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【改訂版】Sランクパーティーに捨てられたポーターは実は最強の空間魔法使いだった。~虐げられた世界に復讐して『ざまぁ』するんだぁ!~  作者: ボルトコボルト


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第38話 冷徹なる一線と、カノンの教え 〜狂気のAランク、最悪の脅迫〜

 シュッ、と鋭い風切り音を立てて、弓使いの男が放った矢が俺めがけて一直線に飛んできた。


 だが、俺の周囲には全方位に『亜空間バリア』が展開されている。


 カコッ!


 矢は何もない空間に衝突し、虚しく床へと弾き落とされた。


 その直後、元『烈風の戦士』のアユムが狂乱しながら剣を振り下ろしてくるが、それもまた透明な障壁に行く手を阻まれる。


 ガコッ!


「くっ……! てめぇ! やっぱり何なんだその奇妙な壁は……強ええのかよっ!?」


 怯むアユムを見据えながら、俺は冷淡に思う。――あぁ、もういちいち相手をするのが面倒くさいな。


 俺は空間魔法を発動し、アユムの周囲の空間ごと彼を『封印』した。


 さらに、続いて大剣を構えて斬り掛かってこようとしていた、Bランク冒険者のレオも流れるように同時に封印する。


 2人は攻撃の体勢をとったまま、まるで精巧な人形のようにその場でピタリと固まり、指一本動かせなくなった。


「な、何が起きた……っ!?」


 残る前衛はあと1人。その男が驚愕しながらも剣を構えて迫ってこようとした、その瞬間――。


 ドガッ!!!

「ぐはぁっ!?」


 ブラックドッグのクロドが背後から弾丸のように突っ込み、その男を激しく押し倒した。そのまま泥に顔をうずめて俯せになっている男の背中に、クロドがどっかと圧し掛かる。


「グルルル。動くなワン。少しでも抵抗したら、いつでもその首を噛みきるワン」


 相棒の唸り声と牙は死神そのものなのに、喋る言葉が犬のままだからどうにも気が抜ける。


 これで完全に制圧した、そう思った時だった。


「――きゃああああああああッ!!」


 突如として、洞窟内に引き裂くような女性の悲鳴が響き渡った。


「ユウマァ! 仲間を、その2人を元に戻せぇ! そしてその黒犬もそこから退かせろぉっ!!」


 声のした方へ目を向けると、後方に残っていた弓使いの男が、『風月の戦乙女』の1人であるカエデさんを背後から力任せに羽交い締めにしていた。そして、その白く細い首筋にギラリと光るナイフを冷酷に押し当てている。


 カエデさんはまだ両腕を縄で縛られたままで、抵抗すらできない。


 その周りを、異変に気づいたカノンさん、ミウさん、ワカナさん、マナミさんの4人が取り囲んで武器を構えているが、人質を取られた状態では手が出せない。


「ユウマくん、御免……しくじった……!」

 カノンさんが男から一切目を離さず、悔しさに唇を噛み締めながら俺に詫びる。


 俺が男を射殺すような視線で睨みつけると、男は怯むどころか、さらに下卑た笑みを浮かべてカエデさんの胸元から下へとナイフの刃を滑らせた。


 ブシュッ!


 カエデさんの胸の中央から腰にかけての服が引き裂かれ、露出した白い肌に一本の赤い線が走る。そこから鮮血がじわりと流れ落ちた。


「きゃああああああっ!」


「ユウマァ! こっちを見るなぁ! 早く仲間を元に戻さねえと、次はこいつの頸動脈を掻っ切って殺すぞぉっ!!」


 俺は男の言葉に従うように、あえてスッと目を逸らした。


 怒りで視界が赤く染まりそうになるのを、冷徹な思考で押さえつける。


(……馬鹿め。別にそっちを直接見なくたって、俺の『空間魔法』はお前を捉えられるんだよ!)


 俺は即座に『空間把握』を全開にして、男の座標と手元を完全にロックオンした。そして先ず始めに、男が握っているナイフだけを『空間収納』で俺の亜空間へとしまって没収した。


 突然、手にしていた確かな感触とナイフの重みが消え去り、男は目に見えて狼狽し始める。


「な、何だと……!? ナイフが消えた……ちくしょう、何が起きてやがる!」


 焦った男はカエデさんを片腕で抑え込んだまま、もう片方の手で腰のショルダーバッグをごそごそと漁り、何か別の凶器を出そうとし始めた。


 他にも武器を持っているのか?


 ――いや、俺がほんの一瞬だけ気を抜いたせいで、カエデさんは実際に斬られ、血を流した。致命傷には見えないが、女の子の身体だ。傷が残るかもしれない。


 沸々と煮えくり返るような怒りが脳を支配し、周囲の音が遠のいていく。


 これ以上、こいつらに1秒たりとも息をさせる必要はない。


 俺は冷酷に思考のトリガーを引いた。


 ショルダーバッグを探っている弓使いの男の『脳』だけを、ピンポイントで俺の亜空間へと直接収納した。


 バサッ……。


 男の身体から一切の力が抜け、糸が切れた操り人形のように崩れ落ち、泥の上に転がった。脳という中枢を失い、叫ぶ間もなく即死したのだ。


「カエデさん!」

 俺はすぐにカエデさんの元へと駆け寄った。


「カエデさん、本当に御免なさい……。俺がもっと早く対処していれば、気を抜かなければ、こんな痛い思いをさせずに済んだのに……!」


 俺は『亜空間』から、最下層の探索用に用意していた最高品質の高級回復薬ポーションを取り出し、カエデさんに手渡す。


「有難う、大丈夫よ……っ。命は助かったわ。ユウマくんは何も悪くない。回復薬も、使わせて貰うわね」


 カエデさんは痛みに耐えながらボトルを受け取ると、一気にそれを飲み干し、残りを胸元の傷口へと直接振りかける。最高級品だけあって、みるみるうちに傷口が塞がっていった。


 そこへ、緊迫した糸が切れてヨロヨロとした足取りで集まってくる『風月の戦乙女』の他のメンバーたち。全員が安堵の息を漏らす中、リーダーのカノンさんだけが、決意を秘めた真剣な眼差しで真っ直ぐに俺を見つめてきた。


「ユウマくん、本当に有難う。……でもね、いま命を救ってもらったからこそ、お姉さんとして、冒険者にとって『一番大事なこと』を教えてあげるわ」


 カノンさんの声には、一線で修羅場を潜り抜けてきた者だけが持つ、重い覚悟が宿っていた。


  ◇◇


 その頃。


 ところ変わって、ダンジョン『亡霊洞窟』の上層。

「おい、俺は高名なAランク冒険者パーティー『焔の剣』のリーダー、ミナトだ」


 剣士ミナトは、前方を進んでいた別の冒険者パーティーの一人に、親しげを装って背後からいきなりガシッと肩を組んだ。そして、これ見よがしに自身のAランク冒険者証を目の前に突きつける。


「は? え……ど、どうも。Cランク冒険者パーティー『太陽の獅子』のリーダー、ケンシンっす……」


 突然現れた高ランクの先輩に対し、ケンシンという男は戸惑いながらも、とりあえず礼儀として深く頭を下げた。


「ちょっと深い階層で手こずってよ、恥ずかしながら迷子になっちまったんだ。――出口まで案内してくれや」


 ミナトはケンシンの耳元に不気味に口を寄せると、凄むようなドスの利いた低い声で『お願い』した。その腰には、先ほど別の冒険者を惨殺して奪った剣が鈍く光っている。


「は、はぁ……?」


 そのあまりに威圧的で異常な雰囲気に、ケンシンは本能的な危険を察知して顔を引きつらせた。


「良いよねぇ? まさか、偉大なAランクの先輩からのお願いを『断る』なんて、言わないわよね?」


 すかさず横から魔法使いのアオイが割り込み、冷徹な目でケンシンを睨みつけて強引に話を押し進める。


「は、はぁ……まぁ、それくらいなら……」


 あからさまに気乗りしていない様子で、ケンシンは仲間の顔色を窺う。


「有難う! 優しい人で良かった、宜しくね!」


 弓使いのヒマリは、近くに居た『太陽の獅子』の女性冒険者の肩を背後からポンと叩いた。だが、叩かれた女性冒険者は、ヒマリの衣服から漂う微かな血の臭いと、その凍りついた瞳に恐怖し、俯いたまま無言で身体を強張らせることしかできない。


「……(モグモグ、もぐもぐ)」


 そんな一触即発の不穏な空気の中、回復士のユイナだけは、やはり殺した冒険者から奪った干し肉を、ただ一心不乱に口へと運び、泥を貪るような目で咀嚼を続けていた。


 獲物をじっと見定めるように『太陽の獅子』の4人を見つめるミナトたちの目は、すでに次の凶行の算段を立て始めているようだった。

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