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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 あの世からの再スタート編

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第弐拾弐巡 秘密の特等席

 

 ライブ会場は校内にある多目的ホールらしい。

 だが、その賑わいは"学校のイベント"という言葉では到底片付けられないものだった。

 ホール前の広場には長蛇の列ができ、グッズ販売のブースやキッチンカーが所狭しと並んでいる。

 あちこちから笑い声や談笑が聞こえ、どうやら一般客にも開放されているらしく

 制服姿の学生だけでなく、私服姿の老若男女の姿まで見受けられた。


「すげぇ人だな……。本当に学校のライブなのか?」

 思わず声が漏れた。


「ガルファンは別格だからな。物販にキッチンカーまで出るから、ほとんどフェスだよ。」

 翔(かける)は得意げに笑う。


「人気なのは聞いてたけど、ここまでとは思わなかった。」

 空(そら)と翔が多目的ホールへ向かっていると見覚えのある三人が声を掛けてきた。


「おや、真城(ましろ)殿と天王寺(てんのうじ)殿ではありませんか。」

 カメラを首から下げた土屋(つちや)が声を掛ける。

 その横には木村(きむら)と、その後ろに高木(たかぎ)がこちらの様子を見ている。


「……来たくれたんですね」


「まあな」

 空が答えると、高木の顔がぱっと明るくなった。


「よかったッ!」


「そんなに驚くことか?」


「……食堂で話した時は、無理に勧めてしまったのではと思う所もありまして…」


「ああ、まあ……。せっかくあそこまで勧められたんだ。ちょっと興味もあったしな」

 空は苦笑する。


「それでこそ同志ッ!感激です!!一度ライブを観れば必ずや魅力が伝わる筈です。

 特にボーカルの響さんの歌声は――」

 高木が興奮気味で語り始める。


「はい、ストップ!高木っち、少し落ち着いてまだライブは始まってないんっスよ」

 それを木村がすかさず肩を掴んで止めた。


「こっ…これは失礼。また熱くなってしまって。」


「ハハッ、絶好調だな。」

 翔が笑う。


「しかし今日はいつにも増してかなり混んでおりますな。

 初参加の真城殿には驚かれるでしょう。」

 土屋も穏やかに笑いながら、ホールの方へ視線を向けた。


「ああ、…かなりな。」

 空が苦笑する。


「まぁ混むのも無理ないんスけどね。何と言っても今日は周年記念ッスから!」

 木村が胸を張る。


「そうなんですよッ!しかも今回の周年記念は――」

 すると高木が、また何か言いたそうに口を開く。


「高木っち」


「……はい」

 木村に先回りされ、高木は大人しく口を閉じた。


「じゃあ、俺たちは先に行くっス。良い場所を取らないといけないんで」


「……ライブ、楽しんで下さいね」


「ああ。そっちもな」

 三人は人の流れに混じり、ホールの中へと向かっていった。


「さてと、俺達も向かうか。」

 俺たちもホールへ向かおうとした、その時だった。


「ああ、だが正面から入ると埋もれるだけだからな。」

 翔が入口へ集まる大勢の客を見て、ふっと笑う。


「こっちだ。いい場所がある。」

 翔はニヤリと笑い手招きし、人混みの方ではなくホールの脇へと歩き出した。


「おい、そっちは入口じゃないぞ?」


「分かってるって」


 半信半疑のまま、俺も後を追う。


 人混みを離れ、ホール脇の細い通路へ入っていく。

 そこは表の喧騒が嘘のように静かだった。


 コンクリート打ちっぱなしの壁。

 頭上には無数の配管が走り、等間隔に設置された非常灯だけが薄暗い通路を照らしている。

 一人がやっと通れるほどの狭い道を、翔は迷いなく進んでいく。


 (……本当にこっちで合ってるのか?)


 少しだけ不安になった頃、通路の突き当たりに古びた鉄扉が現れた。


 翔は慣れた手つきで扉を開ける。

「着いたぜ。」


 中は使われなくなった倉庫だった。

 舞台装置や照明機材、古びた大道具が壁際に整然と積み上げられ、

 長い年月を物語るように薄く埃をかぶっている。


「なるほど……舞台裏の倉庫か。」


「ハハッご名答。」


「でも、こんな場所に勝手に入って大丈夫なのか?」

 辺りを見回しながら呟く。


「心配すんな。」

 翔は軽く笑って首を振った。


「現役で使われてる搬入口は反対側なんだ。

 ここは昔使われてた旧設備だから、今じゃほとんど誰も来ねぇ。」


 そう言うと、部屋の奥にある小さな窓を指差した。

「それに、この場所には最高の特典がある。」


「特典?」


「いいから覗いてみろ。」


 言われるまま小窓へ近づき、中を覗く。


「……なるほど。」

 思わず息を呑んだ。


 窓の向こうには、ステージ全体が見渡せる特等席が広がっていた。

 客席より少し高い位置から舞台を一望でき、照明も演出も遮られることなく見える。


「これは……確かに穴場だな。」


「だろ?客席ほど近くはないけど、舞台全体を見るには一番いい場所なんだ。」

 翔はどこか誇らしげに笑った。


「それにしても、お前よくこんな所知ってたな。」

 俺が感心して尋ねると、翔は一瞬だけ視線を舞台へ向ける。


「ああ……昔、ちょっと舞台に関わってたことがあってな。」


 そこまで言うと、何かを思い出したように小さく笑う。

「……いや、今はその話はいいか。」


 それ以上は語らず、翔は舞台へ視線を戻した。


「ほら、もうすぐ始まるぞ。」

 その言葉とほぼ同時に、ホール全体の照明がゆっくりと落ち始めた。


 客席から歓声が湧き上がり、いよいよライブが始まるようだ。



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