第伍巡 豪華な船旅
「さてと……。」
俺はひとつ大きく伸びをして、エレベーターで上階にあるレストランへ向かう。
「……おぉ。」
扉が開いた瞬間、思わず感嘆の声が漏れた。
広々とした店内、窓の外には果てしなく続く白い川。
そして並べられた料理の数々。
寿司、中華、洋食、デザートまで。
高級ホテルのバイキングと言われても信じるレベルだ。
「いや、死後の世界ホントどうなってんだよ……。」
思わず笑ってしまう。
「……せっかくだし。」
どうせ無料だ。遠慮する理由はない。
俺は普段なら絶対に手を出さない、高級そうな料理を次々と皿へ盛り付ける。
「流石に……取りすぎたか?」
気付けば皿が山盛りになっていた。
一瞬、少し反省したものの――
「まあ、死んでるしいいか。」
何が"いい"のかは自分でも分からなかったが、料理はどれも驚くほど美味かった。
肉は柔らかく、魚は新鮮。デザートまで一級品。
窓の外は絶景、まさに最高のひと時だ。
「はぁ…。生きてる時ならもっと最高だったんだがな……。」
思わず苦笑しながらも満腹になるまで食事を楽しみ、自室へ戻る。
部屋には大きな浴室まで用意されていた。
「風呂まで豪華なのか……。」
ゆっくり湯を浴びると疲れが溶けていくような、不思議な感覚だった。
風呂から上がると、そのまま柔らかなベッドへ身を沈める。
「はぁ……。まさか死んでから、こんな豪華な船旅をするとはな。」
天井を見上げ、小さく息を吐く。
皮肉にもほどがある、
生きていた頃には、こんな楽しい旅はしたこと無かったのに。
「……向こうは、今頃どうしてるんだろうな。」
ふと、現世のことが頭をよぎる。
親父と母さんは、俺の死を知っただろうか……?
それとも、まだ事故の処理に追われているのか……
アパートに残した荷物、途中まで解いた問題集、読みかけの漫画、攻略中のゲーム……
全部、そのままなんだろうな。
「……。」
胸の奥が少しだけ痛む。
「……まあ。死んじまった以上、考えたって仕方ねぇか。」
諦めたように、小さく笑う。
もうどうにもならない、終わったことなんだ。
だから考えない――。
そうやって今までだって生きてきたじゃないか。
目を閉じようとした、その時だった。
「ごきげんよう。」
「うわぁっ!?」
目の前に白の顔があった。
あと十センチ近かったら鼻がぶつかる距離である。
「びっくりしたぁぁぁ!!心臓止まるかと思った!」
反射的に飛び起きる。
白は口元を隠して、くすくす笑う。
「ふふふ。相変わらず止まる心臓もありませんのに。」
「そういう問題じゃねぇ!」
「それに別に驚かせるつもりはありませんでしたわ。」
「いや、絶対あっただろ!」
「……少しだけですわ。」
「やつぱりあるじゃねぇか!」
ようやく息が落ち着いてくる。
「……で。用件は?…ただ驚かしにきたわけでもないんだろ?」
深くため息をついた。
「ええ。ちょうど良い時間になりましたわ。」
白は窓の外へ目を向ける。
「時間?」
「デッキへ出てみませんこと?面白いものをご覧に入れますわ。」
にっこりと微笑む。
「一体何なんだよ?」
「それは秘密ですわ。……でもきっとあなたも驚きますわよ。」
そこまで言われると少し気になる。
「……まあ、暇だったしな。案内してくれ。」
ベッドから立ち上がる。
「かしこまりましたわ。」
白は満足そうに微笑むと、赤い傘をくるりと回しながら部屋を出ていく。
俺もその後を追い、静かな船内の廊下を歩き始めた。




