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【改訂版】Sランクパーティーに捨てられたポーターは実は最強の空間魔法使いだった。~虐げられた世界に復讐して『ざまぁ』するんだぁ!~  作者: ボルトコボルト


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第58話 英雄の影、あるいは師匠の教え

 俺は冒険者ギルドの重い扉を押し開けて外へ出ると、そのまま建物の裏手へと回り、いつもお世話になっている解体所に顔を出した。建物の中からは、手際よく肉を捌く小気味よい音が響いている。


「おやっさ~ん!」


 作業場の入り口から声をかけると、奥のほうから「おう、誰かと思えばユウマか」と、タオルの端でごしごしと手を拭きながらおやっさんが現れた。


「お早う、ユウマ。朝からどうしたんだ? また珍しい魔物の肉でも持ち込みか?」


「いえ、今日はそういうわけじゃなくて……。実は、近々この都市を出ることになるなと思いまして。今まで色々とよくしてもらったおやっさんに、まずは挨拶をしておこうと思って来たんです」


 俺の言葉に、おやっさんはピタリと動きを止め、驚いたように目を見開いた。


「おいおい、随分と急な話じゃないか。……一体何があった? 俺で良ければ力になるし、相談にも乗る。良ければ少し、詳しい事情を話してくれないか?」


「は、はぁ。じゃあ、お言葉に甘えて……」


 おやっさんに促されるまま、解体所の一角に置かれた年季の入った椅子に腰を下ろす。おやっさんも俺の向かい側に座り、すぐに温かいお茶を淹れて差し出してくれた。


 湯気のあがる木製の湯呑みを手に取り、一口すすって一息つく。俺は昨日の夜に起きた『蜘蛛の牙』とサキヨマ騎士団長のいざこざから、ついさっきギルド長の執務室で繰り広げられた胸糞の悪いやり取りまでを、包み隠さずおやっさんに打ち明けた。


 静かに俺の話に耳を傾けていたおやっさんは、全てを語り終えた俺を見て、深く、大きな溜息を吐き出した。


「成る程な……事情はよお調べに分かった。ユウマ、お前がそこまで腹を立てる気持ちはもっともだ。……だがな、ユウマの気持ちも分かる一方で、俺にはギルド長のソウマの言い分も分かってしまうんだよ。実はな、俺とソウマは、現役時代に同じパーティーを組んで前線を張ってた仲でね」


「へぇ~! ギルド長とおやっさんって、元仲間だったんですか?」


「ああ、腐れ縁さ。だからアイツの性格はよく知ってる。ソウマは決して、根っからの悪い奴じゃないんだ。だから、出来れば大目に見て許してやって欲しい。アイツはお前の実力を誰よりも高く評価している。だからこそ、都市を未曾有の危機から守るために、一番確実で、一番効率の良い解決方法として……他ならぬお前に、キラーデュラハーンの討伐をお願いしたんだろうね」


「まあ、街を守るためっていう大義名分は、分からないでも無いですけど……」

 俺が少し口を尖らせると、おやっさんは宥めるように苦笑した。


「決してユウマを蔑ろにしようとか、悪気があった訳じゃないと思うんだ。騎士団から裏金を受け取るような汚い奴でもない。精々、サキヨマの奴あたりに『今回のキラーデュラハーン、あの噂のダンジョン攻略者に任せたら一発で解決するんじゃないですか?』とでも、上手いこと思考誘導された程度だろうよ」


「ふ~ん……」


 おやっさんの言う通り、あのギルド長がただの脳筋で、騎士団の狐たちに騙されただけという可能性は高い。だが、それでも利用されたことには変わりないわけで、釈然としないものは残る。


「俺たちがまだ若くて現役だった頃は、世間で英雄と呼ばれていたSランク冒険者のヒナタさんに、みんなで本気で憧れててなぁ。ちなみに、ヒナタさんはそれはそれは美しい女性だったらしいよ」


「へぇ、そうだったんですか。ヒナタさんって女性だったんですね」


 歴史に名を残す大英雄の意外な事実に、俺が感心していると、足元で丸くなっていた相棒が急にむくりと頭を上げた。


「おお! そうだワン。ヒナタは凄く綺麗だったし、めちゃくちゃモテてたワン!」


 クロドが自慢げに胸を張る。その様子を見て、おやっさんは目を細めて優しく笑った。


「な? かつての英雄ヒナタの眷族だったクロドを連れているユウマの姿が、きっとソウマの目には、あの頃憧れた大英雄ヒナタの面影と重なったのだろうね。だからアイツは、都市の危機に颯爽と現れて、すべてを解決してくれる『理想の英雄像』を、無意識にお前に期待しちまったんだよ」


 おやっさんにそう諭されると、なんだか自分がひどく身勝手で、心の狭い人間に思えてきてしまうから不思議だ。


「……なんか、そう言われると、俺がめちゃくちゃ心の狭い男の様じゃないですか。やっぱり、断らないで受けてあげた方が良かったのかなぁ」


「いやいや、そんなことはないさ。ユウマの選択は全面的に正しいと俺は思うよ」

 おやっさんはきっぱりと言い切った。


「目の前の背景や裏の繋がりを考えないで、頼まれるがままに何でもホイホイ救っていれば、いずれ必ず悪い奴らに都合よく利用されることになる。今回のケースがまさにそれだ。それに、リュウセイに裏の調査を頼んだのも大正解だ。奴なら、どんなに汚い泥水の中からでも、きっちりと真実を引っ張り出してやり遂げるだろうよ」


「おやっさんは、リュウセイさんとも仲が良いんですか?」


「ああ、俺の現役時代の職業は『探索者シーカー』でな。リュウセイは俺の直弟子なんだよ。元々、あいつをソウマに紹介してギルドで引き合わせ立てたのも俺さ」


「ええ! そうだったんですね!」


 まさか、ギルドの実力者であるリュウセイさんが、おやっさんの弟子だったとは。この解体所のおやっさん、一体どれだけ広い人脈と過去を持っているんだ。


「うん。そういうわけだから、俺の方でも昔のツテを使って、騎士団とシミツコ商会、それから『蜘蛛の牙』の残党について、少し情報を集めておいてやるよ」


「えっ、いやいや! そこまでしてもらうのは流石に申し訳ないですし、お断りしますよ。リュウセイさんにもお金を払って頼んでありますから」


 慌てて手を振る俺に、おやっさんは「ははは!」と豪快に笑い飛ばした。


「気にするな。俺もユウマには、あの極上の美味い肉を分けてもらった借りがあるからね。情報料としての報酬は一切要らんよ。昔取ったなんとやらで、ちょっと動くだけさ」


「はぁ……。有難う御座います。でも、本当に無理だけはしないでくださいね」


 おやっさんの心強い言葉に感謝しつつも、俺は、この街の裏で蠢く様々な思惑の糸が、少しずつ絡み合ってきているのを感じていた。騎士団長サキヨマ、そしてシミツコ商会。俺を怒らせた代償は、きっちりと払ってもらうことにしよう。

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