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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 あの世からの再スタート編

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第弐拾壱巡 ガルファン?

 

 学食で料理を堪能した俺たちは、食後のプリンとコーヒーを味わいながら一息ついていた。


「おやおや。天王寺殿のお友達ですかな?」

 穏やかな声と共に、三人組の男子生徒がこちらへ歩いてくる。


「ああ。ルームメイト兼、マブダチの真城空だ。」

 翔が片手を上げて応えた。


「誰がマブダチだ…。」


「ハハッ、照れんなって。」


「照れてねぇよ!!!」


 そんなやり取りに三人がくすりと笑う。


「っていうかお前らは誰だ?」


「おっと、これは失礼しました。まだ自己紹介がお済みではありませんでしたな」

 一歩前へ出たのは、丸いシルエットがどこか親しみを感じさせる青年だった。


 アニメキャラクターのプリントが入ったTシャツにパーカー姿。

 首からは一眼レフカメラがぶら下がり、背中には大きなリュック。

 帽子を被ったその姿はいかにもイベント帰りといった雰囲気だ。


「私は土屋慎一郎(つちやしんいちろう)と申します。趣味は写真撮影。特にコスプレ撮影が好きでしてね。

 どうぞよろしくお願いいたします」

 そう言って帽子を軽く取り、丁寧に一礼する。


「続いて、おいらの番ッス!」

 勢いよく割って入ってきたのは、細身でひょろりと背の高い青年だった。

 明るい金髪に黒いハット。額にはサングラスを乗せ、ラフな服装を着こなしている。


「木村修平(きむらしゅうへい)っス! よろしくっス!」


 親指を立てながら満面の笑みで笑う。


「昔っから目立つの大好きなんスよ。騒がしいと思ったら、大体おいらっス!」


「自分で言うな」

 翔が苦笑する。


「最後はボクです……」

 三人目は、その後ろからおずおずと顔を覗かせた。

 丸眼鏡を掛けた細身の青年で、ライブTシャツの上には色とりどりのピンバッジ。

 頭にはファンクラブの鉢巻きを巻き、腰には何本ものサイリウムがぶら下がっている。

 どう見ても熱狂的なライブ帰りだ。


「高木健二(たかぎけんじ)です……よろしくお願いします。」

 小さく頭を下げると、恥ずかしそうに土屋の後ろへ半歩隠れてしまった。


 ……さっきまでの二人とは正反対だ。


「俺は真城空(ましろそら)だ。よろしくな」

 

 三人と順番に握手を交わす。


 土屋は柔らかく微笑み、木村はブンブンと腕を振るほど勢いよく握り、高木は少し緊張しながらも丁寧に握り返してくれた。同じ握手でも性格がよく出るものだ。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 土屋が笑顔で言う。


「これでクラスがまた賑やかになるっスね!」


「……よろしく」

 高木も小さく頷いた。


 個性的な三人組ではあるが、不思議と嫌な感じはしない。


「それにしても、お前らが昼に食堂へ来るなんて珍しいな。いつもなら部室に籠もってる時間だろ?」

 翔が不思議そうに尋ねる。


「ああ、それはですね……」

 土屋がカメラを軽く持ち上げる。


「午後二時から『ガルファン』のライブがありまして。その前に腹ごしらえをしようかと。」


「ガルファン?」

 聞き慣れない名前に俺は首を傾げる。


 少なくとも俺が生きていた頃には、一度も耳にしたことのないグループだった。


「お前知らねぇのか?めちゃくちゃ有名だぞ?」

 翔が目を丸くする。


「いや、初耳だな。」


 すると、それまで静かだった高木の眼鏡がキラリと光った。


「では、ご説明いたしましょうッ!!」


「ガルファンとは!! 正式名称『亡霊少女《ガールズファントム》』!! 

 現世で志半ばにして命を落とした若きアーティストたちによって結成された、この世界で最も人気を誇るガールズバンドです!!」


 早い、とにかく早い。

 呼吸してるのか心配になるくらいの勢いで、高木はまくし立てる。


「圧倒的な歌唱力!! 魂を震わせる演奏!! 儚さと力強さを兼ね備えた世界観!! 

 その楽曲は聴く者すべての心を揺さぶり、一曲終わる頃には涙なしでは語れません!! 

 しかもメンバー全員が超絶美少女!! これぞまさに奇跡のバンドなのですッ!!!」


 さっきまで人見知り全開だった男と同一人物とは思えない。

 瞳は爛々と輝き、両手は演説家のように激しく動き、息継ぎすら見当たらない。

 推しの話になると、人ってここまで変わるものなのか……。


「中でもボーカルの響さんはですね──」


「はい、ストップ。」

 翔が慣れた様子で高木の肩を掴む。


「まだ始まったばっかだから。」


「……あっ。」

 高木はようやく我に返ったらしい。


「す、すみません……少し熱くなってしまいました……。」

 顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにまた後ろへと引っ込む。


「少しか?お前さっきまでとは別人だったぞ。」

 思わずツッコんでしまう。


「推しの話になると、毎回こうなんですよ。ライブ会場ではこの三倍は喋りますし…。」

 土屋が苦笑しながら肩をすくめる。


「いやいや、三倍どころじゃないっスよ。

 前回なんて開演前に二時間ぶっ通しで魅力を語って、ライブ始まる頃には声枯れてたっスから。」

 木村がケラケラ笑う。


「そ、それは黒歴史なので忘れてください……。」

 高木は耳まで真っ赤になり、恥ずかしそうに俯いた。


 なるほど。

 普段は大人しいが、好きなものになると止まらないタイプか。


「まぁ、そこまで勧めるなら一回くらい聴いてみるかな。」

 俺は根負けしたように頷いた。


「おお、それでこそ我が同志ッ!!」

 

 高木の表情が再び輝く。


「素晴らしいご決断です!! ようこそ、ガルファンの世界へ!!」


「お、おいっ……!」

 勢いそのままに俺の両手をがっしり掴むと、上下にブンブンと振り回し始めた。


 握手というより、もはや歓迎セレモニーだ。


「きっと空さんもライブが終わる頃には魂を撃ち抜かれていますよ!!」


「わ、分かった! 分かったから落ち着けって!」


「はいはい、その辺で勘弁してやるっスよ、高木っち。」

 木村が苦笑しながら、高木の首根っこをひょいと掴む。


「空っちが完全に引いてるじゃないっスか。」


「はっ!」

 高木はようやく我に返り、慌てて俺の手を放した。


「も、申し訳ありません……。また熱くなってしまいました……。」


「またって、自覚あるのかよ……。」

 俺は少し赤くなった手をさすりながら苦笑する。


 (助かった……。それにしても、いつの間にか"同志"にされてるし。)


「騒がせてしまって申し訳ありませんね。ですがライブそのものは本当に素晴らしいですよ。

 私たちも毎回楽しみにしております。真城殿も是非ご覧になってください。」

 土屋が柔らかく微笑む。


「ああ。そこまで勧められると、逆に楽しみになってきたよ。」


「ありがとうございます!」

 高木は今にも飛び跳ねそうな勢いで喜ぶ。


「それでは私たちは会場の準備がありますので、この辺で失礼いたします。」

「また後で会うっス!」

「ライブ会場でお待ちしてます!」


 三人はそれぞれ手を振ると、賑やかな笑い声を残して去っていった。


 ――嵐みたいな連中だったな。


「……すげぇ熱量だったな。」

 静かになった食堂で、俺は思わず息を吐く。


「まぁアイツらが特別濃いってのもあるけど、それだけガルファンが人気ってことさ。」

 翔が苦笑交じりに肩をすくめる。


「なるほどな。特に予定もないし、一度くらいは見ておくか。」

 俺も頷く。


 成り行きとはいえ、あれだけ熱烈に誘われたんだ。

 それに翔まで太鼓判を押すバンド、一体どれほどのステージなのか少し気になってきた。



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