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【改訂版】Sランクパーティーに捨てられたポーターは実は最強の空間魔法使いだった。~虐げられた世界に復讐して『ざまぁ』するんだぁ!~  作者: ボルトコボルト


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第47話 影に潜む疑惑と、転落への足音

 その夜、冒険者ギルドの広大な食堂は、地響きのような喧騒に包まれていた。


 天井の魔導ランプが照らし出すのは、ギルド主催の「祝『魔獣の窟』攻略の宴」の看板。そして、並べられた大皿料理を囲んで大騒ぎする荒くれ者たちの姿だ。


「ユウマくん、本当におめでとう! まさかあの最深部を攻略しちゃうなんてさ!」


「ちょっと見てよ、隣のクロちゃんかわいー! モフモフさせてもらっていい?」


「おい、この肉美味すぎるぞ! タダ酒に美味い肉とか、ギルド長も太っ腹じゃねえか!」


「肉有難う、サイコー! おい、もっと酒持ってこい!」


 飛び交う祝福と怒号のような歓声のただ中で、ユウマは主役用の豪華な席に、所在なげにチョコンと座っていた。


 完全に周囲の熱気に圧倒されている。そんなユウマのすぐ隣、床の上にはブラックドッグのクロドが鎮座していた。人間用の大きなどんぶりに並々と強い酒を注がれ、それをべちゃべちゃと満足そうに舐め回している。


 その規格外の愛くるしさに、周囲の女性冒険者たちが放っておくはずもなかった。


「きゃあ、見てこの耳! たまんない!」

「毛並みも最高なんだけど! ねえ、もっと撫でさせて?」


 黄色い悲鳴を上げながら、女性陣が次々とクロドの体を撫で回し、モフモフの海へと沈めていく。


「……なんだか、ものすごく落ち着かないんだけど。こんな目立つ席、やっぱりイヤだなぁ」


 ユウマは引きつった笑みを浮かべたまま、隣席で上機嫌にグラスを傾けるギルド長へ、蚊の鳴くような声で囁いた。


 目立たず静かに生きたい彼にとって、この全方位から浴びせられる羨望と好奇の視線は、もはや針のむしろでしかない。


「がっはっは! 何を言っとるんだ、お前は!」

 ギルド長は豪快に笑い飛ばし、ユウマの背中をバシバシと叩いた。


「未踏破のダンジョンを攻略した者と言えば、この街だけでなく国にとっても英雄だ。今後この様な機会も増える一方だろう。今のうちにしっかり慣れておきなさい」


 それは紛れもない正論だったが、ユウマの憂鬱を晴らすものではなかった。


 (そんなこと言われてもなぁ……)


 ユウマには苦い前科があった。この前、雰囲気に流されて酒を飲みすぎ、前後不覚になって大失敗をやらかしたばかりなのだ。


 案の定、ユウマの機嫌を取ろうと、次々に新しい酒樽や杯を手に持った冒険者たちが押し寄せてくる。

「ユウマさん、俺の酒も受けてください!」


「あ、いや、本当にごめんなさい! ちょっと、その……トイレに行ってきます!」

 これ以上は危険だと本能が告げていた。ユウマは差し出される杯を必死に断り、言い訳を口にしながら、這う這うの体で主役席を抜け出した。


   ◇◇


 喧騒の冷めやらぬ食堂の隅。ユウマはできるだけ気配を消し、壁際をコソコソと進んでいた。冷たい夜風の入る通路へ逃げ込もうとしたその時、足元から妙に低い声が響く。


「どこに行くワン」


 見上げると、いつの間にか後ろからクロドが付いて来ていた。


「うわっ、びっくりした……クロドか。いやぁ、あんな席に座って注目されながら、落ち着いて飲み食いしたく無いからね。ちょっと頭を冷やしたくて。……それよりクロド、あの女性冒険者たちの猛烈なモフモフ攻撃を、よくあっさり躱して来られたね?」


 あれだけの包囲網から無傷で抜け出すなど、並の執念では不可能なはずだった。ユウマの純粋な疑問に、クロドは犬特有のニヤリとした表情(に見える顔)を浮かべる。


「ははは、主よ、儂を侮るなよ。儂は闇魔法を使うので、その気になれば周囲の影に溶けて消える事が出来るのだワン」


 言うが早いか、クロドの漆黒の身体が、すうっと足元の不気味な影へと沈み込み、完全に姿を消した。


「何それ!? ……初耳だぞ。まあ、便利なら良いか。じゃあ、消えたまま目立たないように付いて来て」


「了解だワン。お安い御用だ」


 誰もいない床の影から、くぐもったクロドの声だけが返ってくる。どこか奇妙な主従の隠密行動。だが、その静けさが、思わぬ不穏な会話をユウマの耳へと運んできた。


 薄暗い端の席。数人の男物の冒険者が、酒の勢いも手伝ってか、深刻な顔で額を突き合わせて密談していた。


「……おい、なんか色々な大事件がありすぎて、ギルドに報告するのをすっかり忘れていたんだがよ」

 一人の男が、声を潜めながら切り出す。


「例の『焔の剣』の連中、あいつらが最近見せびらかしてた武器とか荷物さ……。あれ、行方不明になってる『水竜の爪』の連中が使ってた物と、めちゃくちゃ似てるんだよなぁ」


「あ……? 言われてみれば、確かに。そう言えば『水竜の爪』は、予定の期日を過ぎても一向に戻って来ないな」


「だろ? 『水竜の爪』って言えば、この界隈じゃ一番堅実さが売りのパーティーじゃないか。魔獣の窟の異変があったとはいえ、何一つ連絡もなしに戻らないなんて、絶対に何かがおかしいよな」


 そこへ、別の男が周囲を警戒しながら、さらに1人加わる。その顔は青ざめていた。


「おいおいお前ら、今の話本当か? ……実は、笑えない話がもう一つあるんだ。『太陽の獅子』も、予定を過ぎても戻って来ないんだよ。そしてな、昨日俺が見ちまったんだ。『焔の剣』のヒマリが背負ってたあの豪奢な弓……。あれ、『太陽の獅子』のユメが命の次に大事にしてた弓に、細部の装飾までそっくりだったんだ」


「な、え……! もしかして……」

 場に凍りつくような沈黙が流れる。男たちの脳裏に、最悪の推測が浮かび上がっていた。


「もしかしたら……いや、間違いない。あいつら、自分たちの実力じゃねえ。他人の獲物を……」


「おい、これ俺たちだけで抱えとく話じゃねえぞ。ギルド長に相談しよっか」


「だけどよ、ギルド長と直接話が出来る機会なんて、俺たちみたいな格下には滅多に無いからなぁ。いつも書類の提出だけだし」


「それに、あの人、怒るとめちゃくちゃ怖いだろ? 正直、緊張するんだよなぁ……」


「うんうん、わかる。腰が引けるよな」


「……いや、待てよ。まぁ、今日はギルド長も酒も飲んでるし、攻略祝いの宴席だ。今なら機嫌も良いだろうし、絶好のチャンスかもよ。よし、行ってみよう!」


 覚悟を決めた男たち3人は、重い腰を上げ、主役席にいるギルド長の元へと歩いて行った。


 壁の影に隠れていたユウマは、その会話を息を潜めて聞いていた。背中に冷たい汗が伝う。


「クロド……今の話って、つまり『焔の剣』が、自分たちの利益のために『水竜の爪』と『太陽の獅子』を不意打ちで襲って、その武器と荷物を奪い取ったって事だよね……?」


 影の中から、クロドの低く冷徹な声が響いた。

「……客観的に聞けば、そう取れる話だワン。人間の欲の深さは底が知れんからな」


「そこまで、するかなぁ……? だって、ただ奪ったんじゃなくて……戻ってこないってことは、証拠隠滅のために、殺して奪ったって事だよな……」


 ユウマは激しい嫌悪感と戦慄を覚えていた。同じ冒険者として、かつて名前を並べた者たちが、そこまで落ちぶれていたのだとしたら――。


   ◇◇


 その頃。


 ユウマたちの懸念通り、すでに『焔の剣』のメンバーたちは、ギルドの目を盗んで最低限の荷物を纏め、薄暗い夜の帳に紛れて都市の城門を脱出していた。


 事実上の国外追放処分。輝かしい未来は消え去り、あるのは手に入れた不当な富と、追われる身という現実だけ。


「ちょっとミナト、これからどうするのよ!?」


 背中に、奪い取った「ユメの弓」を背負ったヒマリが、苛立ちと焦燥を隠せない様子でリーダーのミナトに食ってかかった。


「このままあてもなく彷徨うつもり? 私たちはもう、まともな街には入れないのよ!」


「うるせえな、決まってんだろ……」


 ミナトは立ち止まり、振り返った。その顔には、かつてのプライドの高い若きエリートの面影はなく、狂気と開き直りの混じった歪な笑みが浮かんでいた。


「な、何よ……その目は」

 ヒマリが思わず一歩身を引く。ミナトはギラついた目をさらに細め、低く狂った声を絞り出した。


「――盗賊だぁ!」


「え……っ!?」

 あまりの言葉に、ヒマリは絶句した。誇り高き冒険者だったはずの自分たちが、最も蔑んでいた存在になり下がる。その事実が受け入れられなかった。


「おいおいヒマリ、今更抜けるのは無しだぜ? お前だってあの弓を気に入ってただろ。俺たちはもう、引き返せないところまで来ちまってるんだよ」


 ミナトの言葉に、同行していた他のメンバーも冷酷な視線を送る。


「……私は抜けるわよ。こんな泥舟、まっぴらだわ。私は実家に帰る」

 それまで黙っていた回復士のユイナが、冷めた声で告げた。彼女だけは荷物を最小限に抑え、すでに別の計算を働かせているようだった。


 だが、ミナトがそれを許すはずもない。

「おいおい、それを許すとでも思ってるのか? 裏切り者はどうなるか、知らねえわけじゃねえよな……」


 ミナトの手が、カチャリと腰の剣の柄にかけられる。明確な殺気がユイナに向けられた。しかし、ユイナは怯えるどころか、鼻で笑った。


「馬鹿ねぇ。少しは頭を使いなさいよ。国外追放された私たちが、いざと言うときに身を隠せる隠れ家は絶対に必要でしょう? 私の父はこの先にある村の村長よ。あそこなら、屋敷に身を隠す事ぐらい簡単に手配できるわよ。だから、私を護衛して一旦その村に戻りなさいって言ってるの」


 ユイナの、あまりにも冷徹で合理的な提案に、ミナトは動きを止めた。剣にかかっていた手の力が、徐々に抜けていく。


「む……。おいおい、それもそうだな。一理ある」


「そうそう! 今の状態で闇雲に動くより、一度その村に戻って体制を立て直しましょうよ」


 魔法使いのアオイも、ユイナの言葉にすかさず賛同した。全会一致というわけではないが、当面の目的地が決まったことで、ミナトたちは再び歩みを進め、ユイナの実家があるという村へと向かった。


 どんよりとした空気の中、一人、列の最後尾を歩くヒマリだけが、釈然としない表情でポツリと呟いた。


「……国外追放の身なのに、そんな近くの村に行って、本当に大丈夫なのかなぁ……」


 その呟きは、夜風にかき消され、誰の耳にも届かなかった。彼らの向かう先が、さらなる破滅の入り口であるとも知らずに。

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