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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 黄泉への旅路編

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第参巡 人生の清算 

 

「さてそれでは少しだけ、この世界のお話をいたしますわ。

 現世での人生を終えた魂は、輪廻によって次の人生へ進みます。」

 霧の中を歩きながら、死神の白(はく)はくるりとこちらを振り返る。


「転生ってやつだな。」


「ええ、ですがすぐに次の人生へ行けるわけではありませんの。」


「そうなのか?」


「新しい器の準備や魂の管理、様々な手続きがありますから。」

 白は人差し指を一本立てる。


「……手続き?」


「現世でも引っ越しや何かあれば手続きを取るでしょう?それと同じですわ。」

 白はさらりと言った。


「死んでもからも役所があるのかよ……結構面倒くさいんだな。」

 思っていたより、死後の世界は現実的らしい。


「ふふっ…それに向こうで四十九日とか一周忌なんて聞いたことがあるでしょう? 

 あれはその手続きの期間でもありますの。」


「へぇー、単なる言い伝えだと思ってたんだがちゃんと意味あるんだな。」


「それに何より大切なのが、人生の清算ですわ。」

 白の表情が少しだけ真面目になる。


「人生の清算?」

 

 嫌な単語だ。


「まさか火あぶりとか、針山とか、串刺しとか……そういうやつじゃないだろうな?」


「ふふっ。まさか…あれは人間達が考えた創作ですわ。」

 白は肩を揺らして笑う。


「よかった……。」

 胸を撫で下ろした、その直後。


「……多分ですけど。」


「おい!今、"多分"って言ったよな!?」

 思わずツッコミを入れると、白は楽しそうに口元を隠す。


「ふふふ……驚きました?」


「ああ。心臓に悪い。」


「もうありませんわよね?」


「……そういう問題じゃねぇよ。」


「もうほんの死神ジョークですのに…」


「そんな冗談はいらん。」

 少しだけ笑いが漏れる。


 ……不思議だった。


 さっきまで自分が死んだことを受け止めきれずにいたのに、

 この死神と話していると少しだけ肩の力が抜ける。


「でも……。」

 白はふと歩みを緩め、霧の向こうを見つめたまま小さく呟いた。


「人によってはとても辛い時間になります。」

 その横顔から、先程の笑みは消えている。


「人生の清算とは、”この世への未練を断ち切ること”ですから……。

 だから決して、楽しいだけの旅ではありません。」

 白はゆっくりこちらを見る。


「……俺は、何をさせられるんだ?」

 思わず息を呑んだ。


「何も"さ(・)せ(・)ら(・)れ(・)"ませんわ。

 私たち案内人にできるのは、道を示し見守ることだけ。」

 白は静かに首を横へ振り、優しく微笑む。


「何を選ぶかは、あ(・)な(・)た(・)自(・)身(・)です。」


「俺自身……か。」


 俺は苦笑する――

 生きていた頃だって、流されてばかりだった俺が、死んでから急に選べと言われても困る。


「……まぁ、今さら焦っても仕方ないか。」

 どうせもう後戻りはできない。


 だったら進むしかない。


「案内してくれ。」


「ふふふ。その前向きさ、とても素敵ですわ。」

 その一言を聞いた白は、満足そうに微笑んだ。


「いや、半分ヤケクソなんだけど……。」


「細かいことは気にしてはいけませんわ。」

 白はくすりと笑い、赤い傘をくるりと回した。


「さて、もう少しで見えてきますわよ。」

しばらく歩くと濃い霧が少しずつ薄れ、視界が開けた。


「……これは。」


 俺は思わず言葉を失う。


 目の前には、果てが見えないほど巨大な川が広がっていた。

 水面は鏡のように静まり返り、霧を映して白く揺れている。


 対岸は見えない――いや、本当に存在しているのかさえ分からないほど遠かった。


「ようこそ。ここが現世とあの世を隔てる境界、最初の通過点ですわ。」

 白はゆっくりとその川へ視線を向ける。



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