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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第一章 黄泉への旅路編

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第弐巡 笑えねぇ冗談だ

 

「でしたら、証拠をお見せしますわ。」

 白はそう言うと、どこからともなく小さな手鏡を取り出す。


 鏡面を軽く指でなぞると淡い光が広がり、目の前の空間へ大きな映像が映し出された。

 まるで空中に映る映画のスクリーンだ。


「……これは」


 そこに映っていたのは、見覚えのある電車。

 そして窓際の席で眠っている――俺だった。


「お、おい……」

 

 嫌な予感が胸をよぎる。


 数十秒後――

 突然車体が大きく揺れ、耳をつんざくような轟音に乗客たちの悲鳴。


 車両は横転し、俺の体は激しく床へ叩きつけられ動かなくなり、

 頭から流れ出た赤い血だけが、ゆっくりと床を染めていく。


 映像はそこで静かに消え――辺りを包む静寂がさっきまでより重く感じる。


「……そんな」

 思わず声が漏れた。

 

 嘘には見えない。いや、見えるはずがない――あれは間違いなく、俺だった。


「俺は……脱線事故に巻き込まれて……」


 最後まで言葉にならない。


「本当に……死んだのか……」


 頭では理解できる。

 けれど心が、頑なにそれを拒んでいた。


「…漫画みたいな話だ……。でも……嘘にも、冗談にも見えねぇ。」


 まだ何も始まっちゃいない、夢だって見つけてない――それなのに……。


「……くそっ!」

 やり場のない怒りをぶつけるように、拳を思い切り地面へ叩きつけた。


 ゴンッ。

 確かな手応えはあった……なのに。


「……あれ?」

 ――全く痛みを感じないのだ。


「そうか……やっぱり俺は……」

 胸の奥が冷たくなっていく。


「死ぬって……こんなにあっさりなんだな。はは……笑えねぇ冗談だ。」

 自嘲するように笑う。


「……ご理解いただけましたか?」

 その様子を見つめながら、白は小さく目を伏せた。


「ああ、……認めたくはないけどな。」


 白は何も言わない、その沈黙が逆に優しかった。


「なあ、死神。俺は……これからどうなる?」


「心配はいりませんわ。」

 白は再び柔らかな笑みを浮かべる。

 その声は、不思議と安心できる響きを持っていた。


「これから向かう道中で、ゆっくりご説明いたしますから。」


 そう言って人差し指を一本立てる。

「何せ、この世界。時間だけはたっぷりありますもの。」


「……時間だけは、か。……確かにな。」


「長期休暇に旅行へ行くのと同じようなもの。旅行は皆さんお好きでしょう?」


「ああ、……目的地があの世じゃなければな。」


「浮かない顔ですわね。……わたくし慰めたつもりでしたのに。」

 白は首を傾げる。


「慰め方、絶望的に下手だな。」


「失礼ですわね!」

 ぷくっと頬を膨らませる白。

 その表情が少しだけおかしくて、思わず笑いそうになる。


 ……こんな状況で笑うなんて。俺もどうかしてるな。


「それでは参りましょう。」

 白が赤い傘を肩に担ぎ、霧の向こうへ歩き出す。


 俺は一度だけ、何もない白い空間を振り返る。


 もう戻れない――


 そんな予感だけが、胸の奥に静かに残っていた。

 覚悟を決めるように息を吐き、白の後を追って霧に包まれた道なき道へ足を踏み出す。




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