第67話 爆速の剣姫、あるいは効率的な魔石拾い
「……ユウマくん、実はアスカの奴、ドワーフの血を引いておってな。そのせいでこれ以上はどうしても身長が伸びんらしいのだ。だから昔から背のことを言われるのが大嫌いでな、見た目で子供扱いされると瞬時に怒り出すのだよ」
腕を掴まれたまま硬直している俺の耳元で、ベーマタさんがそっと気の毒そうにそんな裏事情を教えてくれた。
ああ、そういうことね。種族的な悩みだったのか……それは悪かったなとちょっと反省。
結局、レディ(19歳)の凄まじい剣幕と、ギルド長からの「頼む、案内してやってくれ」という視線の圧力に押し切られ、俺とクロドはキラーデュラハーンが潜むダンジョン『亡霊洞窟』への道案内を引き受けることになってしまった。
まあ、その代わりとして、案内報酬はがっちりと上乗せして貰うことにしたけどね。
「移動中の戦闘はすべてワタシが1人で片付けるから、あんたたちは後ろで見てるだけで良いからね!」
アスカはそう豪語していた。別に俺たちが戦闘に加わっても負ける気はさらさらないのだが、本人がそう言うなら大人しくお言葉に甘えておくとしよう。
「ほら、早く行くよー!」
「はいはい……」
こいつ本当に元気だなぁ、と内心で呆れながら、俺はアスカの後ろに付いていく。
というか、俺にわざわざ案内を頼んできた割には、こいつ自分から率先して門の外へ向かって歩いているけれど、ダンジョンの正確な場所は知っているのだろうか? ……まあ、大まかな位置くらいは頭に入っているのだろう。
「さっさとキラーなんとかって奴を終わらせて、今日中に街に帰るんだからぁ!」
アスカはそう叫ぶなり、地面を蹴って文字通り爆走し始めた。
速い! 流石はSランク、人間の足では全く追いつけないレベルの超スピードだ。
このまま走って追いかけるのは早々に不可能だと判断し、俺は早々に巨体化させたクロドの背中に乗せてもらうことにした。
「ちょっと! 早く早く! ……って、えええええ!? ずるいぃ! 何でクロちゃんに乗ってるのよ!」
並走するクロドの背の上から俺が怪訝な顔を向けると、アスカが走りながらキーキーと抗議の声を上げてきた。
「クロドは俺の従魔で、大切な相棒だからね。乗せてもらうことのどこが狡いのかさっぱり分からないんだけど」
「うぅ……っ。じゃ、じゃあ今度ワタシも乗せてよ!」
走りながら、あからさまな上目遣いで、おねだりするように懇願してくるアスカ。
「……どうする、クロド?」
背中の毛並みを撫でつつ相棒の意思を確認すると、
「断るワン。主以外は背には乗せないワン」
即答だった。流石はプライド高き伝説の聖獣の系譜である。
「だってさ」
俺が肩をすくめてアスカの顔を見ると、彼女はさらに頬を膨らませた。
「ええええええ! 良いじゃない、ちょっとくらい! 乗せて乗せて乗せてぇー!」
走りながら駄々をこねるという器用な真似をするアスカ。
「クロド本人が駄目って言っている以上、俺が強制するわけにはいかないからな。諦めてくれ」
「うー、ケチぃ! ユウマのケチ!」
プンスカと怒りながら、アスカはさらに加速して走り去っていく。
◇◇
そんなこんなで、俺たちはあっという間に目的地のダンジョン『亡霊洞窟』へと到着した。
ひんやりとした薄暗い洞窟の内部へ一歩足を踏み入れた瞬間、俺はすぐに空間把握の能力を展開した。広大な洞窟の構造が一瞬で脳内にマッピングされていく。
「――当然だけど、この浅い階層にはまだデュラハーンの気配はいないね」
「ふぅん。だったらザコモンスターは気にしないで、ボスがいる場所まで最短距離で案内してね!」
「分かった。じゃあ、俺が先導するから遅れずに着いてきて」
「ワン!」
クロドが俺を背に乗せ、洞窟の奥へと走り出した。
アスカの足に配慮して、クロドが少しゆっくりめのペースで走っていると、アスカは息を乱すこともなく、すたすたとクロドの真横に並んできた。
「もっとスピード出しても良いよ! ワタシ、こんなジメジメした場所で野営する気なんてサラサラ無いんだからね!」
ゆっくり走っていると言っても、普通の大人が全力疾走する速度を遥かに超えているのだが……流石はSランク、この少女のスタミナと脚力はやはり底が知れない。
「はいはい、分かったよ。クロド、スピードを上げて良いってさ」
「了解だワン。それじゃあ通常速度に戻すワン」
クロドがグンッと四肢に力を込め、いつもの爆速モードへとシフトした。洞窟の壁がまたたく間に後ろへと流れ去っていく。しかし、アスカはその速度にも全く遅れることなく、余裕の表情でピタリと横を並走し続けていた。
「――前方にスケルトン3体、感知したワン」
クロドが前方の暗闇を睨みつけながら警告を発した。その瞬間、アスカの身体がバネのようにしなやかに前方へと飛び出した。
「任せて!」
いつの間にか背中からあの巨大な大剣を抜き去っていたアスカは、すれ違いざまに横一文字へと鋭く一閃を放った。
スパァン!!!
何の手応えもなかったかのように大剣が空間を切り裂き、直後、前方から現れた3体のスケルトンたちの太腿から下の骨が、綺麗に切断されてガラガラと地面に崩れ落ちた。
「……あれ? 止めは刺さないの?」
上半身だけでなおも地面を這い、カタカタと顎を鳴らして蠢いている不完全なスケルトンたちを見下ろし、俺はアスカに尋ねた。
「急ぐんだから、そんなの無視してそのまま進むに決まってるでしょ!」
「いやいや、このまま放置したら、ダンジョンの魔力で骨が再結合してすぐに復活しちゃうぞ?」
「復活しても、また切り刻めば良いじゃない! 時間がもったいないわよ!」
「……じゃあ、魔石は取らないの?」
「そんな小粒の魔石なんていちいち拾ってられるかぁ! ほら、ぐずぐずしないで早く行こうよ!」
高級なエリクサーをポンと出すようなSランク様にとっては、下層のスケルトンの魔石などゴミ屑同然らしい。だが、貧乏性のCランク冒険者である俺にとっては、立派な資源であり小遣い稼ぎの種だ。
「ふ~ん、いらないなら、その魔石は俺が全部貰っちゃうね」
俺はそう告げると同時に、空間把握でスケルトンたちの体内に眠る魔石の位置を正確に捕捉し、そのまま『空間収納』の能力を発動させた。
「はぁ!? だから、そんなところでぐずぐず立ち止まらないでよ!」
「え? いや、立ち止まってないよ。もう魔石なら全部回収し終わったけど?」
「えええええええーーーっっっ!?!? 嘘でしょ、速過ぎよぉっっ!!」
アスカが驚愕して足を止め、慌てて背後のスケルトンたちを振り返る。
そこには、核である魔石を一瞬にして内部から直接抜き取られ、魔力の供給を完全に絶たれたことで、ただの干からびた古い骨へと還り、サラサラと塵のように完全に崩れ落ちていくスケルトンたちの無惨な死骸だけが転がっていた。
当然、俺は一歩も動いていないし、クロドの足を止めさせてもいない。
「一体……今、何をしたのよ……」
アスカはまたしても自分の理解の範疇を超えた俺の謎の能力を目の当たりにし、目を丸くして戦慄していた。俺はそんな彼女を置いてけぼりにする勢いで、さらにクロドを加速させた。
「ほら、置いてっちゃうよー。今日中に帰りたいんでしょ?」
「あ、待ちなさいよユウマぁぁぁ!」
今度は立場が逆転し、アスカが慌てて俺たちの後ろを追いかけてくる番だった。




