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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 あの世からの再スタート編

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第弐拾参巡 『Phantom Dreams』

 

 ガルファンのメンバーがステージへ姿を現した瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 色とりどりのペンライトが揺れ、何千もの光が夜空に浮かぶ星々のように瞬く。


 中央へ歩み出たボーカルが静かにマイクを握る。


「皆さん、本日はお越しいただきありがとうございます」

 透き通る声がホールいっぱいに響く。


「それでは聴いてください。私たち『亡霊少女(ガールズ・ファントム)』がお届けする一曲目」


 『Phantom Dreams』


 ギターが静かに爪弾かれる。

 ベースが柔らかな鼓動を刻み、ドラムがゆっくりとリズムを重ねていく。

 四人の音が一つになった瞬間、澄み渡る歌声が、会場を優しく包み込んだ。




 例え未練だっていいじゃないか 幾多の痛みを超えて


 夢見た先に答えがなくても 夢見たことに意味があるから


 君の想いは消させない 夢は終わらない


 歩き出そう 君の夢はまだ始まったばかりだ


 振り返ってごらんよ 長い旅の中で


 君はどんな夢を見てきたんだい 次はどんな夢を見るんだい


 君の夢を語ろう ここは夢の中継地点


 聞かせてくれよ 君の夢の物語を


 僕らは亡霊 時間は無限大


 僕らは亡霊 夢の幻影


 次の夢を見るその先まで 語り合おう 夜はまだ終わらない


 まだ成仏はさせない 君の夢を


 まだ魂は消えない 君の夢はまだ始まったばかりだ


 語り合おう 夢の最後まで


 例え未練だっていいじゃないか その涙も君の証だから


 夢見た先に答えがなくても 夢見たことに意味があるから


 君の想いは消させない 夢は終わらない


 共に逝こう 君の夢はまだ始まったばかりだ


 歩き続けよう 夢の最後まで





 最後のフレーズが静かに響き渡り、演奏が終わる。

 その余韻は、誰一人としてすぐには声を上げられないほど深く、優しく会場を満たしていた。


「……すげぇ。」

 思わず、そんな一言が漏れた。


 夢をテーマにした前向きな歌詞。

 軽快なバンドサウンドに乗せられた、美しく伸びやかな歌声。

 ただ耳で聴く音楽じゃない。

 まるで、胸の奥へ直接語りかけてくるような、不思議な力があった。


 これがライブというものなのか。

 

 少しだけ、その魅力が分かった気がした。


「だろ?」

 翔が満足そうに笑う。


「お前が威張ることじゃないだろ」


「まぁ、細かいことは気にすんなって!」


 すると、ステージの照明が再び落ちた。観客から、次の曲を期待する声が飛び交う。


『それじゃあ、次の曲いくよー!』


 ボーカルの声と同時に、会場が一気に沸いた。


 次の曲は、さっきとは打って変わって激しい曲で、ギターの音が響き、四人がステージを駆け回る。


「うおっ……カッコイイな」


「こっちは盛り上がるだろ?」


「確かに……」


 曲が終わり間髪入れず、次の曲が始まった。今度は照明が落ち、静かなイントロが流れる。


「……曲ごとに全然違うんだな」


「それがガルファンの面白いところだ」


「へぇ……」

  俺も、いつの間にかステージから目を離さなくなっていた。


 そして、最後の曲が終わると大きな歓声と拍手が会場いっぱいに響き渡った。


「……終わったみたいだな。」


「……すげぇな。ライブって……」

 自分でも少し意外だった。こんなに夢中になるとは思っていなかった。


「確かに人気なのも頷ける。

 俺は音楽のことなんて全然分からねぇけど……何ていうか、心に響くみたいな…」


「分かるぜ!魂が震えるっていうのは、まさにああいうことだよな!」

 翔が笑う。


「……さて、そろそろズラかるぞ。」


「ああ。」

 俺たちは名残を惜しみながら倉庫を後にする。


 細い通路を歩いていると、不意に視界の端で何かが動いた。


「……ん?」


 反対側の通路に誰かが立っている。

 長い金髪に舞台の照明を浴びることを前提に作られたような、華やかな衣装。


 関係者か、それとも出演者の一人か。

 

 いや……何か違う。

 その場に立っているだけなのに、どこか張り詰めた空気を纏っているような……


「おーい、何してんだ?モタモタしてると、本当に見つかるぞ。」

 翔の声で我に返る。


「ああ……いや。」


 俺はもう一度、その方向へ目を向ける。


「向こうに人がいたんだ。ほら、あそこに……」


「どこだ?」

 翔も覗き込む。


 だが。


「……誰もいねぇぞ?」


「えっ?」


 そこには、もう誰の姿もなかった。

 さっきまで確かに立っていたはずなのに。


「おかしいな……見間違いじゃないと思ったんだけど。」


「気のせいだろ。」

 翔は肩をすくめる。


「それより早く行こうぜ。見つかったら説教じゃ済まねぇぞ。」


「……ああ。」

 少し引っ掛かるものはあった。


 だが、今ここで確かめる術はない。


 俺は胸の奥に小さな違和感だけを残したまま、翔の後を追いかける。

 二人は誰にも気付かれることなく通路を抜け、再び賑やかな校内へと戻っていった。



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