって攻撃をいなされ、致命的な隙を晒していただろう。


 しかし、アスカの口元が、邪悪なほどにニヤリと歪んだ。


 ズシャッ!!


 嫌な手応えの音が響く。流石のキラーデュラハーンの盾も、アスカの規格外の筋力と、一切の妥協なく研ぎ澄まされた大剣の威力を受け流しきることはできなかった。


 大盾が紙切れのように真っ二つに裂け、その勢いのまま、漆黒のフルプレートアーマーごと、キラーデュラハーンの身体が上下綺麗に切断される。


 「ほらね! 普通は斬れるのよぉ! ワタシに斬れないモノなんて、この世に存在しないのよ!!」


 アスカは大剣を肩に担ぎ直し、豊満な胸をこれでもかと張ってドヤ顔を決めた。


 いやいや、普通は斬れないからな? その大盾、見るからにマジックアイテムだし、フルプレートも並の硬さじゃないぞ。それを豆腐みたいに一刀両断しておいて「普通」を語らないでほしい。


 そんなツッコミを心の中で入れつつ、俺は『亜空間把握』で敵の様子を注視していた。


 「……アスカ、まだキラーデュラハーンは死んで無いんだよね」


 「え?」


 アスカが視線を落とす。両断されて地面に倒れたキラーデュラハーンの身体から、どす黒い魔力が溢れ出していた。上半身と下半身の断面から伸びた魔力の糸が、ズルズルと互いを引き寄せ合い、驚異的な速度で再接続されようとしている。


 「嘘、あれで生きてるの!? ゾンビじゃあるまいし、しぶといわね!」


 「はぁ、しょうが無いなぁ。これ以上時間をかけるのも面倒だし」


 再生を待ってやる義理はない。俺はキラーデュラハーンの体内に未だ健在だった、禍々しい紫色に輝く巨大な魔石に意識をフォーカスした。


 ──『亜空間収納』。


 次の瞬間、再生しかけていたキラーデュラハーンの胸の奥から、直接魔石だけが消失した。


 カチャリ、と音を立てて、接続されかかっていた漆黒の甲冑が完全に動きを止める。断面から立ち上っていた不気味な魔力も霧散し、ただの空っぽの重厚な鎧へと姿を変えて転がった。


 脳内に、パパパパーンと小気味いいファンファーレと共に、レベルアップを告げるシステムメッセージが流れる。


 お! これは美味い。かなりの経験値ゲットだぜ!


 「あれ? 倒しちゃったの?」


 アスカは完全に沈黙したキラーデュラハーンの残骸を見て、不思議そうに俺に尋ねてきた。


 お、意外だ。流石に腐っても元Sランク(一応現役だが)、俺が手を下す前から、あの攻撃でも死んでいなかったこと自体には気づいていたわけか。単に再生能力の高さに驚いていただけらしい。


 「ああ、コアである魔石を直接貰っちゃったよ。これでもう完全に沈黙だ」


 「えー! それは駄目よ、だってそれ、ギルドに提出する討伐の証拠だしぃ!」


 アスカが頬を膨らませて抗議してくる。確かに、特殊個体の討伐証明には魔石や固有の部位が必要になることが多い。


 「あら、そうかぁ。じゃあ、このキラーデュラハーンのカッコいい鎧は要らないの?」


 俺が転がっている漆黒のフルプレートを指差すと、アスカはあからさまに嫌そうな顔をした。


 「うわ、そんな呪われてそうな首なし甲冑、死んでも要らないわよ。重そうだし、趣味が悪いわ。私は魔石さえあればそれでいいわよ」


 「んじゃ、利害は一致だな。鎧は俺が貰うよ。素材として売るか、何かに使えるかもしれないし」



 俺はキラーデュラハーンの鎧一式を『亜空間収納』に放り込み、代わりに収納内から先ほど回収したばかりの巨大な紫色の魔石を取り出して、アスカに手渡した。


 アスカはズッシリと重い魔石を受け取ると、まじまじと見つめた後、満足そうに微笑んで俺を見た。


 「ありがと。……ねえ、ついでにさ、このままこのダンジョン、最下層まで攻略しちゃわない? 今の私達なら、あっという間にボスまで行けそうじゃない?」


 上機嫌になった彼女は、さらなる戦闘を求めて目を輝かせる。だが、俺の答えは最初から決まっていた。


 「いや、帰ります。これ以上付き合ってたら命がいくつあっても足りない。攻略するなら、どうぞお独りで心ゆくまでお楽しみください」


 これ以上の労働は御免だ。そう言い残して、俺は手早くクロドの背中に跨がった。


 「ちょっと、待ちなさいよ! 冗談よ、冗談! 置いていかないで、帰るわよ、帰りますってば!」


 アスカは慌てて大剣を肩に担ぎ直し、俺の乗るクロドの後を追うようにして走り出した。



 目的の獲物も狩れたし、お宝も手に入った。俺達は賑やかな声を洞窟内に響かせながら、一目散にダンジョンの出口へと向かって駆け抜けていった。

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