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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 あの世からの再スタート編

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第拾玖巡 心のない人形

 

「――ま(・)る(・)で(・)ロ(・)ボ(・)ッ(・)ト(・)み(・)た(・)い(・)……でしょ?」



「っ!?」

 突然、後ろから声がして俺は思わず肩を跳ね、慌てて振り返る。


 そこには、見覚えのない女子生徒が立っていた。


 肩まで伸びた明るい紫色の髪。

 制服の上からゆったりとしたロングパーカーを羽織り、

 その右手には一匹の狐のぬいぐるみ……いや、パペットがはめられている。


 その狐は口をパクパク動かしながら俺を見つめていた。


「ほれほれ、図星じゃったじゃろ?」

「あはは、上手くいったね♪」


 女子生徒と狐が交互に喋る。

 いや、喋ってるのは同じ人なんだけど。


「……。」


 俺は数秒固まった。


「えっと……どっちがお前なんだ?」


「あははっ!その反応好きだなぁ。」

 少女はお腹を抱えて笑い出し、そして狐の口をパクパクさせる。


「紹介がまだじゃったの。わっちは”妲己(だっき)”ちゃん。」

 続けて自分の胸を指差す。


「で、こっちが”麗奈(れいな)”じゃ。」


「よろしくねぇ。」


「……逆じゃなくて?」


「逆じゃないよ。」


「そ、そうか……。」


 真顔で返され、深く考えたら負けな気がした。


「キミは真城空(ましろそら)君でしょ?」 

 麗奈がニコッと笑う。


「ああ、そうだけど…なんで俺の名前を?」


「クラスメイトだもん。」

 さらりと言う。


「なるほどな。それとさっきの事なんだが…」

 俺は先程から気になっていたことを口にする。


「さっきの女子生徒……あいつのこと何か知ってるのか?」


「……もちろんじゃ。」

 麗奈ではなく、狐の妲己ちゃんが得意げに胸を張る。


「空君はゲームってやったことある?」


「ああ。」


「だったら早いね。」


「簡単に例えるなら、彼女は”N(・)P(・)C(・)”だね。」


「……NPC?」


 麗奈は人差し指を立てる。


「そう、私たちがプレイヤーなら、あの子たちは村人A。

 決められた役割をこなすためだけに存在してる。」


 妲己ちゃんも続ける。


「話しかければ返事もする、案内もしてくれる。でも、自分の意思はない。

 心(・)の(・)な(・)い(・)人(・)形(・)……そんな感じじゃな。」


「……。」


 俺は思わずさっきの女子生徒が歩いて行った廊下を見る。

 言われてみれば、どこか機械的だった。


「でも、なんでそんなものがいるんだ?」


「ここは現世を再現した世界だからだよ。」


 麗奈は窓の外へ目を向ける。


「人だけでは足りないところを埋めるための存在。

 背景を作るためのエキストラって言えば分かりやすいかな。」


「なるほど……。」


 納得したような、したくないような――そんな気分になる。


 すると麗奈は軽く肩をすくめた。


「まぁ、気にしなくて大丈夫だよ。悪さもしないし、ちゃんと会話も成立する。

 向こうの世界でも毎日すれ違う人全員を気にしないでしょ?それと同じ。」


「……そういうものか。」


「そういうものだよ。じゃあ教室まで案内するね!」


 麗奈はにっこり笑う。

 その笑顔は太陽みたいに明るい。


「レッツらゴーじゃ!」

 妲己ちゃんが勢いよく片手を上げる。

 パペットとは思えないほど生き生きと動き出す狐を見て、思わず苦笑する。


「器用だな、それ。」


「この子は相棒だからね。」


 麗奈は狐の頭を優しく撫でた。


「一人で喋るより、二人で喋る方が寂しくないし。」


 その一言に、ほんの一瞬だけ笑顔の奥に、言葉では説明できない寂しさが見えた気がした。

 だが次の瞬間には、最程の調子へ戻っていた。


「ほらほら、グズグズしておると置いていくぞ?」

 妲己ちゃんが俺を手招きする。


「ああ、分かってるよ。」

 俺は苦笑しながら、その後ろを歩き始めた。


 しかし先程のNPCと呼ばれていた女子生徒と麗奈の言葉を思い出す。


「……俺も、あ(・)い(・)つ(・)ら(・)と大差ないのかもな。」


 夢もなく、目標もなく、ただ毎日を流されるように生きてきた。


 それはNPCと何が違うんだろう――。


「ん?今、何か言った?」

 麗奈が振り返る。


「いや、何でもない」

 俺は小さく首を振った。


「そっか…」

 麗奈はそれ以上聞こうとはせず、また前を向いて歩き出す。


「じゃあ改めて。クラスまで、しゅっぱーつ!」


 妲己ちゃんが大きく腕を振り、廊下に軽快な笑い声が響く。



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