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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 黄泉への旅路編

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第肆巡 三途の川へようこそ

 

「すげぇ……。ここが、俗に言う三途の川ってやつか……。」

 俺は思わず息を呑む。


 それは川というより海だった――いや、海よりも広いかもしれない。

 波ひとつ立たず、鏡のように静まり返った水面はどこまでも続き、向こう岸など影すら見えない。


「ふふっ。目的地は、この向こう側にありますわ。」

 白は少し誇らしげに胸を張る。


「これ泳げって言われたら泣くな……」


「安心してくださいませ。あちらに船がありますわ。」

 白が指差す。


「いや、流石に小舟でこれは厳しいんじゃ……」

 俺はそこまで言って固まった。


「って…………でかっ!!」

 思わず二度見する。

 停泊していたのは小舟どころではない――巨大な白亜の豪華客船。

 まるで海外旅行のパンフレットに載っていそうなクルーズ船が悠々と三途の川に浮かんでいた。


「いやいやいや!三途の川って、小舟じゃないの!?」

 思わず白を見る。


「何百年前のお話をしていますの?時代は進歩しておりますわ。」

 白はきょとんと首を傾げる。


「いや、死後の世界も進歩するの!?」


「当然ですわ。昔は手漕ぎでしたけれど、今は効率化が求められる時代ですもの。」


「死神にも働き方改革とかあるのか……。」


 なんか夢が壊れたような気がするのは気のせいだろうか。

 (いや、そもそも夢じゃないんだが……)


「ほら、早く参りますわよ。」

 白は赤い傘を閉じると、桟橋へ向かって軽やかに歩き始める。


 乗船口へ着くと、白はポケットから一枚のカードを取り出した。


 ピッ。


 軽快な電子音。


「……。」


「……。」


「え?電子決算なの!?」


「ええ。」


「死後の世界なのに!?」


「便利ですもの。」


「いや、便利だけどさ!」

(あの世までキャッシュレス社会かよ……。)

 思わず頭を抱える。色々とカルチャーショックを受けながらも、

 俺は白の後ろについて船へ乗り込んだ。


 船内へ一歩足を踏み入れた瞬間、さらに言葉を失う。


 吹き抜けのロビーは赤い絨毯が敷かれており天井には煌びやかなシャンデリア。

 壁には豪華な調度品の数々が輝く。どう見ても高級ホテルだった。


「こちらがお部屋になります。」

 案内された個室もまた驚きだった。

 広いベッドに大きな窓、ソファまで置いてある。


「すげぇ……。外から見ても豪華だったけど、中はもっとすごいじゃねぇか。」

 思わず部屋を見回す。

 

「死後の世界ってこんなVIP待遇なのか?」


「喜んでいただけて何よりですわ。」

 白はどこか嬉しそうに微笑んだ。


「ここから目的地までは約四百キロ。この船なら、明日には到着いたします。

 その間はごゆっくりお休みくださいませ。」


「六日も歩き通しでしたから、お疲れでしょう?」


「まぁ、それは……」

 俺はそこまで言って固まる。


「……え?……六日!?」

 思わず俺は飛び上がった。


「俺そんなに歩いてたの!?」


「ですわ。」


「全然気付かなかったぞ!?」


「こちらには時間という概念が曖昧ですから、”現世の時間に換算すれば”、のお話ですけれど。」

 白は肩をすくめる。


「マジかよ……。」

 

 そう言われると、


「……なんか急に腹減ってきた。」


「でしたら、上の階にレストランがありますわ。

 バイキング形式ですので、お好きなものをどうぞ。」


「いや、それはありがたいが……」


 一番大事な問題がある。


「俺、一文無しなんだけど。」


「お金?」

 白はきょとんとした。


「ああ、その心配はいりませんわ。船内のサービスはすべて無料です。」


「…………。マジで!?そんなの天国じゃねぇか!!」

 思わず身を乗り出す。


「まだ天国ではありませんけどね。」

 即座に訂正される。


「ですので、遠慮なさらず心行くまで楽しんで来て下さいませ!」


「そういう事なら、まずは飯だ!」

 さっきまで死んだショックで沈んでいたのが嘘みたいに元気が出てきた。


「それでは私は業務報告がありますので、また後ほどお迎えに参りますわ。」

 白はくすくす笑う。


「分かった。色々ありがとな、白。」

 俺は軽く手を振る。


「どういたしましてですわ。」

 白は優雅に一礼すると、軽やかな足取りで廊下の向こうへ消えていった。



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