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バカ野郎は何処へ行く


一人の男が精神病院から出てきた。正面玄関から出てきた。当然、治ったから出てこれたのだ。だから胸を張ってズボンのポケットに手を入れて、人気の少ない街へ向かって歩く。何故か一人でククク…と不敵に笑って。

男は幻覚が見えてしまう病気を患っていた。男自身は酒もたばこも麻薬も悪いことは一切してはいない。むしろ健康には自信があったし、幻覚に慣れてしまえば案外楽しいものだと楽観的に思っている。

「おじさん、足臭いよ!」

小さな子供がきんぎょの糞のようについて回る。

「ねえ、あたしのことエロいと思ったでしょ?」

きわどい服を着たお姉さんが古臭いナンパ法を駆使してくる。

「ワンワン!ワンワン!」

硬貨位の小さな犬が勝手に吠えている。

まるで夢のような世界だと誰かに言われたが、誰もが見ている夢のほうがツマラナイと感じてしまう。しばらく歩いていたらグーグーと腹の虫がウソ泣きみたいに泣き出した。腹の虫が警戒している。それは、病院で出される食べ物なんて味が薄いし硬くて歯が痛くなるし、その辺の雑草のほうが美味しそうに見えてくるからだ。これは幻覚じゃないと断言できる。

朝でも昼でもない時間、それでもファーストフード店には客がチラホラいる。メニュー表で手を合わせてご馳走様とつい言ってしまいそうになる。とりあえずチーズバーガー五個で世界一幸せ者になろうじゃないか。

いざ山盛りのバーガーを手に取るとバーガーがグツグツと音を出していることに気付いた。そっと耳をあてる。

「まだ死にたくない…まだ死にたくない…グツグツ」

これは食べずらい。

「グツグツ…まだ調理中です…グツグツ…」



フラフラフラ、男はふらつきながらも何とか歩く。「俺はバカだ」俺はバカだ、と呟きながら。


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