第壱巡 あなたはもう死んでいますわ
「あれ……?」
ぼんやりと目を開けると、
視界いっぱいに広がっていたのは見慣れた電車の天井ではなかった。
真っ白だ、どこまでも白い空間――
濃い霧が辺りを包み込み、前も後ろも何ひとつ見えない。
風もない、音もない。
世界そのものが止まってしまったような、不思議な静寂だけがそこにあった。
「目が覚めたみたいね。気分はいかがかしら?」
すぐ近くから、鈴のような声が聞こえる。
視線を向けると、小柄な少女がこちらを覗き込んでいた。
赤い傘に漆黒のゴシックドレス、
雪のように白い肌と腰まで届くプラチナブロンドのツインテール。
まるで精巧な人形のような整った顔立ち。
どこかの貴族令嬢と言われても納得してしまいそうな少女だった。
……当然、俺の知り合いにこんな美少女はいない。
ゆっくりと上半身を起こし、辺りを見回す。
「ここは……どこだ?……それにお前は誰なんだ?」
「ここは現世と霊界の狭間。生者でも死者でもない魂が一時的に留まる場所。
そしてわたくしは案内人の”白”。それとも……死神と名乗った方が一番分かりやすいかしら?」
少女はスカートの裾を摘まみ、優雅に一礼した。
「……は?……死神だって?」
思考が止まる。
「ええ。これから、わたくしがあなたを"あの世"までご案内いたしますわ。」
白はあっさりとうなずいた。
「あの世……」
その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かがぷつりと切れた。
……なるほど。そういうことか――
「分かった。」
「理解が早くて助かりますわ。」
「これは夢だな!」
「…………はい?」
夢以外に説明がつかない――
そうだ、夢なら目を覚ませばいい……
俺は迷わず白の両頬をむにっとつつねった。
「ひゃっ!?」
――ぷにっ。と柔らかい感触。
「いひゃっ、いひゃいですわ! な、何をなさいますの!?」
「あれ?これで夢から覚めるはずなんだけどな……」
「覚めませんわ!」
白は慌てて俺の手を振り払う。
頬を押さえながら、涙目でこちらを睨んできた。
だが、夢は覚めは一行に覚める気配がない。
「まさか……夢じゃない?」
「当たり前ですわ!!」
白はぷくっと頬を膨らませた。
「そもそも夢かどうか確かめるなら、つねるのは普通ご自分でしょう!?
どうしてわたくしなんですの!」
「いや、つい……」
「つい、ではありませんわ!」
白はぷんすか怒りながら人差し指を突きつける。
「いいですこと? あなたはもう死んでいるのですわ。
だから案内人であるわたくしがお迎えに来たのです。」
その一言で、空気が変わった。
「……ふざけるな。俺が死んだだって?」
胸の奥から怒りが込み上げる。
「勝手なこと言ってんじゃねぇ!そんな話、信じられるわけがないだろ!」
――そう、信じられるはずがない。
確かに何故自分がこんな所に居るかも分からない。
だが、だからといって自分が死んだなんて――
そんな話を、簡単に受け入れられるわけがなかった。
「……信じられませんのね。」
怒鳴り返されても、白は少し困ったように微笑むだけだった。
「仕方ありません。でしたら、証拠をお見せしますわ。」




