第24話 レベル26へ大躍進! 短距離ワープまで習得して美女たちに囲まれる少年と、彼をEランクに塩漬けにしようと企むクズ受付嬢
夕日に照らされる王都の大通りを、俺は漆黒の巨体を誇る相棒、ブラックドッグのクロドの背に揺られながら進んでいた。
相変わらず、俺の周囲は信じられないほど華やかで、そして賑やかだ。
「ねえねえ、ユウマ君。さっき言点てたミノ牛のステーキ、本当に楽しみにしてるんだからね?」
「あ、はい、アヤカさん。もちろん約束は守りますよ」
「もう、生真面目なんだから。そういうところ、本当に可愛いなぁ」
隣を歩くアヤカさんが、いたずらっぽく笑いながら俺の腕をぐっと抱き寄せた。柔らかい感触が二の腕に伝わり、心臓が爆発しそうになる。
これまでの人生、女性とお付き合いをしたことなんて一度もなかった。それどころか、『焔の剣』にいた頃は雑務に追われ、時間的にも金銭的にも、自然とそんな余裕はミリ単位も存在しなかったのだ。
だから正直、どう対応していいか分からなくて、さっきから顔を真っ赤にしてへらへらと情けない笑みを浮かべることしかできない。
(絶対に鼻の下が伸びてる……。自覚はあるんだ、あるんだけど、ニヤニヤが止まらないんだよ……!)
俺がそんな甘酸っぱい試練に悶絶していると、大通りの遠くの方から、通りすがりの男性冒険者たちが「なんだあいつは……」「クソッ、羨ましすぎるだろ……」と言わんばかりの猛烈なジト目を向けているのが肌に刺さる。うん、ちょっと痛いけれど、今の俺はそれ以上に幸せが勝っていた。
それもそのはず、今回のダンジョン探索で、俺は自分でも信じられないほどの収穫を得ていたのだ。
前パーティを追放された後、俺はクロドと共に『魔獣の窟』の地下19階まで一気に潜った。各階に巣食う凶悪な魔獣どもを文字通り狩りまくった結果、俺のレベルは爆発的に跳ね上がっていたのだ。
脳内で念じ、自身のステータス画面(転生者特典の可視化能力だ)をそっと展開してみる。
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【ステータス】
名前:ユウマ
種族:人族(転生者)
年齢:18才
性別:男
レベル:26(Up!)
固有スキル:
空間魔法:LV6(Up!)
├ 空間収納(中)(Up!)
├ 空間把握(中)
├ 封印
├ 亜空間作成
└ 空間移動(短)(New!)
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レベルが25の大台に乗った瞬間、俺の『空間魔法』のスキルレベルが6に進化し、それに伴って規格外の強化が行われていた。
【空間収納(中)】
1000立方メートルという、もはや家一軒が丸ごと収まるレベルの亜空間に、自分から半径10m以内にある物なら何でも一瞬で収納できる。さらに収納した物を、元の状態のまま任意の空間に展開(取り出し)可能。当然、亜空間内部の時間は完全に停止している。
【空間移動(短)】
自分から半径5mの範囲内であれば、任意の場所に「物」を一瞬で転送・移動させることができる。
この『空間収納(中)』の容量アップのおかげで、今回ソロで狩りまくったオークやミノタウロスの膨大な死骸は、すべて俺のマジックバッグ(を偽装した空間)の中にすっぽりと収まっていた。
しかも、俺はわざわざ手を汚して解体したわけではない。空間魔法の刃を使って、亜空間内部で『自動かつ完璧に解体した状態』で収納してあるのだ。本当に至れり尽くせりである。
新しい『空間移動(短)』の獲得もデカかった。
説明文には「物」としか書かれていなかったが、試してみたら自分やクロドのような「生物」の転送も可能だったのだ。
つまり、実質的な短距離ワープ、武術でいうところの『縮地』である。戦闘中、敵の死角へ一瞬で回り込んだり、クロドを敵の背後にワープさせて奇襲を仕掛けたりと、このスキルのおかげで中層のモンスター狩りはピクニック並みに快適なものになっていた。
「よし、到着したな。……クロド、降りるよ」
「ワン!」
ギルドの大きな建物の前でクロドから降りると、アヤカさんたちに背中を押されるようにして、俺たちは賑やかに冒険者ギルドのロビーへと足を踏み入れた。
◇◇
夕暮れのロビーは相変わらず大混雑だったが、受付カウンターには二人の職員が入っていた。
一人は、先ほどミナトと裏でコソコソと不穏な密談を交わしていた受付嬢、メイ。
そしてもう一人は、いつもニコニコしていて誰に対しても平等に接してくれる、非常に物腰の柔らかい受付嬢、ヤヨイさんだ。
見ると、なぜかメイの窓口の列だけが妙に空いている。対してヤヨイさんの列は長蛇の列だ。普通なら空いている方に並ぶべきなのだろうが……俺は直感的に察していた。
(……なんだか最近、メイさんには明確に嫌われてる気がするんだよな。挨拶しても無視されるし、目が笑ってないし)
まさか彼女がミナトから高級フルコースで買収され、俺を「Eランクに塩漬けにして嫌がらせをする」という裏工作を企んでいるとは知る由もないが、野生の勘がそっちに行ってはダメだと告げていた。
「アヤカさん、俺たちはあっちのヤヨイさんの列に並びましょう」
「そうね! ヤヨイなら手続きも早いし、愛想もいいものね」
俺が女性冒険者たちとワイワイと楽しげに話しながらヤヨイさんの列の最後尾につくと、退屈な待ち時間も全く苦にならなかった。周囲のベテラン男性冒険者たちからの「なんであいつだけ……」という嫉妬の視線は相変わらずすごかったけれど。
だが、その楽しげな雰囲気をぶち壊す、甲高い金切り声がロビーに響き渡った。
「ちょっとぉ! ユウマ! あんた、何他所の列に並んでるのよ! こっちの窓口に来なさい!」
声の主はメイだった。
彼女は自分の窓口に並んでいた他の冒険者を完全に放置し、カウンターから身を乗り出して俺を鋭い目で睨みつけている。ロビー中の視線が、一瞬で俺たちに集まった。
「えっ? いや、俺はヤヨイさんの列に並んでいるので大丈夫ですよ。ねえ、アヤカさん?」
「そうよぉ、メイ。私たちはヤヨイに今回の遠征報告と、ユウマ君の付き添いをしてるの。あなたに関係ないじゃない」
アヤカさんが不快そうに言い返したが、メイの暴走は止まらなかった。
彼女は般若のような怖い顔をして受付のカウンターからわざわざ出てくると、ドカドカと激しい足音を立てて俺に詰め寄り、俺の腕をかなり強い力でガシッと掴んだのだ。
「っつ……!? メイさん、痛いですって」
「いいからこっちに来なさい! Eランクのペーペーのくせに、ギルド職員の指示に口答えすんじゃないわよ! あんたの担当は、私が直々に『処置』してあげるんだから!」
(処置……? 対応じゃなくて?)
あからさまな敵意と悪意が隠しきれていない。
アヤカさんたち女性冒険者たちが、完全にゴミを見るような冷たい目でメイを睨みつけ、一触即発の空気が流れる。
「ちょっと、メイ。あんた職権乱用じゃないの? ユウマ君が嫌がってるでしょ!」
「うるさいわね! これはギルドの、職員としての、業務命令よ!」
メイは聞く耳を持たず、俺の腕を強引に引っ張って自分のカウンターへと連行していく。俺の後ろを、クロドがいつでも喉元を噛みちぎれるように静かに、しかし凶暴な目を光らせて付いてきていた。
「あ、すいません……横から割り込む形になってしまって、本当にすいません……!」
俺はメイに無理やり連れてこられる途中で、彼女の窓口にちゃんと規則正しく並んでいた他の冒険者たちに、何度も頭を下げて謝罪した。本当に申し訳ない。横入りなんて一番マナー違反なのに。
「はいはい、到着。……あんたねぇ、ただのEランクの下っ端なんだから、黙って言われた通りにしていればいいのよ」
カウンターの奥に戻ったメイは、ふんぞり返って俺を見下ろした。その目は「さあ、どうやってこいつの依頼を却下して絶望させてやろうか」という、歪んだ愉悦に満ちている。
「……で、何の用事? どんな失敗の報告かしら?」
「いえ、今回はギルドからの特定の依頼は受けていません。純粋に、ダンジョンで個人で狩った魔獣の素材の『買取だけ』をお願いしたくて」
「はぁ? 買取ぃ?」
メイは露骨に鼻で笑い、面倒くさそうに爪をいじりながらカウンターの木製テーブルをトントンと叩いた。
「なーんだ、ただの素材持ち込みね。じゃあ、サクッとそこにそのショボいカバンから出してちょうだい。一瞬でゴミみたいな値段をつけて終わらせてあげるから」
「いや……あの、このカウンターの上には、物理的に置けない量なんですけど」
「……はぁあ!? あんた、何言ってるの? Eランクのくせに、見栄張ってんじゃないわよ!」
メイが完全にイライラを爆発させて怒鳴る。
けれど、俺が収納しているのは、あの巨大なミノタウロス数十頭分の角と、その極上肉なのだ。こんな狭い受付カウンターの上に出したら、ギルドの壁ごと押し潰されて大惨事になってしまう。
「本当なんです。量も重さも、ここじゃ無理です」
「チッ、本当に生意気で使えない男ね……! 分かったわよ、じゃあ、とっととギルドの裏手にある『大型解体所』に行って、そこに全部ぶちまけてきなさい! 報告書は私の方に回すように、解体所のおやっさんにちゃんと言っておくのよ! 分かった!?(これで書類を握り潰して、あんたの手柄をゼロにしてやるんだから……!)」
メイは内心で邪悪な勝利の笑みを浮かべていた。裏で書類を処理する段階で、ユウマの素材を「状態不良による破棄」扱いにすれば、ミナトとの約束通り、彼を永久にEランクに留めておけると考えたのだ。
「はぁ……分かりました。じゃあ、裏へ行ってきます」
俺がため息をつきながら引き返そうとすると、カウンターの向こうからアヤカさんたちが優しく手を振ってくれた。
「ユウマくーん! また後でね! 解体所でのお仕事が終わったら、酒場で待ってるから!」
「お姉さんたち、美味しいお酒用意して待ってるぞー!」
「あ、はい! また後で!」
お姉さんたちに笑顔で手を振り返し、俺はクロドを連れてギルドの裏手へと向かった。
自分の裏工作が完璧に成功したと信じて疑わない受付嬢メイ。だが彼女はまだ知らない。ユウマがこれから解体所に持ち込む素材の「あまりの異常な総量と価値」を目にした解体所のベテラン職員が腰を抜かし、その報告が即座にギルド長へと直通して、自分自身の破滅の引き金になるという未来を――。




